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スポーツ代理人~スポーツビジネスのプレーヤー~

 スポーツビジネスの一翼を担う存在で、欧米では巨額のディールをまとめるスポーツにおける代理人という存在。最近では日本でもスポーツ選手や指導者等(以下、まとめて「選手等」)の契約に代理人が関わっていることがわかるようなニュースを多く目にするようになってきました。

 また、サッカーに関してですが、学生さんや全く業種の異なる社会人の方から、「どうやったら代理人になれますか?」というようなご質問を受けることも増えてきており、スポーツ代理人が新卒で就きたい職業又は転職でなりたい職業になってきているのかなあという印象を受けております。

 そこで、スポーツ法務の第1回は、スポーツ代理人について書いてみたいと思います。

目次
1.スポーツ代理人とは
2.スポーツ代理人の必要性
3.スポーツ代理人になるために
4.スポーツ代理人の収入
5.まとめ


1.スポーツ代理人とは 
 代理人というからには、一般社会ではやはり弁護士が想起され、弁護士が選手等の契約に関わっているケースも当然にあります。例えば、日本のプロ野球の場合には、球団側は日本の弁護士資格保有者にしか代理人資格を認めておりません 。

 もっとも、世界的にみてもスポーツ代理人は必ずしも弁護士資格を保有しているわけではありません。スポーツ代理人制度は、弁護士資格を有していない者にも、一定の条件を満たした場合に、選手等の契約に関する交渉・締結を当該選手等になり代わって行う権限を与える制度といえます。

 なお、呼称についてですが、スポーツ代理人は、場面や媒体等によって、単に代理人やエージェントと呼ばれたり、スポーツエージェントと呼ばれたりすることもありますが、本記事では便宜上一般化する場合にはスポーツ代理人と統一して記載し、別の呼称で記載している場合には個別の競技団体等によって定義されているときと整理してもらえればありがたいです。

2.スポーツ代理人の必要性
 スポーツ代理人の存在は時にはメディア等で悪しき者として書かれることもあります。しかし、スポーツ代理人がいることによって、選手等が自分自身の力だけでは成し遂げられないことを実現させられるのもまた事実です。

 選手等は、シーズン中は、自らの職責である試合やトレーニング等に集中しており、空き時間も様々なメンテナンス等の自己投資をしているため、自らの契約に向き合う物理的時間が限られています。また、そのような時間的問題もさることながら、実際に選手等が自らの契約について、クラブの契約担当者と対等以上に交渉したり、国内外の移籍先となるクラブや球団を探し出したりすることができる専門性も乏しいのが現状です。

 そこで、選手等がスポーツ代理人を利用することで、よりよい選手・指導者キャリア(そのキャリアは次のキャリアの礎にもなります。)を歩むことができる可能性を広げることができます。これがまさにスポーツ代理人制度の最大のメリットです。その点では、スポーツ代理人制度の趣旨は、一般社会の代理制度同様に、私的自治の補充・拡張であると言えるでしょう。

3.スポーツ代理人になるために
 上記の通り、弁護士でない者がスポーツ代理人になろうとする場合、一定の条件を満たす必要があります。その一定の条件のうち多いのが、各競技の国際競技団体(以下、「IF」)や国内競技団体(以下、「NF」)が実施する認定試験に合格した者に対して、スポーツ代理人のライセンスを付与するものです。

 バレーボール、サッカー、バスケットボール、ラグビー、ハンドボールの5競技について、IF及びNFのスポーツ代理人に関するルールの存在並びにその概要、さらには日本の国内リーグにおける当該ルールの有無についてまとめてみました(2021年5月時点)。

5競技におけるエージェント制度外観

 その他としては、アメリカの4大メジャースポーツに代表されるように、選手会の公認を受けることを条件(注1)(注2)とするものや、フランス(注3)やイタリア(注4) のようにスポーツ代理人制度が国内法で制度化されその要件を満たすことを条件とするものが挙げられます。

 ちなみに、現行のサッカーにおける仲介人制度は、元々はIFである国際サッカー連盟(以下、「FIFA」)が管轄し、各国NFが主催するライセンス試験に合格した者に発行されるライセンスを取得する選手エージェント制度でした。

 しかし、FIFAは、2015年に同制度を廃止して、同年から欠格事由に該当しない限り登録することによって誰でも選手等の契約の仲介をすることができる仲介人制度を採用しています。そのため、専門性のテストがないという点において、他競技と比較してかなりハードルが低い異色な制度となっています。

 もっとも、FIFAは、この仲介人制度を間もなく廃止し、再びライセンス制度に戻すことを決定しています(サッカーにおけるスポーツ代理人制度の変遷や新ライセンス制度については次回以降の記事で改めて詳しく書こうと思います)。

 無論、スポーツ代理人がその業務を日本で行う場合には、弁護士法の問題が懸念されますが、その点についてはここでは深入りしないこととします。

4.スポーツ代理人の収入
 欧米のスポーツ代理人のトップたちは、年間の報酬(手数料)が日本円にして100億円前後にも及び、これは東証マザーズ上場企業のうちでも売上ランキングの上位にくる企業に相当するスケールです。

 毎年アメリカの経済雑誌Forbesがスポーツ代理人の稼いだ報酬ランキングを出しており、その2020年版によると、上位20人の担当競技を多い順に見てみると、野球7人、サッカー5人、アメフト5人、バスケ2人、ホッケー1人となっています。

 この数字だけを見ればスポーツ代理人はなんとも夢のある仕事に見えるかもしれませんが、日本においてはそのマーケット規模の小ささや制度上の制約から欧米と同様には語れないのが現状です。

 例えば日本の野球のスポーツ代理人(日本プロ野球選手会公認選手代理人規約第2章第1条では「選手代理人」と定義(注5))の場合には、前述した様に、事実上日本の弁護士にしか資格が認められていないことに加えて、一人の選手代理人が複数の選手と代理契約を締結することも認められておりません。

 そして、同規約第5章第1節第16条において、「登録選手代理人は、その業務の報酬について、選手と協議するにあたり、選手会が別途定める選手会報酬ガイドラインを十分に尊重するものとする。」と定め、同条が引用する選手代理人報酬ガイドライン(注6)第4の1によると、期間契約の場合には、年間で選手年俸の1~2%程度が標準であるとされています。

 つまり、年俸(参稼報酬)が1億円であるプロ野球選手と代理契約を締結している選手代理人の報酬は、期間契約とした場合には、売上ベースで100万円~200万円程度ということになり、かつ、それが野球の選手代理人としての全報酬ということになるでしょう。

 他方で、日本のサッカーのスポーツ代理人(公益財団法人日本サッカー協会(以下、「JFA」)が定める仲介人に関する規則では、「仲介人」と定義(注7)され、仲介人には代理権限はなく、仲介人のした行為は本人に効果帰属しないとされています。)の場合には、JFAに登録することにより欠格事由に該当しない限りは誰でも仲介人になることができ、一人の仲介人が仲介契約を締結することができる選手等の人数に制限はありません。

 そして、同規則第9条4項において、JFAは、推奨事項として、選手仲介人の報酬を、「取引(選手契約の締結)1件あたりについて、当該選手契約の契約期間における基本報酬総額の3%を超えてはならない。」と定めています。もっとも、実務的には各仲介人は、10%を上限としてそれぞれの会社毎に選手仲介人の報酬を定めているのが現状です。

 そのため、30人の選手等と仲介契約を締結しており、当該選手等の年間基本報酬の平均値が2000万円である仲介人の報酬は、売上ベースで、手数料率が5%ならば3000万円、10%ならば6000万円程度になるでしょう。

Jリーグにおける仲介人手数料の推移(2015年度~2020年度)

 JFAは各年度毎にクラブと選手が仲介人に支払った報酬をそのホームページで公開しています。その資料を基に、2015年度から2020年度までの日本における仲介人報酬を棒グラフ化したものが上の表になります(単位:百万円)。

 2020年度は、新型コロナウイルスの蔓延による影響をサッカー界も受け、仲介人報酬も下がっており、統計上のピークである2019年度であっても、クラブと選手が支払った手数料の合計は約18億円に満たない程度です。

 このように、日本におけるスポーツ代理人市場は、欧米のそれと比べるとまだまだ小さいものであると評価できます。

5.まとめ
 第1回はここまでです。ここまで読み進めていただいた方は、スポーツ代理人についての概要がおわかりいただけたのではないでしょうか。次回は、サッカーにおけるスポーツ代理人について書いてみようかと思います。
                               以上


注1:公認を受けるための要件の一つとして、MLBPA(https://registration.mlbpa.org/ApplicationInstructions.aspx)、NFLPA(https://nflpa.com/agents/how-to-become-an-agent)、NBPA(https://nbpa.microsoftcrmportals.com/agent_application/)では試験が課されていることが確認できますが、NHLPA(https://www.nhlpa.com/the-pa/certified-agents)では試験については確認できません。
注2:各競技の学生アスリートのスポーツ代理人をしようとする場合には、全米大学競技協会(NCAA)のルール及び各州ごとに採択状況の異なる統一アスリートエージェント法(UAAA)に留意しなければなりません。
注3:参考として、Décret no 2011-686 du 16 juin 2011 encadrant la profession d’agent sportif
注4:参考として、Art. 1, comma 373, della legge 27 dicembre 2017 n. 205
注5:日本プロ野球選手会公認選手代理人規約(http://jpbpa.net/up_pdf/1323667310-234201.pdf)
注6:日本プロ野球選手会・選手代理人報酬ガイドライン(http://jpbpa.net/up_pdf/1284365196-852236.pdf)
注7:JFA仲介人に関する規則(https://www.jfa.jp/documents/pdf/basic/br25.pdf)

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