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【ライブレポート:NIYOCO】圧倒的衝動が無人のフロアを越えて衝撃を放つ!

私は今、震えている。これから何万人、いや何十万人の心に届く可能性を秘めたバンドの、おそらくは最初のオフィシャルレポートを書くことになるかもしれないからだ。

何を大げさなことを…と思う人もたくさんいるだろう。しかし、あの夜の配信ライブを観た人ならば、この言葉が決して冗談でも、盛っているわけでもないことをわかってくれるのではないだろうか。

NIYOCOは2019年12月に結成した、生まれたてのバンドだ。川瀬(Vo./Gt.)、末永(Ba.)、カンタ(Dr.)による3ピースで、ライブもまだ2本しか経験していない正真正銘の新人バンドである。ブッキングしたIMALAB主宰の今村圭介も、まだ彼らのライブを観たことはないという。

川瀬は自身の詳細なキャリアについて語ろうとせず、住所も不定、何をするのか予想もできない。しかし会えば人懐っこい笑顔と軽やかな喋りで皆を魅了する。ライブに向けてオンラインや対面で何度も打ち合わせをする中、スタッフはライブ当日まで一度も彼以外のメンバーを見ることがなかったとそうだ。

事前打ち合わせを喧嘩を理由にドタキャンし、本番当日も現場に現れるのだろうか…と今村を不安にさせる川瀬。リハでギターの弦を切り、替えを持ってきていないことが発覚してスタッフを慌てさせる。手加減できずにリハも1曲目から全力でやり切ろうとするため、喉が壊れるのではないかと周囲はハラハラ…。

そんな川瀬が率いるNIYOCOがIMALAB企画によるオンラインライブ「IMALAB LIVE EXPERIMENT #01 」のトップバッターを飾った。感染症対策として無観客で行われる今日のライブで、規格外のこの男はどんなステージを見せてくれるのか。イベントに関わる全ての人が不安になりながらも、それ以上にワクワク、ドキドキしていた。

そして迎えた開演。司会進行である今村、そして沢田チャレンジ(ザ・チャレンジ)が川瀬について「無職でホームレスで引きこもり」と紹介し、画面はステージを映し出す。

「ホームレスの引きこもりが輝きます。よろしくお願いします」

川瀬がそう告げるとギターをかき鳴らし、ライブが始まった。オープニングを飾るのは“オールドオアダイ”だ。彼の魅力であるハイトーンで伸びのある声が画面いっぱいに広がる。重厚な末永のベース、そして小柄な身体をものともしないカンタのドラムが川瀬の歌声をしっかりと支えていた。束になってかかってくるような迫力ある音圧は、配信にありがちな物足りなさを払拭しており、現場の空気すらも画面を通じて伝わってくるようだ。川瀬のボルテージはあっという間に最高潮。喉が張り裂けんばかりの絶叫、いや、絶唱に鳥肌が立つ。

一方でカメラはフロアにいるひとつの影を捉える。「それ」は常にステージにいる川瀬を凝視しているような佇まいだ。彼らは「それ」に向かい、必死で音楽を届けていた。

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ちゃんと喋りたいのにうまく喋れない。不器用な川瀬のMCは言葉の奥にある思いとともに、心に刻まれていく。

「一生懸命ロックンロールやりましょう」
「ロックンロール大好き!」
「ロックンロールに愛を込めましょう」

そんなメッセージとともに《ステージではあれこれ考えて君らが嫌いなJ-POPと何が違うの?》と、ジャパニーズロックの矛盾を辛辣に歌う“ロックンロールなんて”を披露する。

ハンドマイクを握り激唱する川瀬。ギターの音が欠けることになっても、末永の分厚いベースがしっかりとサウンドを組み立てていた。ますますテンションを高めていく中、ギターネックがマイクスタンドを倒すほどの激しいアクションが繰り広げられる。まるで命を削るかのようなライブ。いつ機材が死んでもおかしくない。いつ誰かが怪我をしてもおかしくない。それほどヒリついたステージだった。

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これほどのライブにもかかわらず、フロアにいる「それ」は微動だにしない。

「何も反応ないのでわからないから、一方的に愛を送っています」

少し戸惑ったような言葉を聞き、あらためてこれが無観客のオンラインライブであることを思い出すような、それほど臨場感あふれるステージが展開していた。

3曲目は“マフエル”。タタン・タンと跳ねるカンタのドラム。そして末永のメロディアスなベースラインが気持ちいい。軽やかでポップなサウンドと対照的な「死」を連想させる歌詞の組み合わせがこの歌の大きな魅力だ。
《ファッション鬱おっちんで》
《所詮底辺の命 お天気様に及ばずに》
といった独特の歌詞が聴く者に鮮烈な印象を与える。

きらびやかな光の下で愛や希望を歌うアーティストがいる一方で、「無職&ホームレス&ひきこもり」の立場から生死を綴る彼らは自ら必死に光を放っていた。

ここでライブは大きく動く。蹴とばしたギターを抱きかかえたあと、川瀬はおもむろにフロアへと降りていき、とあるカメラの前に立った。彼の表情がアップになり、「怖い顔しないで。不器用なだけですから」とつぶやく。

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カメラが切り替わると、そこに映し出されたのは、頭にiPhoneを巻かれたマネキンの姿。そう、フロアにいたひとつの影の正体はマネキンだったのだ。「それ」の目の前に立ち、一対一で対峙した川瀬はiPhoneのカメラに向かい、まっすぐな瞳を輝かせて“夏風邪”を歌った。

先ほどまで野獣のようだったNIYOCOが、胸がきゅんとなる美しいメロディを奏で、儚さや喪失を描いた切ない歌詞を響かせる。鬼気迫る形相から穏やかで優しい笑顔まで様々な表情を浮かべ、少年のような無邪気さも垣間見せつつ歌う川瀬のボーカリストとしての破壊力も凄まじい。

マネキン相手に歌う、この瞬間だけを切り取ればシュールな絵だ。しかしここまでのライブを観てきた視聴者であれば、この構図にむしろ心を動かされたのではないだろうか。NIYOCOは最初からずっと、マネキンを通じて「私」に歌いかけていたのだ。文字通りの全身全霊で。

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濃厚なライブも、あっという間に最後の曲へ。演奏を始める前に、川瀬は素直な気持ちを語りだした。

「一生懸命な目で見ててくれるから一生懸命歌いました」
「泥臭いとか暑苦しいとか思うかもしれないけど」
「ホントにこれしかなくて必死で生きてます」
「明日からコンプレックスにまみれて」
「自信がない生活に戻りますけど」
「何かあっても歌を歌えることは幸せ」
「歌を聴いてくれる人がいるのは幸せに思います」

そして自身の右胸辺りを指さして「この辺見といてください」と告げると今日の最後を締めくくる、彼らの今の代表曲“存在ビーム”を全力でもって表現した。魂からの叫びと無垢な笑顔。エモーショナルな川瀬の歌唱に食らいついていくリズム隊の演奏も素晴らしい。彼の爆発的なパフォーマンスが空回りにならないのは、土台となるバンドとしての確かな技術があるからだと思う。また、今日のライブを撮影したTOKYO COLORS TECによる、躍動感たっぷりのスリリングな映像との相性も抜群だった。

《頑張んなくていい 今するべきことは クソな奴らに存在ビーム》
《生きてたってしょうがないから 僕はずっと生きる事にした》

喪失や死について歌ってきた彼らが最後に伝えたメッセージは、自らの存在をビームに乗せて放つこと。そして生きるということだった。

結成からほどなくしてコロナ禍が世界を覆ったうえ、フロントマンは無職。そんなNIYOCOが、誰かに認めてほしいんだとドン底から空を見上げて歌い叫ぶ。

残り時間もあとわずか。曲がアウトロにさしかかったタイミングで川瀬はフロアへ突入する。感情と行動のコントロールを失った彼はマネキンを蹴り倒すと、頭に巻かれていたiPhoneに向かってキスをした。そしてステージに戻り3人ピタリと音を合わせて、演奏にピリオドを打つ。そのまま倒れこんで動けなくなっている川瀬の姿をカメラが捉え続ける中、情熱と衝動にあふれた強度たっぷりのライブは幕を閉じた。

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今日の彼らのテーマは【マンツーマンライブ】であり、たったひとりのあなたに向けてライブをしたいという思いで挑んでいた。

ライブ冒頭で「ホームレスの引きこもりが輝きます」と語った彼ら。極上のメロディと心の深淵に届く言葉、そして激烈なパフォーマンスを武器に、カメラの向こうにいる無数の「あなた」に向かってNIYOCOという強烈な存在ビームを放った。その姿は泥臭くても眩しいくらい輝いていたと思う。

これは事件だ。私たちはNIYOCOと出会ってしまったのだ。

「あなた」の数が100、1000、10000…と増えていくことを願わずにはいられない。今、心に傷や痛みを抱えている多くの人たちにNIYOCOを知ってもらいたい。彼らの曲やライブはそんな人たちにこそ、一筋の光を見せてくれるのではないだろうか。

自らを「IMALAB一期生」と名乗るNIYOCO。彼らの大いなる飛躍を期待したい。

(ほしのん)

セットリスト
1.オールドオアダイ
2.ロックンロールなんて
3.マフエル
4.夏風邪
5.存在ビーム


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