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酒はつくるものではなく、自然を信じ、人が導くもの/花の香酒造(熊本県和水町)

この土地であること。日本酒が担う未来。

花の香酒造

熊本県和水町にある花の香酒造は、1902年創業の老舗酒蔵です。
「花の香」の名は創業時に漂った梅の香りに由来し、現在は六代目当主神田清隆さんが「産土(うぶすな)」の哲学を掲げ、環境保全や伝統文化を取り入れた酒造りを実践しています。神社の湧き水と米を原点に、自然農法を通じて、土地と共に歩む酒蔵として、たいへん注目を集めています。

蔵正面

はじめに

今、注目を集める花の香酒造が掲げる「産土」哲学。
では一体これは何なのでしょうか?
その真に迫るべく、過日の10/12(土)、熊本在来種「穂増 収穫祭」が開催されるということで、翌日チームIMADEYAで現地に赴き、収穫しきれず残った穂増の収穫を実際に体感させていただくこととなりました。

まず現地に到着して感じたことは、蔵の歴史と風景を感じる佇まいです。
川沿いの自然豊かな形状に、趣のある建物、暖簾と旗が揺らめき、タイムトリップしたかのような・・歴史を感じるのに空気はきらめいていて。
俯瞰していない、まさに自分自身がタイムトリップしている、その土地が形成しているであろう空気の異質さを感じるのです。

晴天に恵まれた強い日差しの中、そんなことをぼんやり考えていると、間もなくして当主の神田さんが出迎えてくれました。

「こんにちは!」

私達は川を見渡せる蔵の2階の応接間に通されていて、少し息をあげながら階段を駆け登ってくる神田さんを見た途端、時空の歪みがピタッと合わさったような感覚で、もはやもうその歴史の中にいるのでした。

2階の応接間


私はそんな不思議な感覚を持ちながら、座学、蔵見学、そして田んぼへと向かい、どうしてわざわざこの地に来る必要があったのか、を深く理解できたように思います。

はじめに言っておきたい事は、「百聞は一見にしかず」・・。
元も子もないようなのですが、とても膨大な知識と見識、資料があり、そこに根付いた「産土」哲学。
少しでも雰囲気だけでも伝われば・・という想いで今回の見学をここに書き記します。

蔵の眼の前を流れる菊池川

それでは早速座学のスタート!

産土概要

酒造りを通じて地域や文化を守り、発展させることを目指ざします。
この哲学は、酒作りにとどまらず、地域の自然環境や文化的背景を大切にする精神に通じています。具体的には、次のような要素です。

  1. 土着の生産風土:花の香酒造が位置する熊本県玉名郡和水町と菊池川流域の土地特性に基づいた酒造り。この地域の自然環境、地形、岩盤層、水脈、土壌微生物など、地域固有の生命循環を尊重し、それを活かした酒を生み出しています。

  2. 祈りと伝統文化の共有:酒造りにおいては、土地固有の農耕儀礼や神事、祭りなどの「祈りの心」が大切にされており、これが地域文化の継承や自然環境保全にもつながっています。このような「敬いと繋がり」の文化は、今の日本人が忘れがちな大切な感性を再認識させてくれます。

  3. 地域再生と文化の価値の共有:花の香酒造は、酒造りを通じて地域の再生を目指しています。過疎化が進む地域において、自分たちの「土着」を大切にすることによって、地域の価値を再発見し、他者にもその大切さを伝えています。

「産土」の哲学は、土地の自然環境と文化を守りながら、そこから生まれる独自の酒を通じて、地域社会の再生と発展を目指すものです。

資料を元に詳しく解説


大地と水:生命を育む基盤

酒の約80%を占める水。花の香酒造では、阿蘇の火砕流が生んだ豊かな井戸水を使用しています。この水は稲の成長を助け、酒に滑らかな味わいを与える「生命の源」です。また、毎年行われる「水神への祈り」は、自然への感謝と尊敬を象徴する儀式です。


米づくり:風土が生む唯一無二の味

「日本酒は農業だ」という考えのもと、無農薬・無施肥はもちろん、以下のような伝統的かつ環境に配慮した農法を採用しています。

  • 一本手植え: 稲を一本ずつ丁寧に手植えする方法。

  • 畑苗代: 水田ではなく畑で苗を育てる技法。

  • 冬期湛水: 冬の間、稲刈り後の畑に水を張り、地力を高めると同時に生態系を守る手法。

  • 馬耕作: 昔ながらの馬を用いた耕作方法。

  • 在来種「穂増」の復活:幻の米を復活させ、伝統的な生酛造りで酒「ubusuna」として商品化。

  • 地域限定の米使用:全ての酒米を菊池川流域産に限定し、土地の個性を反映。

これらは、現代の効率性を追求する農業とは異なり、自然に寄り添いながら土地本来の力を引き出す試みです。失敗や試行錯誤を重ねつつも、土地の恩恵を信じて米を育てています。


酒造りの信念:「信じ、導き、醸す」

自然の力を信じ、人がそれを導く。酒造りの基盤となる哲学です。

  • 在来種米や伝統酵母の活用:熊本酵母を使用し、地域性を表現。

  • 江戸時代の技術復活:生酛造りや木桶を用い、深い味わいと文化的価値を追求。

  • 新たな挑戦:酵母無添加の自然発酵や低精白米での酒造りなど、革新を恐れない姿勢。


祈りと循環:自然への感謝と共生

自然農法や土地の生態系保護を通じ、健やかな循環を目指しています。
農耕儀礼や祭りの復活を通じた文化継承も、地域の精神性を未来へつなげる重要な活動です。

座学中の神田さん

蔵見学で味わう花の香酒造の世界

圧倒されてしまった座学。これは栄養価の高い、今まで味わったことのないようなものを口にした際の感動と戸惑いにも似ていて、直ぐには消化できない頭を抱え、次は蔵見学へと案内いただきました。

今回は撮影の許可をいただいた一部をご紹介します。

製造場入口
昔ながらの造りの場にはしめ縄が飾られている
木桶蔵
かつてのハネ木絞り見本
道具見本
素敵な写真館も併設
独創的なギャラリースペース
試飲スペースには作家物の酒器が華を添える
弾ける産土
神聖な木桶に挟まれて神田さんと3ショット

さて、座学と蔵見学はここまで。
いよいよ実際に田んぼを見て、体感の時間です・・!

収穫体験

今回のメインテーマは「収穫」。
神田さんに呼んでいただいたのも、田んぼを見なければ産土の哲学は理解できない、と強い信念のもとです。

はて、なにがそんなに違うのか・・なにがそんなに素晴らしいのか・・・。

畑一面には、昨日切り取られたであろう稲の束の跡が、太い幹のようになって残っていて、聞けばこれが一本手植とのこと。

??一本???何十の束に見えますが・・・

これこそ在来種穂増の生命力なのか、一つから分岐してここまで成長するそう。男性の片手でも掴むのがやっとにみえる大きさです。

そして驚きは生命の多様性。
ひとつ田に足を踏み入れれば、バッタやトンボ、カエルに蜘蛛、カマキリに・・・あちこちで、飛んだり跳ねたり這いまわったりのダンス状態です。
こんなに生き生きとした景色に出会えるのは、ここが殺虫剤や除草剤を使用しない無農薬栽培の田んぼだからこそ。

生命力あふれる現場に、立っているだけでパワーをもらえる気分になりました。

そんな気になる収穫の様子はIMADEYA GEEK LIVEにて詳しく撮影しているので、是非ご覧ください^^


手で植え、自然に委ね、見守り、収穫の喜びを手でまた刈り取る・・。
花の香酒造の酒は、地元の自然と文化を丸ごと感じられる「一杯の物語」。土地を愛し、未来を見据えるその取り組みは、まさに「産土」の精神そのものです。
店頭で見かけた際には花の香酒造が醸す想いと味わいをどうぞお酒から体験してみてください。


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