リステリア・モノサイトゲネスの研究成果
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の制御に関する画期的な研究成果が発表された。
英国のクアドラム研究所とUK健康安全保障局(UKHSA)の共同研究チームによる本調査は、RTE食品工場における細菌生態系の詳細な分析を行い、従来の清掃方法の限界を明らかにした。
研究方法と結果
・サンプリング: RTE食品工場の床面から、4℃と10℃の環境下で10週間にわたり定期的にサンプルを採取。
・分析手法: 培養法と16S rRNA遺伝子解析を併用し、細菌叢の構成を詳細に調査。
・主要な発見: 清掃前後で細菌叢の構成比に有意な変化が見られなかった(p > 0.05)。
具体的な発見
・リステリア属細菌が清掃前後で検出された。
・Pseudomonas属、Acinetobacter属、Psychrobacter属などが主要な構成要素として検出された。
これらの結果は、工場内の細菌群が環境に高度に適応し、安定した生態系を形成していることを示唆している。
従来の清掃方法では、一時的な菌数減少は達成できても、細菌叢の根本的な変化をもたらすことは困難であることが明らかになった。
バイオフィルムの形成と耐性
リステリア菌は、バイオフィルムを形成することで生存力を高めることが知られている。
バイオフィルムは、複数の微生物が集合して形成する粘着性の膜であり、これが消毒剤に対する耐性を増強する。
バイオフィルムの存在により、リステリア菌は消毒剤から保護され、通常の清掃では完全に除去できないことが多い。
低温適応メカニズム
リステリア菌は低温環境に適応する能力を持っている。
特定の遺伝子(例えば、cspA, cspB, cspD)は、低温ストレスに対する応答として発現が増加し、これにより菌は冷蔵環境でも生存可能となる。
冷蔵温度(4℃)での環境でもリステリア菌が生存し続けることが確認されている。
消毒剤耐性
近年、食品工場で使用される第四級アンモニウム化合物に対する耐性を持つリステリア菌株が増加している。
これらの耐性菌株は、消毒剤への感受性が低く、通常の清掃では除去が難しい。このような耐性菌の増加は、食品安全管理において新たな課題を提起している。
研究の意義と今後の展望
・リステリア制御の新戦略: 単なる殺菌ではなく、有益な細菌の導入による競合排除などの生態学的アプローチの必要性が示唆された。
・バイオフィルム形成メカニズムの解明: リステリア菌と共存細菌群のバイオフィルム形成過程の詳細な調査が今後の課題。
・新規清掃技術の開発: 細菌叢全体を制御可能な新たな清掃方法の開発が急務。
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