「浅間山麓の風、日本一野菜に合う酒を目指す」浅間酒造(群馬県吾妻郡長野原町)訪問記
西に浅間山(あさまやま)、南に軽井沢を抱く、草津温泉の麓、創業1872年の浅間酒造(あさましゅぞう)。浅間酒造は町の80%が山に囲まれた、緑豊かな長野原町に蔵を構えている。(航空写真を見てわかる通り山の中の谷に位置する場所)
日本酒「浅間山」とは
地元で作付けした原料米を使用した“本当の地酒”を造りたいという想いから風土に合った品種を選定し、自社で栽培に取り組んでいる。ヴィーガン認証も取得している為、海外のお客様にも紹介しやすい。
群馬県の蔵だが長野県との県境にある為、県に所属する酒ではなく、浅間山麓の環境を味わいに落とし込む酒を目標とする。
奥上州の非常に乾燥した環境でこの土地でしか生みだせない「からっ風」のようにサラッとした味わいを目指す。
現社長の櫻井武さんは、農大卒業後、山形県の蔵元 出羽桜酒造「出羽桜」での修行を経て蔵に戻る。
「浅間山」ブランド立ち上げのきっかけは、当時販売していた銘柄が秘幻・草津節だった為、会社の名前となった「浅間山」を大切にしていきたいという想いから。 過去の大量生産蔵を脱し、小規模高品質の酒を目指している。
浅間酒蔵のブランドを位置付けとすると
・秘幻→浅間酒造の伝統を守る(酒質・販路等)
・浅間山→浅間山麓の景色(いろ)を全国・全世界に届ける
・あさまやま→浅間山麓で浅間山麓を愉しむ(観光センター限定)
2022年より一段と酒質が向上し、150周年を迎え浅間山ブランドをリニューアルした。
今後は群馬県という枠組みに縛られず、長野・群馬にまたがる浅間山麓を掲げ、山、森、風、火山、川、など自然環境を取り入れた酒へ、ブームを追うのではなく、その環境でしか生まれない味へ進んでいく。
蔵を取り巻く豊かな自然環境
蔵付近の環境として標高の高さがあげられる。
草津温泉は標高1156m、その麓町に位置する蔵は約600m。標高が高いため沸点が異なる。造り手としてはデメリットかもしれないが、その環境から生まれる液体に価値は宿る。
草津エリアは夏場でも朝と晩は20度を下回るほど涼しい。蔵のエリアは真夏の8月以外は平均気温は30度を下回り、その涼しい環境から生まれる酒米が特徴の一つ。浅間山麓では改良信交(かいりょうしんこう)、ひとごこち、山恵錦(さんけいにしき)が栽培されている。
また大きな特徴として、からっ風が挙げられる。山に囲まれたエリアの為、常に風が吹いている(からっ風は山を越えて吹きつける下流気候のことを指す)
北と西の山麓から吹き下ろす風は、山を越える際に空気中の水分が雨と雪となり山に降る為、山を越えてきた風は乾燥した状態となる。
よって空気が乾燥している為、湿度が少なく麹がドライになりやすい。
これも蔵の大きな特徴の一つ。
豊富な群馬の食文化
群馬県は年間を通して晴れが多い気候と、水はけのよい土壌が小麦の栽培に適しており、古くから小麦栽培が盛んで全国有数の産地となっている。
その為三大うどんの一つ水沢うどんや焼き饅頭などの他、独自の進化を遂げるうどん、パスタや焼きそば、もんじゃなど小麦粉を使った様々な粉食文化が広がっている。
群馬県は海なし県だが、実は素晴らしい肉と野菜に溢れている。
都内三ッ星トップレストランが扱う鳥山畜産の赤城和牛、江原養豚のえばらハーブ豚未来、軍鶏系の上州地鶏、そして何と言っても野菜王国・群馬。
全国第1位のほうれん草から、胡瓜、枝豆、キャベツ(夏秋キャベツは1位)、レタス、白菜、蕗、茄子(夏秋なすは1位)、スイートコーン、やまのいも、ごぼう、春菊、青梗菜など多岐にわたる。
10~1400mの高低差のある耕地から様々な食材が生まれる。
春は山菜が多く採れ、熊、猪、鹿などジビエも採れる。
地酒の意味「おいしい」の一歩先へ
日本酒が各家庭で当たり前に飲まれていた時代から、現在日本酒を取り巻く状況は大きく転換した。日本酒業界全体は変革期を迎えている。
浅間酒造も創業150年を迎え、2023年新たに生まれ変わった。
日本酒はただ消費されていた時代から、飲む意味を求められる時代に。
代々受け継いできた酒造りの歴史、群馬の山の恵みである高原野菜、浅間山が新たにリリースする日本酒は伝統と進化の両方が味わいから感じられた。