西成・飛田新地の元遊郭「鯛よし百番」の鯛ちり

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しばらくぶりに書く。
大阪・京都を旅行してきたので、忘れないうちにメモを残しておこうと思う。

1日目のメインは、大阪市は西成区、飛田新地の料亭・鯛よし百番だ。

写真はない。
飛田新地は歓楽街……いわゆる「さかり場」というか、ド直球に売春街なので、通りの写真撮影は禁止されている。
鯛よし百番の中で建物や料理を撮影する分には問題なかったかもしれないが、特に確認しなかった。

実際どう売春街かというと、和風の狭小住宅、といった感じの「料亭」が通りにずらりと並んでいる。
京都の置屋とは似ても似つかないし、長屋とも違うと思うが、私の語彙では何とも説明できない。
その「料亭」の玄関の間口は非常に広く、それらが全部開け放たれている。
土間の向こうの小上がりに、ものすごく綺麗な若い女性が座っている……胸の谷間を強調した服だったり、マイクロビキニだったり、トップレスの人もいたような気がする。
そこを見込客(男性数人の小さな団体が多い)がぞろぞろと歩き、そのセクシーな女性の隣にいる中年以上の女性(いわゆる「やりてばばあ」ということだと思う)が声を掛ける。
その声に応じたらどうなるかは……体験していないので何とも言えないが、まあそういうことである。
途中で交差点に進入してきたタクシーに、出勤してきたものと思われる女性が乗っていたが、メーター表示が結婚式の時のように「寿」だったのが印象的だった。
そういう風習なのか、あるいは何かのお祝い事か。

とにかくそんな通りのうちの1本の果てにある料亭が鯛よし百番である。
上で紹介した「料亭」が遊女を置く「置屋」なら、鯛よし百番が派遣先である「茶屋」と料理を作る「仕出屋」を兼ねていたのだと思う。
現在は、古い建物で目を楽しませ、おいしい料理で舌を楽しませる場である。
なお、ぐるなびで予約できるので素人にも優しい。

料理旅館として営業していたこともあるという話も頷ける広い玄関の脇には、川もないのにいきなり短い橋が架かっている。
靴を脱ぎ下足箱に入れてから見える応接間は、日光東照宮風の金ぴかでド派手な意匠。
天井や壁の絵も神社風で、その辺に平気で葵紋があしらわれている。
ある種あっけらかんとした派手さを、これまでこの空間で流れてきた時間の長さが和らげて趣に変えているように見える。
そういう種類の建物が好きな私のような人間にはこたえられない建物だ。
男子トイレは、入口前には浮世絵風の絵もあり、中も廊下より一段上がっていて……とかなり面白いつくりだが、女子トイレはごく普通の引き戸を引いた先にある、というのは、元来は男性のみを客としたであろう遊郭らしい。
(ちなみに、便器は洋式で掃除も行き届いているので、その辺りが気になる人も安心して入れると思う。)

なお、食事をする部屋は、元の用途を考えれば当然だが全て完全個室である。
今回は少人数でお邪魔したうえ、連れが初めてではなかったこともあり、床の間に掛け軸と花、といった、どちらかというと地味な落ち着いた部屋だったが、その日の予約の都合と行く人の希望次第である程度の部屋の融通は利くらしい。
やはり豪華な襖絵などを見たいなら、人数を揃えて宴会をするのが良いだろう。
当然、大人数で大酒を飲みたくさん食べるお客に一番良い部屋が用意されるものだと思う。
もちろん少人数で行っても、部屋や廊下の襖絵や杉戸絵、廊下や階段の意匠や中庭を見るだけでも十分楽しめる。

料理は、会席料理から舟盛り、お願いすれば鯛の姿焼きまで揃っているらしいが、今回は鯛ちりコースにした。
それが名物というわけでもないかもしれないが、「鯛」よし百番、という名前からして、一見の客はこれを選ぶ確率が高いのではないだろうか。
鯛ちり鍋のほか、付出し、お造り、焼物または揚物、鍋の〆のうどんにデザートで税込5,500円。
お邪魔した時は焼物にナスのトマトグラタン、デザートに季節のフルーツを頂いた。
全体的に、建物代という感じもなく、量とおいしさに見合った値段だと思う。
なお、飲み物代は別で、アルコールもノンアルコールもある程度揃っていた。

白身魚の鍋を「ちり」と言うのは関西特有だと思うが、身が「ちりちり」縮む様からそう言うのだと今回初めて知った。
昆布だしで鯛のあらを炊いた後、豆腐、椎茸、白菜、ネギ、水菜、マロニーなどの具材を煮ながら、鯛の身を箸でつまんだまま鍋に沈めてしばらく待つ。
「ちりちり」と身が縮んだら、ポン酢風(ポン酢より柔らかい味でおいしかった)のたれで頂く。
お刺身で食べられる鮮度の鯛だそうなので、火の通りは気にせず柔らかいうちに。
鯛ちり自体がこのとき初体験だったが、これがうまい。
ほどよく脂の乗った魚とあっさりした出汁、シンプルな具材が調和して、かといってあらの出汁もよく出ているのでそっけなさはなく滋味深い。
ジンソーダを飲んでいたが、ビールや日本酒もよく合う味だと思う。
身を食べ終わったらあらをつつくが、臭みもなく身もかなりついており、これまたおいしい。
そしてその出汁でうどんを軽く煮込むと、これまたうまい。
最後は結構、この出汁を飲んでしまった。
ごちそうさまでした。



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