デジタル庁の「ダッシュボードデザインの実践ガイドブック」を参考に加筆修正
情報分析への思い
当社は、見やすいダッシュボードを効率的に作成するための方法を提供しています。多くの人々が、自身のサービスの推進や意思決定にデータを活用したいと考えていますが、そのデータを適切に利用する方法に迷っていることも少なくありません。ダッシュボードは、データ活用の全てではないものの、非常に有効な手段の一つです。
本資料の目的は、データをわかりやすく可視化することで、数値に基づいた事実を理解し、関係者間で共通認識を広げることにあります。これにより、意思決定の質を向上させ、より良い行動に繋げることを目指しています。また、株式会社アイ・エム・シーで実践してきたデータダッシュボード作成のノウハウに加え、お客様の意見を反映したものを整理し、体系化しています。
本資料が、新しい取り組みを始める際や既存の取り組みを改善する際のヒントとなり、皆様の業務に役立つことを願っています。ダッシュボードの効果的な活用を通じて、貴社のビジネスの成長と発展に貢献できれば幸いです。
1.ダッシュボードの設計とは
ダッシュボードの設計は、利用者の特性や使用環境、目的によって大きく異なります。例えば、会議室のモニターに常時表示するダッシュボード、データ分析を行う専門家が使用するダッシュボード、または意思決定のための資料として利用されるダッシュボードなど、それぞれに適した機能やデザインが求められます。
ダッシュボードの設計を考える際には、大きく二つのタイプに分類することができます。第一に、現状の数値を基準とし、異常や変動に即座に気づいて対応する必要がある「モニタリング型」ダッシュボード。これにより、迅速な意思決定と行動が可能となります。第二に、特定のパターンや異常を掘り下げて分析し、問題の原因を探るための「分析型」ダッシュボードです。これは、より深い専門知識を持つユーザーが詳細なデータ操作と分析を行うためのものです。
「モニタリング型」は、多くの企業や組織での利用シーンにおいて基本となるものであり、迅速かつ正確な意思決定を支援するための重要なツールです。ダッシュボードの効果的な活用方法を理解することで、業務効率の向上やビジネスの発展に活かすことができるようになります。
1-1 データの流れ
1-2 ダッシュボード制作の説明
ダッシュボード制作は「要件の整理」「プロトタイピング」「実装」の3つに分けて作業が進んでいきます。
2.要件の整理
ダッシュボードの設計には、必ずその情報を利用する人々のニーズと目的を考慮することが重要です。利用者が直面する課題や必要とする情報を正確に把握し、それに基づいてダッシュボードを作成することが求められます。
ダッシュボードの主な目的は、必要な情報を効果的に伝え、それに基づいて意思決定や行動を促すことです。しかし、目的によっては、ダッシュボードが最適な手段ではない場合もあります。また、利用者のニーズを満たすために必要なデータが揃わないことも考えられます。
ダッシュボード作成のプロセスを進める前に、目的と制約を明確に整理することが不可欠です。目的が不明確なまま制作を始めてしまうと、後になって「誰のための、何のためのダッシュボードだったのか?」と問い直さざるを得ない事態に陥ることがあります。そのような問題を防ぐためには、まず初めに要件をしっかりと整理し、全てのプロセスの出発点とすることが重要です。
2-1 目的を定義(合意)する
要件を整理するための第一歩は、ダッシュボードの利用者を特定し、その目的を定義することです。次に示すように、5W1H(What、Why、Who、When、Where、How)の問いに従って、ダッシュボードに求められる内容や利用者の属性を明確に記述します。これらの問いに対して適切に答えることが、ダッシュボードの設計要件を満たすための条件となり、その条件を満たすことが最終的な目的となります。
「最上位の目的」や「閲覧の目的」は、基本的には変わりません。一方で、「ダッシュボードの具体的な内容」に関しては、プロトタイプを通じたユーザーとの対話やテストを通じて、柔軟に調整していく必要があります。このプロセスにより、利用者のニーズに最も適したダッシュボードを構築することができます。
2-2 制約条件を理解する
ダッシュボードには、どのような情報でも自由に配置できるわけではありません。例えば、大量のデータをただ羅列するだけでは、利用者にとって有益ではありません。必要な情報を選別し、見る人にとって重要なデータのみを表示することが重要です。また、その選別した情報を実際に入手できるかどうかも、ダッシュボード作成の際の重要な制約となります。
このため、要件定義の段階では「必要な情報」と「制約」の両方をしっかりと理解することが必要です。そして、プロトタイプを作成し、実際の使用状況を検証することで、ダッシュボードに掲載する情報を適切に取捨選択できるようにします。これにより、利用者にとって最も効果的なダッシュボードを作成することが可能となります。
プロトタイプによる検証は、ダッシュボードの改善に役立ちます。検証を通じて、選択した情報が本当に必要か、表示方法が適切かを確認し、必要に応じて調整を行います。こうしたプロセスを繰り返すことで、最終的には利用者のニーズに最適化されたダッシュボードが完成します。
2-3 要件定義ワークシート
基本情報を整理する
達成すべき目標や意思決定者、ステークホルダー、リスク、スケジュールなどの情報を整理します。
目的と制約条件を整理する
ダッシュボードの目的や制約条件を記述します。
3.プロトタイピング
要件整理の次のステップとして、ダッシュボードのイメージがわかるプロトタイプを作成します。要件を整理した後、すぐに実装に取り掛かるのではなく、まずプロトタイプを作成し、チームや関係者と話し合うことで、ダッシュボードの品質、コスト、納期(QCD)の向上が期待できます。
プロトタイプを通じて関係者と対話することには、以下のメリットがあります。
3-1 プロトタイピングのプロセス
①載せるべき情報を整理する
要件を整理した後、ダッシュボードに必要な情報を一覧化します。この段階では、情報を可視化するために使用するグラフの種類も仮案程度で決めておくと良いでしょう。
▶ 必要な情報を一覧化する
ダッシュボードの目的に照らし合わせ、必要な情報や求められている情報を一覧化します。それぞれの項目が、ダッシュボードに載る要素の候補となります。
目的の確認:ダッシュボードの最終的な目的を再確認します。例えば、業績のモニタリング、プロジェクトの進捗管理、マーケティングキャンペーンの効果測定など。
情報のリストアップ:目的に基づいて、必要なデータポイントや指標をリストアップします。売上高、利益率、進捗状況、顧客獲得数など。
▶ グラフ候補を選定する
各情報に対して、適切なグラフの候補を選定します。これにより、プロトタイプを作成する際に具体的なイメージが湧きやすくなります。
グラフの種類の選定:リストアップした情報に対して、適切なグラフの種類(例:棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、ヒートマップなど)を仮案として決定します。
視覚化の意図を明確に:各グラフがどのように情報を視覚化し、利用者にとって理解しやすい形式になるかを考慮します。
②プロトタイプをつくる
要件や必要な情報の整理が終わったら、ダッシュボードのプロトタイプを作成します。まずは骨格となるレイアウトを検討し、その後に文言や色、形、グラフ表現といった表層的な要素を考慮していきます。骨格となるレイアウトが定まる前に表層の表現を詰めることは避けましょう。ダッシュボードの方向性を骨格となるレイアウトから表層的な表現へと段階的にすり合わせることで、手戻りのリスクを軽減できます。
▶ 骨格となるレイアウトを考える
整理した必要な情報を、情報の優先度と関係性を考慮してレイアウトします。優先度に応じて情報の配置や大きさ、順番を決定しましょう。情報量が多い場合は、ページを分割したり、ナビゲーションを設計することで使いやすさを確保します。
▶ 視点を変えてレビューする
一度で最終的なレイアウトが決まることはほとんどありません。情報の構成や強弱を変えた複数の案を検討し、プロジェクト関係者や実際にダッシュボードを利用する人の視点で見直すことで、最適なダッシュボードを見つけ出しましょう。
▶ グラフを配置する
レイアウトが定まったら、具体的なグラフを配置し、最終的なダッシュボードのイメージを図示化します。数値はランダムなダミーデータで問題ありません。情報の意図や議論が必要な点については補足を記載し、プロトタイプの完成度を高めます。
③関係者と話し、フィードバックを得る
プロトタイプを用いて、ダッシュボードの想定利用者やプロジェクト関係者と議論し、フィードバックを集めます。このフィードバックを元にプロトタイプを修正することで、要件をより正確に反映し、実装の準備が整います。
▶ ヒアリングする
関係者にプロトタイプを見せてフィードバックを収集します。この際、ダッシュボードの目的も明確に伝えることで、より適切な意見を得やすくなります。フィードバックは単に「こうしたい」「これを追加したい」という要望だけでなく、「○○をしたいから、こうしたい」といった理由や意図を引き出すことが重要です。これにより、以降のプロセスがスムーズに進みます。
▶ 反映方針を検討する
全ての要望をそのまま反映すると、情報が過多になったり、一貫性が損なわれ、利用者が混乱する可能性があります。要望の理由が明確であり、ダッシュボードの目的に適っているものを選定します。要望の背景となる理由を満たすために、必ずしも要望をそのまま反映する必要はありません。最も適した改善方法を検討しましょう。
▶ 改善する
選定した要望を実現するために、必要最小限の変更を行います。その後、改善したプロトタイプを再度関係者に見せ、要望が満たされているかを確認します。必要に応じて複数回の改善サイクルを繰り返し、関係者が納得するダッシュボードを目指します。
4.情報表現のポイント
4-1 グラフとは
ダッシュボードで主に扱うデータは、数値や文字、記号などの値の集合です。このようなデータを分かりやすく整理する方法として、指標化と表組みが挙げられます。
指標
指標は、人々の判断や行動を左右する情報を端的に表す値です。これは、目的に対する達成度を示す単一の尺度であったり、全体の傾向を表す複数の尺度を合成した値であったりします。一般に、データを正確に反映しながら、利用者にとって有益な情報を提供する指標化を行うことは容易ではありません。
表
表は、値に関連する情報を行と列に対応させ、値や値の集合を格子状に並べることでデータを視覚的に整理して伝えるレイアウト手法です。表内の値は数値や文字に限らず、色や図形によって表現することも可能です。
グラフ
グラフは、見る人の視覚認識を強化するための手段です。グラフは、値を位置や長さといった幾何学的属性に対応させて表現する図であり、これにより値の差分や傾向、構成比などデータが持つ意味を直感的に認識しやすくします。二つの直交する軸を含むものを特にグラフと呼びますが、チャートと呼ぶこともあります。
4-2 グラフの種類と選び方
異なる種類のグラフは、異なる方法で値を表現し、情報を視覚的に伝える際の直感的な認識のしやすさも異なります。例えば、時間変化と傾向を伝える場合には折れ線グラフが適しており、数量を比較して伝える場合には棒グラフが適しています。ダッシュボードの目的と伝えたい情報の種類に合わせて、適切なグラフを選ぶことが重要です。
4-2 グラフ設計の原則
グラフの表現によって、情報の伝わりやすさは大きく変わります。情報が正しく伝わるグラフを作るための原則として、「知りたいことを知れる」「誤解を生まない」の2つを提示します。
▶ 知りたいことを知れる
シンプルにする: 不要な要素を排除し、重要な情報を際立たせます。シンプルなデザインは情報を直感的に理解しやすくします。
意味のある順列にする: データを論理的に配置し、利用者が自然な流れで情報を読み取れるようにします。例えば、時間順や重要度順に並べます。
強弱をつける: 重要なデータを目立たせるために、色や大きさを工夫して強弱をつけます。これにより、視覚的に重要な情報がすぐに認識できます。
待たせすぎない: データの読み取りに時間がかからないようにします。インタラクティブな要素を使う場合も、すぐに反応する設計にします。
▶ 誤解を生まない
わかりやすく表記する: グラフ内のラベルやタイトルを明確にし、データの意味を正確に伝えます。略語や専門用語を避け、簡潔で明瞭な表記を心がけます。
データを定義する: 使用しているデータの定義を明確にし、利用者がデータの背景や計算方法を理解できるようにします。必要に応じて注釈を加えます。
表現を歪曲しない: グラフのスケールや軸の設定を適切に行い、データを誤解させないようにします。データの誇張や縮小を避け、正確な情報を伝えます。
メタ情報を記載する: データの出典や更新日時などのメタ情報を記載し、利用者がデータの信頼性や最新性を確認できるようにします。
5.実装
プロトタイプによってダッシュボードのデザイン案とデータの準備が整ったら、BIツールやその他のソフトウェアを用いてダッシュボードを実装します。実装過程では、当初のデザイン案をそのまま実現できないこともあります。もし実現の障壁となる課題が解決できない場合は、必要に応じてデザインを調整しましょう。
実装手順
ツールの選定とセットアップ
ダッシュボードの実装に使用するBIツールやソフトウェアを選定し、必要な環境をセットアップします。
デザインの実装
プロトタイプを基に、デザイン案を実際にダッシュボードとして構築します。グラフや表、レイアウトを設計し、視覚的に分かりやすいダッシュボードを作成します。
デザインの調整
実装過程でデザイン案に変更が必要な場合は、デザインを調整します。機能的な制約や技術的な課題を解決しながら、最適なデザインを追求します。
ツールの活用
グラフ設計の原則を満たすために、チャート・コンポーネントライブラリやレイアウトグリッドを活用します。これにより、効率的かつ効果的なダッシュボードの実装が可能となります。
実装後の確認
チェックリストの使用
実装を終えたら、チェックリストを用いて、グラフのデザインやデータ、アクセシビリティの観点で問題がないか確認します。
ダッシュボードの評価
誰もが見やすく、操作しやすいダッシュボードを目指し、利用者からのフィードバックを収集して評価します。
アップデートの継続
ダッシュボードのKPI(アクセス数や利用頻度など)の状況、組織の成熟度や関係者のデータリテラシーの変化に合わせて、ダッシュボードの構成や内容を継続的にアップデートします。
お問い合わせ
株式会社アイ・エム・シー
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