【旅日記】ぷらっとこだまでぷらっと常滑へ 朱泥急須を求めて(愛知県/常滑)
おいしいお茶を入れたい。そうだ、常滑まで朱泥急須を買いに行こう。
常滑焼の赤茶色(朱泥)の急須が欲しくなり、金曜日の仕事終わりに「ぷらっとこだま」を使って、ぷらっと名古屋まで行くことにした。
ぷらっとこだまとは、東海道新幹線こだま号の片道指定席とドリンク引換券をセットにした商品で、数千円安く新幹線のチケットを購入できる(ただし、こだま限定)こだまは各駅停車だが乗客が比較的少なくゆったりでき、時間を気にしない旅ならオススメできる。
夜の20時、東京駅でおかしを買い込み、ぷらっとこだまについているドリンク引換券でコーラを買った。普段なら罪悪感が湧くのだが、今日は金曜日だから特別だ。
そして、名古屋行きの新幹線に乗り込む。こだまは各駅停車なので、普段なら通過してしまう駅に止まるのは新鮮だ。時間もあることだし、読書をしながら過ごすことにした。新幹線通勤や出張なのか、周りはビジネスマンが多い印象だった。
名古屋駅に着き、昭和を感じさせる普通のビジネスホテルに泊まった。部屋においてある電話機やベッド周りのボタン類、避難経路図、どれもレトロ感がムンムンと香ってくる。逆に新鮮だ。
名古屋も東京と同じく大都市なのだが、街の雰囲気がどことなく違う。何が違うのか言語化できないのだが。路上に自転車を止めるスポットがあり、チェーンを巻きつけるタイプらしく初めて見た。都会の中にも、レトロなものがちらほら見られた。
常滑へは名鉄を使って行った。名鉄名古屋駅のホームには、2〜3分おきにひっきりなしに電車がやってくる。東京以上の忙しなさだ。どうやら、名古屋駅から分岐して行き先が異なる電車が、同じホームにやってくるのが原因のようだ。ホームの前には、各行き先のパネルがあり、お客が迷わないように次に来る電車の行き先をランプで教えてくれる。
名鉄の特急には「特別車」と呼ばれるJR東日本で言うところのグリーン車がついている。ネットなどから指定席を予約でき、お金を払う代わりに必ず座れる。300円と割と安いので、今回の旅でも使ってみた。より旅感が演出される。一度使ってしまうと次も特別車に乗りたくなってしまう(これも名鉄の策略か)
常滑駅に着いて驚いたのは、2面4線のプラットフォームで比較的大きな駅だったことだ(考えてみれば、特急が停まる時点で小さな駅のはずがない)もっと田舎の駅を想像していた。駅の改札を降りると常滑焼全開といった感じで、道端にあちこち焼き物が展示されている。
道端に飾ってある焼き物を写真に収めながら、ゆっくりと散歩して回った。9時についたので、ほとんど観光客らしき人は歩いていなかった。常滑の工房がある地帯はとても道が入り組んでおり、道が細く坂道も多い。壁が焼き物の土管で敷き詰められていたり、焼き物の置物が道端に飾ってあったりした。
木造で古い建物も多く立ち並んでいる。街を歩いていると、昭和にタイムスリップしたかのようだ。もし、どこかで火事が発生したら大惨事だと思ってゾッとした。ゆっくりと歩きながら、カメラで写真を撮りつつ見てまわった。
10時になり、ぼちぼちお店が開店し始める。片っ端から店を見て回った。急須だけでなく、キャラクターの焼き物だったり、ティーカップやお皿など多種多様な焼き物が売られていた。
最初に買ったのは、焼き物ではなくカレンダーだった。可愛らしいお地蔵さんの二人並んだイラストのカレンダーだ。「あなたがいるから、ここにいる」描いてある言葉も素敵で、吸い寄せられるように手に取った。すでに4月なので、800円にまけてくれた。その後、いくつかの店に入ってみたが「これは!」と思える急須に出会うことはなかった。
ふと、急須をメインで扱っている「スペース滑床」という店に立ち寄った。古民家風の作りのお店だ。一階を見渡すとどこにも急須がなく「どこに急須があるのだろう?」と思っていると、お店の人が「2階にたくさんの急須があるので、見ていってください」と声をかけてくれた。
「天井が低いので、頭をぶつけないように気をつけてください」というお店の人の警告の通り、頭をぶつけそうなくらい低い。階段を一歩一歩踏みしめるとギシギシという音がなって、いまにも階段の板が抜けてしまいそうで慎重に登った。
「急須でいっぱいだー!」と胸をワクワクされていると、お店の人が「もしよろしければ、荷物をこちらに置いてゆっくり見ていってください」と言ってくれた。お言葉に甘えて、カバンなどの荷物を置き、じっくり見て回ることにした。
あとで、店内を写真に取っておけば良かったと後悔した。急須の展示の仕方が素晴らしく、まるで美術館に来たみたいだ。ワクワクしながら急須を眺めていると「黒い急須があると思うのですが、なぜ黒いかご存知ですか?」とふとお店の人が声をかけてくれた。
常滑焼の急須に関して何も知らない私は「いえ…、知らないです」と正直に答えた。通の人向けのお店なのかなとも思ったので、そんな事も知らないのかと思われるんじゃないかと思ってビクビクしながらそう答えた。
そうしたら、お店の人が優しく教えてくれた。「常滑焼では定番の赤茶色の急須と、黒い急須、実はもとは一緒の土でできているんです。つまり、もとは同じ赤い急須なんです。黒い急須は、釉薬で色を付けているのではなく、焼き上げた急須を炭で燻すことで黒い色を出しているんです」と言っていた(記憶違いがあるかもだが)
いろいろなサイズ・形や色の急須があったが、The常滑焼の急須である「朱泥急須」が欲しかった。中には、急須の横に文字が彫ってあるものがあり、目が止まった。まじまじとその急須を眺めていると「最近だと、文字を彫った急須は数が出ないんですよ。その急須は、奥さんが文字を掘っているんですが、最近は歳で細かい字を彫るのに難儀しているみたいです」とお店の人が教えてくれた。
今のようにカラフルな色や模様を出せなかった時代、同じ朱泥急須でも変化をつけるために、彫り模様をつけたり字を彫ったりしたそうだ。安い急須だと奥さんたちが駆り出されてせっせと彫っていたようだ。最近ではそのような手間暇のかかる彫りものをした急須はあまり作られないと聞いた。
他にも急須を見て周ると、黒色でやや平べったい、おまんじゅうを少し潰したようなカタチの急須を見つけた。両手で急須を包み込めてしまうような、なんとも可愛らしいフォルムだ。「そちらの急須を作っている作家さんは、水の切れも良くて熱烈なファンが多いんですよ。作家さんの人柄も良くて、うちの店のものも全員ファンなんです」とおっしゃっていた。
悩ましい。希少性の高そうな文字の彫られた朱泥急須か、見た目が気に入ったおまんじゅうのような可愛らしいフォルムの黒色の急須にするのか。悩んだ末、おまんじゅうフォルムの黒色急須に決めることにした。湯呑みもほしいと思ったので、近くにあった湯呑みを合わせて購入しようとした。表面が黒でサラサラした良い手触りで、内面が白色の渋い感じの湯呑みだった。
そうしたら、お店の人が申し訳無さそうに「すいません、5つセットなんですよね。バラ売りできたらいいんですが…」と。その後、お店の人が何やら雑誌を開いて私の方に見せてくれた。「そちらの黒色の急須には、真っ白な湯呑みが合うと思いますよ」とアドバイスをいただいた。系列店で白い湯呑みを売っていたと思うから、もし良かったら覗いてみてくださいとありがたいことに情報もいただいた。
購入する急須を両手で大事に持ち、お店の人に恐る恐る慎重に渡す。落としたりしたらいけないので。梱包して手渡してくれたときに「大事に末永くお使いください。」と言われた通り、これからずっと使い続けようと思う。
「お湯をいれるとピタッと蓋が急須に吸い付くことがあるので、蓋を取るときは驚かず粗相をなさいませんように。」とも言われた。これも、蓋と急須がピッタリのサイズに設計されているからなのだろう。
次は教えてもらった店に行ってみた。店に入ると、目当てのお猪口に近いサイズの真っ白な小さな湯呑みを見つけた。3つあったのだが、釉薬のかかり方が微妙に異なっており、じっくりと吟味してうち1つを購入した。
お店の中には他のお客さんもいて、お店の人との話が聞こえた。「実は常滑ではいろいろな種類の土が取れるので、様々な色の焼き物を作家さんの創意工夫で作れるんです」と言っていた。常滑焼というと朱泥の色を想像しがちだが、現代ではそうではなく実に色とりどりのものが売られている。
目的の急須ん購入することができ、お昼も近づいてきたので、事前にチェックしておいたハンバーガー屋さんに行くことにした。「セントラルダイナー」というお店の名前で、50年代のアメリカをイメージした店内となっている店だ。
また、ビーフのパテには地元の知多牛を選択することもできる。昔の洋画がディスプレイに流れていたり、メニューの書いた看板、どれを取っても昔ながらのアメリカ風の雰囲気を感じさせてくれる。本物のハンバーガーを食べた気がした。
旅日記#5(2024/04/06)
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