ゲルハルト・シュタイデル
映画『世界一美しい本を作る男〜シュタイデルとの旅』(2010年)は美しい。ドイツ・ゲッティンゲンに所在する出版社シュタイデル。代表のゲルハルト・シュタイデル(Gerhard Steidl)は、世界中の作家と美しい書籍を作り、彼らの作品を世に知らしめることに貢献してきた人物である。
劇中ではシュタイデルが海外に住む作家を訪ね、打ち合わせを行う様子が流れている。作家との会話を見るだけで、シュタイデルがどれだけ作家から信頼されているかがわかる。映画では本作りにおけるABC的な進行から、感覚的なさじ加減を言葉にする場面まで惜しみなく見せている。嗚呼なんという職人技を持った人物なのであろう。
シュタイデル社は企画から印刷まですべて一貫して自社で行っている。つまり、シュタイデルが、本作り全ての過程を、細部に至るまでディレクションできるという理想的な環境であるということだ。だからこそ、作家がゲッティンゲンまで出かけて一日中シュタイデルの元で過ごす気持ちもよくわかる。作家自身の想いを実現できる、安心して信じられる環境に身を置き、すべてを現場でぶつけたいと思わせるのだろう。
著者が確認した限り、劇中でシュタイデルが時間をともにした人々は以下のとおり。
Martin Parr, Joel Sternfeld, Robert Frank, Ed Ruscha, Karl Lagerfeld, IG Metal Gewerkschaft, Khalid Al-Thani, Günter Grass, Robert Adams, Jeff Wall
いまは亡き写真家 ロバート・フランク(1924-2019) とシュタイデルとの数回の会話シーンが収められていた。それらは、過ぎ去った時間を感じさせるものであった。彼らがこれまで積み重ねてきた協働とその蓄積による深い信頼感と友情であろうか。印象的であったのは、ロバート・フランクがとても可愛らしい素振りを見せていたことだ。まるでシュタイデルに子猫のように甘えているかのようだ。気の許せる関係なのであろう。そして、ドイツ語、英語を交えながら、二人で言葉を探して、会話を紡ぐシーンも忘れられない(両者の母国語はドイツ語である)。