組織基盤強化がよくわからんPOさんは、この指標セットで乗り切れ!
休眠預金事業の評価活動において、組織基盤強化は1つの盲点だと思っています。
というのも、社会的インパクト評価は事業評価の面が強いからです。以下は、休眠預金事業における評価項目の一覧ですが、この中でも事業対象・事業設計・事業計画・実施状況・事業の効率性といった、事業評価が多くを占めているのがわかります。
その中で⑦組織基盤強化・環境整備が一項目ありますが、評価活動の実践として扱われている事例はあまりききません。中間評価報告書のいち項目として組織基盤強化の欄がありますが、内容は、
事業終了後の事業継続に向けて、多様な財源を模索すると共に、SNSやホームページを通じて多くの市民に情報公開を進めることで共感を高める。
と書かれているけども、活動にはそれに触れられておらず実行されることのないお題目としての文章が書かれていることがよくあります。
これは組織基盤強化を後回しに考えていたNPO業界の悪いクセなのですが、組織基盤強化に伴走支援できるPOさんも実際多くありません。
最悪の対応パターンが、以下のようにPOさんが実行団体の組織基盤強化の無策に迎合することです。
PO:あの、組織基盤強化のところ、全然書けていないと思うのですが・・・
実行団体:あー、実はうちらもあんまり組織基盤強化って取り組んでいなくて、よくわからないんですよね。ぶっちゃけ出たとこ勝負なんです。報告書に、出たとこ勝負とか書けないですよね(笑)
PO:ですよね(笑)とりあえずこれで提出しておきましょうか。
といったやりとりです。それでも、前述したように事業評価がメインですので、10項目の中の1項目にすぎない組織基盤強化がいまいちでも、そのまま通っていったりします。
現実問題として、実行団体も資金分配団体も組織基盤強化について進められる人が少ないということもありますが、事業実施と事業評価でいっぱいいっぱいになっている実行団体さんに、組織基盤強化を自主的に取り組んでくださいというのも無理があります。
こうした状況の中で、評価をしつつ、かつ実行団体にも役立つような活動を最小限かつ効率的にするにはどうしたらいいでしょうか。
組織基盤強化という曖昧な対象を評価する場合には国際基準など、多くの機関や人に認められた指標を使うことで省力化しつつ、それで余った時間を、実行団体と対話に使い、少しでも組織基盤強化を進めてもらうようにするのが現実的だと思います。
以前、別のnoteで、被災地における人道支援活動を行う際の国際基準であるスフィア基準について扱いました。そのスフィア基準には、被災地支援を行っている組織に必須とされる基準として「人道支援の必須基準(CHS)」が定められています。
そこで扱われている9つの基準が以下です。この項目をじっくり読んでみてください。すると、これは被災地の活動だけではなく、すべてのNPOの活動の基盤となることがわかると思います。
影響を受けた地域社会や人びとはニーズに合った支援を受けられる
影響を受けた地域社会や人びとは、必要な時に必要な人道支援を受けられる
影響を受けた地域社会や人びとは、人道支援の結果、負の影響を受けることなく、よりよい備えや回復力(レジリエンス)を得て、より安全な状態におかれる
影響を受けた地域社会や人びとが自らの権利や保障されるべき内容を知り、必要な情報を確保でき、自身が関係する事柄の意思決定に参加できる
影響を受けた地域社会や人びとは、安全に苦情や要望を述べることができ、迅速な対応を受けられる
影響を受けた地域社会や人びとは、関係団体の間で調整され、それぞれが専門分野を補いあいながら過不足のない支援を受けられる
影響を受けた地域社会や人びとは、支援組織が経験や振り返りから学ぶことで、より良い支援が提供されることを期待できる
影響を受けた地域や人びとは必要な支援を、十分な能力のある管理の行き届いた職員やボランティアから受けられる
影響を受けた地域社会や人びとは、資源が支援組織によって効果的、効率的、倫理的に管理されることを期待できる
CHSには自己評価チェックシートがあり、それを入力することでレーダーチャートで表示することができます。
これを活用してもよいのですが、ひとつひとつの項目を5段階で評価していくのは大変な作業となるので、基準にどれくらい適合度があるのかをフィデリティ尺度で測るのが適しています。
フィデリティ尺度はSIMI(社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)のサイトで以下のように説明されています。簡単に言うと、実行団体の実践が、研究で効果が明らかになった実践モデルの内容をどの程度再現しているかを測定する尺度ということです。
例えば、「1.影響を受けた地域社会や人びとはニーズに合った支援を受けられる」であれば以下のようになります。
このように必須基準の大項目には対応する詳細項目があるので、それらの項目が満たされているのかをチェックしていきます。このチェックをしていく作業をする際に、「どうしてできていると判断されるのですか?」と確認する対話をPOと実行団体とでしていくのがよいと思います。
そして、以下のようにチェックされた項目数に応じて評価数値を決めていくのです。
これを9つの領域で実施していき、総合点を算出していきます。それを事前・中間・事後、もしくは事前と事後で行うことで、どれだけ団体が人道支援をする団体として成熟したのかがわかります。
そもそも中間評価の時点で初めて組織基盤強化を扱っても遅いです。だったら事前評価時から事後評価時の組織基盤の変化をみていくことができた方が有意義だと思います。
今回は例として1つの項目をご紹介しましたが、9つ全ての項目をフィデリティ尺度にしたシートをダウンロードできるようようにしています。関心がある方は以下のダウンロードボタンを押して確認してみてください。
※2024年に10年ぶりに9つの項目が更新されています。ダウンロードできる資料はこれまで使われてきた旧版のものです。今後、新しいものに更新をする予定です。
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