見出し画像

特殊相対論: 加速度運動,ニュートンの第2法則の修正

ここでは、ニュートンの第二法則$${ ma = F }$$について、特殊相対論による修正を行おう。

特殊相対論(Special Relativity, SR) でも非慣性系、加速度運動は扱えるのだ。
SRは、重力のない、フラットな歪みのない時空を扱う。
計量はミンコフスキー空間で議論した計量(metric) g=diag(-1,1,1,1) or diag(1,-1,-1,-1)で十分。
内積の保存を考えると,観測者の違いによる座標変換は,SO(1,3)のリー群になる.

一方で、重力、すなわち、空間の歪み、より具体的には、計量が時空の点によって異なってくると、一般相対論(General Relativity, GR)が必要だ。

ここでは、非慣性系の例として、加速度運動についてメモしておこう。


2人の観測者,観測者$${\mathscr{R}}$$と$${\mathscr{Q}}$$がいるとして,観測者$${\mathscr{R}}$$から見たときに,$${\mathscr{Q}}$$が加速度運動している状況について,考えることにしよう.

以下,すべて幾何単位系で表示することに注意.

加速度運動

Proper time

観測者$${\mathscr{R}}$$から見た,観測者$${\mathscr{Q}}$$の 世界線(Worldline) $${\bold{q}(t)=(t, x(t), y(t), z(t))}$$を考える.

このとき,観測者$${\mathscr{R}}$$の時計が$${dt}$$進む間に,
観測者$${\mathscr{Q}}$$の時計が進む時間,すなわち,固有時(Proper time) $${\tau}$$は以下のように計算される:

$${\tau = \int dt ||\bold{q}^{\prime}(t)|| = \int dt \sqrt{g_{ij} \frac{dq^{i}}{dt} \frac{dq^{j}}{dt}}}$$

ここで,$${\bold{q}^{\prime}(t)}$$は以下のようになる:
$${\bold{q}^{\prime}(t) = (1, \bold{v}(t))}$$

Minkowski metric に $${g = diag(1,-1,-1,-1)}$$ をとれば,
$${ ||\bold{q}^{\prime}(t)||^2 = 1 - (\bold{v}(t))^2 > 0 }$$ (timelike)

four-velocity vector, Proper four-velocity

4元速度ベクトル,4-velocity vectorは観測者$${\mathscr{R}}$$の持つ時計の時間の進み$${t}$$を用いて,
$${ \mathbb{V}(t) \equiv \frac{d\bold{q}(t)}{dt} }$$
のように表される.

一方で,固有4元速度ベクトル(Proper 4-velocity vector)は観測者$${\mathscr{Q}}$$の持つ時計の時間の進み,固有時$${\tau}$$を用いて,世界線を$${\mathbb{Q}(\tau) = \bold{q}(t(\tau))}$$のように表示すれば,以下のように定義される:

$${\mathbb{U}(\tau) \equiv \frac{d\bold{Q}(\tau)}{d\tau}}$$

ここで,以下の点に留意しておこう:

$${\mathbb{U}(\tau) = \frac{d\bold{q}(t(\tau))}{d\tau} = \frac{d\bold{q}}{dt} \frac{dt}{d\tau} = \frac{\bold{q}^{\prime}}{\frac{dt}{d\tau}} = \frac{\bold{q}^{\prime}}{\sqrt{1 - v^2}} = \gamma \bold{q}^{\prime}}$$

$${ \gamma = 1/\sqrt{1 - v^2} }$$ はLorenz因子という.
$${ \frac{dt}{d\tau} = \gamma }$$の関係に注意.

すなわち,$${ ||\mathbb{U}(\tau)|| = 1 }$$が満たされており,
さらに $${ \bold{q}^{\prime} = (1, \bold{v}) }$$なので,
$${ \mathbb{U}(\tau) = (1,\bold{v}) / \sqrt{1-v^2} = \gamma (1,\bold{v}) = \gamma \mathbb{V} }$$

(Proper) four-momemtum

次に,静止質量(rest mass, or proper mass)$${\mu}$$(定数) を用いて,
4元運動量ベクトル
$${ \mathbb{P} \equiv \mu \mathbb{U} = \mu \gamma (1,\bold{v}) }$$
を定義する.

観測者$${\mathscr{R}}$$から見た時,観測者$${\mathscr{Q}}$$の質量$${m}$$は,速度$${v}$$によって,
$${ m = \gamma \mu = \mu / \sqrt{1-v^2} }$$
のように変化する.(相対論的質量, relativistic mass)

これより,4元運動量ベクトルは以下のようにも書き表せる:
$${ \mathbb{P} = m(1,\bold{v}) = (m,m\bold{v}) = (m, \bold{p}) }$$

(Proper) four-accerelation

4元加速度ベクトル$${\mathbb{A}}$$は,以下のように定義される:
$${ \mathbb{A}  \equiv \frac{d\mathbb{U}}{d\tau} =  \frac{d^2 \bold{Q}}{d\tau^2} }$$

固有4元速度ベクトルの性質$${||\mathbb{U}||^2 = 1}$$から,
$${ \frac{d}{d\tau} ||\mathbb{U}||^2 = 2 \mathbb{A} \cdot \mathbb{U} = 0  }$$
が成立し,Minkowski 内積における直交性が示される.

four-force

4元力は,以下のように定義しよう:
$${ \mathbb{F} \equiv \frac{d}{d\tau} \mathbb{P} }$$

これは,$${ \mathbb{P} = \mu \mathbb{U} }$$より,以下の重要な性質を持つ:
$${ \mathbb{F} = \mu \frac{d}{d\tau} \mathbb{U} = \mu \mathbb{A} }$$

これが,Newtonの第2法則のfour-vector版である.

また,$${\mathbb{A} \cdot \mathbb{U} = 0 }$$より,
$${\mathbb{F} \cdot \mathbb{U} = 0 }$$ が成り立つ.

演習問題: 等加速度運動(リンドラー座標)

(1+1)次元時空における世界線$${\bold{Q}}$$の加速度の大きさが一定,$${\alpha}$$のとき,$${ ||\mathbb{A}|| = \alpha }$$ の時,世界線の固有時による表示$${\bold{Q}(\tau)}$$はどのように表示されるか?

演習問題: MKS単位系での表現

幾何単位系($${c=1}$$)で記述された内容を3元組立単位系(MKS単位系)に直してみよ.

演習問題: 質量とエネルギーの関係

古典力学では,ニュートンの第二法則から,エネルギー保存則を得られる.
同様の議論を今回の4元ベクトルにおけるニュートンの第二法則に関して行なって,質量とエネルギーの関係について考えてみよ.
さらに,得られた結果について,$${v/c \ll 1}$$の極限で展開し,古典力学との比較を行ってみよ.

回答:全エネルギー$${E}$$を定義する.

先の問題について,全エネルギー$${E}$$の定義が必要なので,これを補足する.

$${ \mathbb{F}\cdot \mathbb{U} = 0}$$を用いて,$${  \frac{dm}{dt} = \bold{f}\cdot\bold{v}}$$を得る.
ここで,$${\bold{f}}$$は非相対論的な力として,$${ \bold{f} = \mu \bold{a} = \mu \dot{\bold{v}} }$$が成り立つ.
すると,$${\bold{f}\cdot\bold{v} = \mu \dot{\bold{v}} \cdot \bold{v} = \frac{dK}{dt}}$$,

ここで$${K = \frac{1}{2}\mu \bold{v}\cdot\bold{v}}$$という運動エネルギーとなる.これより,$${m = K + E_0}$$.
定数$${E_0}$$は,$${v=0}$$の条件から,$${m(v=0) = \mu = E_0}$$.

全エネルギー$${E}$$の定義:
$${E = K + \mu = m}$$
幾何単位系からMKS単位系(3元組立単位系)に合わせれば,
$${E = mc^2 = K + \mu c^2}$$

この定義から,$${\mathbb{P} = (E/c, \bold{p})}$$と表現できる.
さらに,$${ \mathbb{P} = \mu \mathbb{U} = \mu \gamma (c, \bold{v}) }$$, $${ \gamma = 1 / \sqrt{1-(v/c)^2} }$$ なので,
$${ ||\mathbb{P}||^2 = \mu c^2 = (\frac{E}{c})^2 - p^2 }$$
よって,$${E = c\sqrt{p^2 + \mu^2 c^2}}$$ を得る.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?