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第6話 USMCA協定(繊維・繊維製品)

(2019年2月6日、第27話として公開。2021年12月15日、note に再掲。)

 USMCA繊維章の総則規定部分は、条文の構成・内容においてTPP11に類似した構造を採用しているものの、繊維貿易に係る管理方法については旧NAFTAの構造をそのまま引き継いでいます。繊維・繊維製品に係る品目別規則は、USMCAにおいては、形式上、原産地規則章に一元化されているものの、その規定の意味するところは旧NFATA、TPP11とそれほど大きな差異はなく、ヤーンフォーワードを原則とする極めて厳格な規則が設定されていると言えます。

 しかしながら、旧NAFTAと同様に、USMCAにおいても限定的ではありますが緩和策が用意されており、附属書6‐A(特別規定)、付録1(非原産の繊維製品に適用される関税上の特恵待遇)、付録2(非原産の綿又は人造繊維の布及び製品に適用される関税上の特恵待遇)、付録3(非原産の綿又は人造繊維の糸に適用される関税上の特恵待遇)及び附属書6‐B(変換表)において、旧NAFTA規定をそのまま引き継いだ管理方法が規定されています。

 これらの方法は、非原産の繊維・繊維製品を一定量、特恵待遇で輸入することを認める一種の関税割当のようなもので、Tariff Preference Levels (TPLs)と呼称されます(類似規定は、日メキシコ協定にも存在します。)。しかしながら、「非原産」といってもTPLsを享受するための要件が設定され、その要件とは「布の裁断から衣類への仕上げまでを一つの締約国で行う」という内容で、決して第三国の衣類の迂回輸入を許容するような内容ではありません。具体例を挙げてみましょう。

 まず、紡織用繊維の織物類を製品にしたものである第62類の衣類に対しては、以下の類注が第62類の衣類に対して横断的に適用されます。

『類注1: 第62類の製品は、域内において布を裁断し、縫い合わせる等の組み立てを行い、衣類の外側の布(襟と袖口を除く。)が以下のもの(単独または複数)から構成される場合には原産品とする。

  •  第5801.23号のベルベット生地で、重量比で85%以上の綿を含むもの、

  •  第5801.22号のコール天生地で、重量比85%以上の綿を含み、1cm当たり7.5以上のうねりがあるもの、

  •  第5111.11号又は第5111.19号の生地で、78cm未満の織機で英国においてハリスツイード協会が定める規則に従って手織りされ、かつ、同協会によって証明されるもの、

  •  第5112.30号の生地で、重量が1m²当たり340g以下であって羊毛の重量比が線獣毛の20%を下回らず、人造繊維の短繊維の15%を下回らないもの、又は

  •  第5513.11号又は第5513.21号のバチスト生地で、76メートル番手を超える単糸の正方形状であって、1cm²当たり60から70の縦糸及び横糸を含み、1m²当たり110gを超えないもの

 これらの衣類については、類注3から5までを適用しない。

類注2: この類の産品が原産品であるかどうかを決定するに当たり、当該産品について適用される規則は、当該産品の関税分類を決定する構成部分についてのみ適用されるものとし、当該構成部分は、当該産品について適用される規則に定める関税分類の変更の要件を満たさなければならない。(TPP11の規定と同じ。)

類注3: 本協定の発効の日から18ヵ月後に、第5806.20号又は第60.02項の生地を使用するこの類の衣類は、類注2の規定にかかわらず、当該生地が域内で糸から形成され、仕上げられたものである場合に限って原産品とする。

類注4: 本協定の発効の日から12ヵ月後に、第52.04項、第54.01項又は第55.08項の縫糸、又は縫糸として使用される第54.02項の糸を使用するこの類の衣類は、類注2の規定にかかわらず、当該縫糸が域内において形成され、仕上げられたものである場合に限って原産品とする。

類注5: 第5209.42号、第5211.42号、第5212.24号及び第5514.30号の青のデニム生地からなる衣類については、本協定の発効の日から30ヵ月後に、当該衣類がポケットを含む場合には、当該ポケットの袋生地は、類注2の規定にかかわらず、域内おいて完全に形成された糸から域内において形成され、仕上げられたものでなければならない。

 その他の衣類については、本協定の発効の日から18ヵ月後に、当該衣類がポケットを含む場合には、当該ポケットの袋生地は、類注2の規定にかかわらず、域内おいて完全に形成された糸から域内において形成され、仕上げられたものでなければならない。』

 一方、第62.01項から第62.04項までの男女の外衣に適用されるUSMCA品目別規則は、以下のとおりです。

『第62.01項から第62.04項までの各項の産品への他の類の材料からの変更(第51.06項から第51.13項、第52.04項から第52.12項、第53.10項から第53.11項、第54類、第55.08項から第55.16項、第58.01項から第58.02項、又は第60.01項から第60.06項まので各項の材料からの変更を除く。)。ただし、当該産品が、域内において、裁断され(若しくは特定の形状に編まれ)、かつ、縫い合わされ又は組み立てられることを条件とする。(繊維からの域内一貫生産(ヤーンフォーワード))』

 これに対して、附属書6‐A(特別規定)第C節(他の締約国の非原産品への関税上の特恵待遇)においては、以下の規定があります。

『一つの締約国において、域外で生産又は得られた生地又は糸から、裁断され(若しくは特定の形状に編まれ)、かつ、縫い合わされ又は組み立てられる第61類又は第62類の衣類であって、本協定に定める他の特恵待遇の資格要件を満たす場合には、付録1(非原産の繊維製品に適用される関税上の特恵待遇)で特定されるSME(square meters equivalent: 平米値)による年間数量を限度に特恵税率を適用する。』

 さて、ここでUSMCAとTPP11との差異についても触れておきましょう。TPP11の繊維章は旧NAFTAの色彩が強く現れていたものの、地域協定であることから参加各国の個別要望を勘案して「供給不足の物品の一覧表」(Short Supply List: SSL)が策定され、TPP域内で調達不可能な繊維材料の原産性を問わないこととしています。すなわち、USMCAが特定要件を満たす一定量の非原産品に特恵待遇を与えるのに対して、TPP11では特恵輸入できる産品はあくまでも原産品に限られるという原則を貫き、域内で調達できない特定の非原産材料が生産に使用された場合に限って、その材料の原産性を問わないという措置を採用している訳です。

 それでは、以下にUSMCA繊維章の構造を俯瞰した上で、主要条文に解説を加えてみたいと思います。

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2025年は「トランプ2.0の世界における原産地規則」を中心に連載します。このマガジンは、日本の二国間貿易のみならず、第三国間のFTAの活…

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