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第3話:RCEP原産地規則における「関税分類変更基準でのトレーシングの許容」についてのご質問と回答

(2021年9月27日、JASTPROウェブサイトに第62話として公開。
2021年12月14日、note に再掲。2022年4月1日に編集版を再掲)

 JASTPROホームページの質問コーナーに読者から、「調査研究」コラムの「原産地規則の研究」欄に掲載された「RCEP原産地規則・手続に関する協定条文の概要」(統合版)(2020-12-28)(https://www.jastpro.org/files/libs/744/202104071338355582.pdf)23-24頁について質問をいただきました。


(筆者小論の再掲)

「RCEP原産地規則・手続に関する協定条文の概要」(統合版)(2020-12-28) 23-24頁関係箇所

 関税分類変更基準において除外された材料の取扱い

 6 関税分類変更基準において他の関税分類からの変更を明示的に除外する場合には、その除外は、非原産材料についてのみ適用する旨を規定する

  本項の規定は、TPP11 及び日米貿易協定 (米国ルール) と比較すると興味深い結果となる。

RCEP: 関税分類変更ルールへの除外は、除外された非原産材料にのみ適用される。したがって、当該除外された非原産材料を産品の生産に直接使用することはできないが、 当該非原産材料を構成する原材料を関税分類が変わる段階まで遡及して締約国で生産すればよい。当該除外された非原産材料に付加価値基準又は加工工程基準が併設されていれば、そちらの基準を満たすことでも産品の原産資格を得ることができる。

TPP11: 関税分類変更ルールは、除外された当該特定の材料が(TPP11 品目別規則上の)原産品であることを要求することを意味する (附属書 3-D 第 A 節 3(d))。したがって、当該除外された非原産材料を産品の生産に直接使用することはできないが、当該除外された非原産材料が品目別規則を満たすような生産工程で TPP11 域内で生産されたものであればよい。

 文理解釈上、上記のような理解が可能となるが、通常、「当該除外された材料」は関税分類が変わる段階まで遡及して(すなわち、「当該除外された材料」の品目別規則が項変更ルールであれば当該材料の項に分類されない粗材料まで遡及して)生産すれば原産資格を得るように設定されていることが多いが (筆者注:数千品目に設置された品目別規則をすべて確認しているわけではない)、TPP11 の場合には当該除外された材料の品目別規則を確実に満たしていることを確認しつつ最終産品の原産性判断を行うべきと思料する。


(Q)   関税分類変更基準で「除外された関税分類」に加工される前の段階から締約国において生産されていれば原産品と認められるのか?


 さて、ご質問は、「『当該除外された非原産材料を産品の生産に直接使用することはできないが、当該非原産材料を構成する原材料を関税分類が変わる段階まで遡及して締約国で生産すればよい』(再掲引用下線)との記述は、当該非原産材料が、除外された関税分類に変化する前の段階から締約国において生産されていれば原産品と認められる、という趣旨でしょうか。」とのご確認がありました。筆者の解釈もその通りです。

 続いて、「そうすると、これはそもそも『非原産材料』ではないような気がしており、・・・」とのお尋ねがありました。お尋ねの 「『非原産材料』ではない」 ものは「関税分類変更基準から除外されている材料」 と理解した上で、TPP11の部分の解釈とあわせて筆者の考え方を改めて以下に述べます(意見にわたる部分は筆者の個人的意見であり、関係当局の公式見解ではありません。)。

 まず、再掲引用部分の記載内容は関税分類変更基準で例外が置かれる品目別規則の解釈について、RCEPとTPP11の規定の表現は異なっていても「ほぼ」共通した解釈が可能である旨を述べたものです。ここで、関税分類変更規則を適用するに当たっての基本原則を改めて確認しておくと、「関税分類変更は非原産材料に対してのみ求められる」 ということです。逆に読むと、原産材料であれば関税分類変更の対象から外れることを意味します。ただし、TPP11の規定は、若干の 「縛り」 がかかる表現となっています。以下の具体例を示しながら説明していきます。

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