成功の階段が近づいた! 【息子への手紙】
パリ行きが決まったそうでおめでとう! 凄いじゃないか。
グレートクリップ美容室では技術を覚えるのに時間がかかりすぎるからとバンブルアンドバンブル美容室に移って未だ5ヶ月しかたっていないのに。パリのファッションショーでモデルさんのお世話をするアシスタントらしいじゃないか。ビッグチャンスだね。
オーナーと支配人に呼ばれて、
「パリに六ヶ月ほど修業に行ってくれないか、と相談されたがどうしようか」
と興奮して電話してきた君に「行きなさい!」「アメリカは家族の協力がないと単身赴任などできない国なので、妻も納得してくれましたし、両親が妻の面倒をみてくれますので、ビッグチャンスを私に下さい!と早くオーナーに返事しなさい!」
「うん判った!」
とのやりとりの後どうなったか心配していた。
入社してたったの5ヶ月でそうなるのは君の「素材」と「意欲」が支配人の目に付いたからだろう。
ニューヨークの美容室に修業に行ってもアシスタントで髪洗いだけを5年やって帰ってきた日本人が多いと聞いている。
おそらく君の場合は高校からアメリカに行き、勉強するよりダンスと遊びでアメリカに溶け込んだ君の過去が、今美容室に来るお客さんや支配人にとって、とても良い感じで受け止められているのだろう。言葉も会話も応対も自然にお客さんに通じるのだろう。お客さんのお洒落のお手伝いをするのに会話や気持ちが通じないのでは仕事にならないものね。
手先の器用さと何時も何かと工夫をする癖は私の血を受け継いだのだろう。
4月に帰ってきた時、頭のマッサージで私の頭の痛いのを治そうとしてくれたね。
髪洗いの後マッサージをするのに「ただ洗っていたって面白くないので、いろいろ工夫している内にお客さんの肩こりや頭の痛いのを治せるようになったし、お客さんから自宅に来てマッサージをしてくれないかと頼まれた」と言っていたね。
そういう姿が目に付いて「これは使える!」となったのだろう。とてもいい状態だと思う。
今君は「成功の階段」を上り始めた!
自分が今やりたいことの為に夢中になっていると、必ずそれを見ている先に階段を上った先人が居て、手を差し伸べて階段の一段上まで引き上げてくれる。そういう状態を繰り返しながら上に上がって行くものだ。
いくら素質があり努力をしても自分一人の力では高くまで階段を上がることはできない。先に成功した人の手助けがあって初めて階段を次々に上っていける。これを「運」がいいと言うこともできる。
しかし、「運」の正体は「階段の上から手を差し伸べて引き上げてくれる人に巡り合い、そのチャンスをものにし、そのことに感謝する心の中にある」と思う。
今君を引き上げてくれる支配人とオーナーへの感謝を忘れないようにすることが大切である。おめでとう! 頑張れよ!
ところで、今年1月の君と彼女の結婚披露宴の時、一番初めに挨拶してくれた若宮光俊さんが9月18日4時24分に肺繊維症で亡くなられた。
抗ガン剤の副作用で肺が石のようになる病気だった。
奥様に聴くと、あの時も肺の具合は相当悪く、我々に判らぬように自宅で酸素吸入して来てくれたのであり、出ない声を振り絞って挨拶してくれたのだそうです。
そんな彼の葬儀の時、お別れの言葉を言おうとしても、体が震えて声を出せなかった。
私にとって親以上兄弟以上の人だから、「貴方といると楽しかった。・・・・・・有り難うございました」としか言えなかった。私の人生に人のつながりの広がりとゴルフの楽しみを持ち込んで下さったかけがえのない恩人だった。
「生きていることは楽しいことだ」と気づかせてくれた人だった。「仕事ができなければ面白くない、しかし、楽しむこともできなければ生きている意味がない」そう思えるようになったのはこの人のおかげです。
君も大変にお世話になった若宮さんのご冥福を祈って下さい。この方こそが私や君の人生の階段を引き上げて下さった一人だからです。
そして、これから出会うであろう君の恩人達への感謝の心を忘れないようにしながら、思いっきり成功の階段を駆け上がりなさい! 君の時代が始まったのだから。
( 1998年9月25日 記 )