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大学を辞めたい!? 大馬鹿者! 【息子への手紙】
大学を辞めるって?
何の為に? DJをやる為かい? 音楽関係の仕事をしたいからって?
大馬鹿者!
ピアノもギターも弾けない、楽譜も読めないお前が、ほんの1年かそこらレコードかCDを擦ってつなぎ合わせた音楽で簡単に生きてゆけるほど世の中は甘くはない! もしその世界でプロとして生きて行けるとしても、それには「才能と血の滲むような4~5年の歳月が必要なはずだ」と、思う。
お前は未だ19歳、今決断するには若すぎる。何があっても、大学だけは卒業しなさい!
大学の授業だけは仕事と思って何とかこなして、残る時間を全部CDでも何でも自分の好きなことに使えば良いじゃないか。今のお前には不満ばかりの面白くない大学生活に思えるだろうが、大学時代ほど自由で最高な時代は二度とないことが後になって振り返れば判る。この先の長い人生を考えたら、大学4年間は「自分探しの為に使ってもいい時間」だ、と思う。あと3年そうやってみて、大学卒業の資格も取って、その間DJの力を付けて、それからプロになっても遅くはない、と思う。
大学に行きたくても行けない人や、試験で入れない人から見たら、お前の言っていることは贅沢で我が儘なことなのだよ。もっと世の中を広く見なさい!
自分の心の底をもっともっと深くまで掘ることが、今の君にとっては大事なことである。本当に自分に合った生き方を、自分に合った仕事を探しなさい!
それに、人生は上手くばかりは行かないものだから、どんなに好きな道でも、どんなに才能に恵まれていても、運が悪かったり、人に恵まれなかったりで、芽が出ないこともある。そんな時、次の生き方を探したり、仕事を変えたりする時が必ず来ることになる。その時、大卒の資格がどれ程役に立つか、親としては強く強く君に言いたい!
例えば、大卒の資格はパスポートのようなものだろう。大学中退で仕事を探すのはパスポート無しに外国に行くようなものだよ。自分の行きたい国に行くには、パスポートがないと、国境の塀を命懸けて越えていくしかなくなるよ。密入国しようとして捕まって、強制送還されている人が大勢いるのを知っているだろう。
もちろん、大学を卒業していようといまいと、その仕事で成功するかどうかは努力と才能と運で決まるけど、その仕事に就けるパスポートがあるかどうかは大きいだろう。
考えてごらん! 大学を卒業したら、どうせお前は自分の好きな道に進むのだから、それを今急いでやるか、卒業してからやるかの違いしかないのだよ。だから、親の願いは「大学だけは卒業してから、そうして欲しい」と願うだけだ。
子を思うそんな親心を無視してまで、君が今すぐに大学を辞めてDJの世界に走りたいのなら、良いだろう、好きにしなさい。自分の判断だけで大学を辞め、DJの世界で生きてゆける自信があるのだろうから。その代わり、私は親として君を応援することを止めるしかない。一切の仕送りはしないので、自分一人の力がどの程度なのかやってみなさい。君が選ぼうとしている道はそれほど易しい道ではなさそうだから、それくらいの自信と覚悟をしていないと難しかろう。
もう一度言うが、今大学を辞めてDJの世界に入る決断をするのは早すぎる!もっとよく考えて、未だ自分がよく見えていないことに気づいて、親の子を思う気持ちも考えて、大学生活を有意義に続けて行くことを、親として心から願うだけだ。「後戻りの橋を壊して、男らしく自分の道を進みたい!」と言うお前の気持ちは評価もするしよく判るが、それを言うには未だ君は経験が足りていないことを知るべきだ、と思う。
それに、思い出してみると、お前が3歳で亮爾(りょうじ)が6歳の夏、庭のビニールのプールに入る時、亮爾は足の先を入れたり出したりして確かめてからそーっと入るのに、お前はいきなり手を広げて胸からバシャーンと倒れ込むのには驚いたものだ。お前の向こう見ずというか、度胸が良いというか、その性格の強さにはその後も何度も驚かされた。
お前は「太爾(たいじ)」という名前のとおり「図太い男」だと思うから、楽しみでもあり、心配でもある。「思ったことを後先考えずにやってしまう」という自分の性格の長所、欠点もよく見ながら、もう少し自分を知り、人を知り、世の中を知ってから、誤りのない判断をする訓練を必要としている時期、年頃。今はそういう時だ、と思う。
学部が嫌なら学部を変わればいい。それが大学生活だと思う。
よく考え、よく学び、よく遊べ! そんなに急ぐな!
もうしばらく親の運んだ餌で、遠い将来を睨んでゆっくりと大きく飛び立ってくれ!
未だ翼もよく生え揃わない前に飛び立つのは木の上の巣から地上に転げ落ちて、餌もとれずにのたれ死ぬか、狼の餌になるだけだろう。
優れた勇気と決断だけでは人は生きられない。飛び立つ為の十分な準備をして、飛び立つ時を待ちなさい。
それが私と母さんのお前に対する心からの願いだ。判ってくれるだろう。
( 1997年 5月13日 記 )