本日の脚本〜登場しない主人公③〜
ちまちまと過去作品「磁界」を公開しているシリーズ、第三弾の舞台は広告代理店に勤める男の部屋です。
このパートは、「彼氏の家にいたら、別の女が来ちゃった」という地獄絵図をそれぞれがどう抜け出すか、というお話でございます。
「この泥棒猫!!」
って本気で言う人を書きたい一心で作った記憶が・・・
という訳でシチュエーションは地獄なのに、かなり笑いが起きていたパートでもあります。
これはもう是非、よくわからん男とよくわからん付き合いをしている全ての女性に読んでいただきたい!
そしてこの辺りから、第一弾、第二弾で公開したパートがどんどん繋がってきます。
第一弾と第二弾は、「脚本あれこれ」というマガジンにまとめてますので宜しければそちらも読んでみてくださいまし〜
では、のっけのト書きから様子がおかしい彼氏と彼女をどうぞ〜
*男の家
椅子が一脚あり、大貫が座っている。その周りの床をひたすら雑巾がけしている晴。晴は掃除をしながら喋り続けるので、途中で息切れしたり、ヨイショと言ったりもする。
晴 でもね、考えてみたら、私は違うけどあの人達にはあの店の中の狭い世界が全てなんだよね。その中に合わない人がいたらもう悲劇じゃない。だからあの人達の愚痴とか、それぞれがぞれぞれの悪口言うのはね、なるだけ聞いてあげようって思うんだよ?でもやっぱり限界ってあってさ。なんかね、息苦しくなっちゃうんだよ。溺れちゃうの、負の言葉の海に。で、あんまりその海につかってると飲み込まれちゃうっていうか、私も同じ言葉で喋るようになっちゃいそうで怖いよ。だってホラ、噂話してるおばちゃんとかって皆同じに見えない?
大貫 ・・・
晴 よく夫婦の顔は似てくるとか言うけどさ、あれって他の人間関係もそうだと思うんだよね。その業界の顔、みたいなのってあるでしょ?私もこのままあそこにいたら飲食店の人の顔になっちゃいそうで嫌なんだよ。一応、今浮いてる自信はあるんだけどね
大貫 ・・・
晴 浮いてる分注意されたりもしちゃう訳じゃん?だからこう、心を無にして聞くんだけど、それでも時々しんどくなっちゃうな。しかも来週から週5出てくれとか言われちゃって、あ、そうだ、最近岡田さんから連絡あった?
大貫 ・・・
晴 この2週間くらい無断欠勤してるんだけどね、今日岡田さんに用があるんだけど連絡とれないからって店にきた人がいて
大貫 へえ
晴 どうしちゃったか知ってる?
大貫 岡田駄目だなー終わってんなー
晴 なんかあったの?
大貫 もしかしたらあいつ夜逃げってパターンかもよ
晴 え?なんで
大貫 借金あるんだよ。たぶん何百万って額の
晴 うそぉ!そうなの?
大貫 俺あいつに50万貸してんの
晴 えええ!
大貫 先月か。えらい久々に連絡来たと思ったら、実は競馬にハマって借金がどうのこうの始まって
晴 うん
大貫 俺に言ってくるってことは相当なんだよ。俺があいつのこと見下してるの多分気づいてたから、その上で金貸してなんて普通恥ずかしくて言えないだろ?
晴 うんうんうん
大貫 ってことは、もうちょっとやそっとじゃどうにもできない額借りてて、しかもあいつ聞いてないのにわざわざ変なところでは借りてないよって言ってきてさ。それはつまり変なところで借りてますってことだろ
晴 うわぁ、岡田さんやばいね。大丈夫なのかな?
大貫 死んでんじゃない
晴 えっ
大貫 死んだら金にならないか。戸籍とか内蔵とか売ってんじゃない?
晴 ひえー・・・!
大貫 (笑う)
晴 え?
大貫 落ちるとこまで落ちたよな
晴 そうだね・・・
大貫 あいつさ、高校の修学旅行来てないんだよ
晴 え、なんで?
大貫 インフルエンザ。全く流行ってなかったのに
晴 かわいそう・・・
大貫 あと大学のときバイト先が立て続けに潰れて貧乏神って呼ばれてた
晴 うわ・・・(バイト先が同じことに気づいて)は、やばい!
大貫 結局そういうのって自分が呼び込んでんだよな。シナリオのことだって俺が世話してやるって言ったときに乗ってくりゃいいのによ。どうでもいいプライドなんて捨てて
晴 あーやっぱりあそこ負の海なんだ。嫌だよー
大貫 ・・・まあ、あの店で岡田が働いてなきゃ俺たち出会ってないけどね
晴 ふ。うん、岡田さんが店に大貫さん連れてきてくれて良かった。感謝
大貫 ・・・
晴 この前ね、もう岡田さんもいなくなったし、良いかなと思って、ほら社員でお局様がいるって言ったじゃん?あの人に彼氏CMプランナーなんですって言ったの。そしたらすごい羨ましそうにされちゃった
大貫 ああ
晴 店長と料理長にも今度はっきり言わないとなんだよね。特に店長はちょっとやばいんだよ。お客さんにも名刺渡されたりしたら言っていい?
大貫 今日撮影で相武紗季に会ったんだけど可愛かったなー
晴 あ、へ〜・・・
大貫 あれ、お前同い年じゃない?
晴 ああ、ああ、そうかも〜・・・
大貫 ・・・
晴 全然違う、よね〜。私なんかドラマ出ても台詞ない役ばっかりなんだよね。事務所の人とも最近あんまうまくいかないんだ
大貫 お前に回せそうな仕事あったら回すよ
晴 ありがとう。大貫さんの作るCM、私も出たいよ
大貫 うん
晴 うん。ねえ、今度休みとれたら温泉とか行かない?
大貫 ・・・
晴 近場で日帰りでもいいから行きたいな。だめですか?
大貫 (掃除の)手止まってるよ
晴 あ、ごめんごめん。なんか最近日常があまりにも日常なんだよね。別に毎日それなりに生きていけちゃうんだけど、それじゃ女優としてダメなんじゃないかーって思ってね。もっと自分の人生の主役として生きなきゃ、っていうか。たまには非日常も味わうべき、っていうか。それで温泉とかね、どうかなって思ってるんだけど
大貫 ・・・
晴 ふぅ。(一息ついてから掃除を再開して、円を描くように拭いていて、ふと気づき)ルンバ!私この前ビックカメラでルンバ見てきちゃった。あれすごいね、便利だよね。ほらよく昔さネジまいて離すとジーって歩くおもちゃあったじゃない?あれが壁にぶつかった姿って、なんか無性に悲しくなったのね。進めないのにじーじー頑張ってるのが幼心にも空しいっていうか。でもルンバはぶつかってもちゃんと自分で対処できるの。賢いよね
大貫 晴のが賢いでしょ
晴 (嬉しくて)うはっ。はー、もうお上手ですね。じゃあ晴、頑張ります。晴ルンバ!
大貫 ・・・
晴 (大貫の足があるので)お、お、ちょっとどけてくださーい
大貫、どけない。
晴 どけてくださいな。ここが掃除できませんよー。足をちょっとね、よいしょ
晴、大貫の足を持ち上げようとするが大貫はすぐに足を降ろしてしまう。
晴 もー。ハイ通りますよー
晴、無理矢理大貫の足の下を通るが、頭が足を抜けた瞬間、大貫に足と椅子の間に挟まれる。
晴 ちょっとー!やめてよー動けないよー
大貫 太った?
晴 え、分かる?
大貫 分かるね
晴 やばい、やっぱり痩せた方がいいかな?
大貫 デブは嫌いだね
晴 わかった、今すぐダイエット始めます
ドアチャイムの音。
晴 あれ。また何か買ったの?
大貫 さあ、どうだっけ?
晴 私出るよ
大貫 出なくていい
晴 あれーー
大貫、インターホンの会話ボタンを押す。
大貫 はい
理英 (声)きちゃいました
固まる大貫と晴。
理英 (声)って、言ってみたかったんですよねこの台詞
大貫、ボタンから手を話す。
大貫 会社の後輩だわ
晴 うん・・・
大貫 あ、資料届けるように頼んどいたんだよ
晴 あ、そう・・・
ノックの音。大貫、無言で玄関へ行く。ドアを開ける音。
晴 あがってもらおう
晴、ダッシュで玄関へ
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