あるプロダクトマネージャーの場合
はじめまして、葉山です。イマクリエイトでプロダクトマネージャー(以下PM)をしています。今日の記事ではPMという仕事についてと、現在の会社においてそれはどういう役割か、何をやっているのか、自分がどう考えているのかを綴ってあります。ご笑覧頂けると幸いです。
■PMについて
IT業界において最近よく耳にするこのPMという役職ですが、名前だけでは業務範囲や内容にピンとこないかと思います。まず著名な方の言葉をお借りして「プロダクトという言葉は単なる製品を指すのではなく、ユーザーと会社が接するすべての部分を含む」と定義しておけば少しイメージがしやすいでしょうか。
PMはおよそプロダクトと関わる全ての要素を取りまとめ方針を決定していきます。
間違いやすい名前にプロジェクトマネージャーという役職がありますがこちらはプロダクトをどのように作るのかに重点を置き、チームメンバーと向き合うことで品質を徹底的に追求しリリーススケジュールなどの管理を行っていきます。
もし区別するなら、PMは「何を」「なぜ」作るのかを考える。プロジェクトマネージャーは「いつまでに」「どのように」作るのかを考える。こう例えられることが多いようです。
(PMのイメージとスキルを表す代表的な二つの図。
引用 左図: codezine様 https://codezine.jp/article/detail/12550 右図: product logic様 https://productlogic.org/ )
ただしIT企業によっては必ずしもPMを配置しているわけではなく、プロジェクトマネージャーと兼業であったり、エンジニア全員に上記のような視点を持たせプロダクトを管理していたり形はさまざまです。ベンチャーキャピタルのCoral Capitalさんの発表によると同社の投資先20社のうち10社がPM不在、またシード、シリーズAに絞ると10社中6社がPM不在のため募集中のようです。よく耳にするようになった仕事とはいえ、実際日本においてはまだそれだけ馴染みのないポジションと言えるのかもしれません。
■イマクリエイトのPM
昨年10月にイマクリエイトがスタートした時点から私はPMとして動くことになりました。もともとは合併前のCanRという会社でプロダクトに関わっていましたが、合併後営業を行う社長以外がエンジニアという組織体制だったこともあり、ビジネス分野とプロダクトとを結ぶ役割として配置されたと認識しています。
合併についてはこちら。
しかし合併直後、案件はほとんどなく社内の人数が少なかったため、PMというよりは、人が足りない部分を全部埋めるという感じで動いていました。外に出ては、数少ないプロダクトであるけん玉VRとCan Golfという武器を片手に様々な企業をまわりデモ、VC周り、事務所に戻ると市場調査、プレスリリースの作成、宣材作成、HP管理など。ゴルフの練習場で実際にボールを打ちながらセンサーでデータをとったりもしましたし、かと思えばトラックを運転して事務所移転作業をしたり来客者用の料理をふるまったりもしました。
(事務所移転後最初の業務はエントランス作成でした)
今でもその「何でも屋体質」は残っているかもしれませんが、まずは若いメンバーによる若い会社なりの文化の醸成を行う時期だったように思います。その後徐々にお仕事の依頼を頂けるようになると人材採用や設備面の見直しに着手し、会社のリソースを最適化していくことで世間一般でいう「プロダクトをマネージメントする」という今の状態になっていったと思います。
■直面したXRならではの問題
イマクリエイトはXR(VRやARなどの総称)を開発する会社ですが1年働いてみて、XRを扱うからこその注意すべき点があることに気づきました。それは大きく2つで、「イメージを伝えにくい」ということと、プロダクトを「どれくらい現実に近づけるべきか」ということでした。
①イメージを伝えにくい
まずわかりやすいところから言うと、プロダクトが3次元であるためイメージを他者に伝えづらい点です。既存のXRコンテンツでさえも装置を被って見たことがない人にはメールや動画では伝わりにくく(というかほぼ伝わらない)作成前のプロダクトのイメージに至っては、ウェブサイトでいうワイヤーフレームやプロトタイピングが作りづらいため、クライアントとのイメージ共有はおろかチームメンバーとの認識合わせすら簡単ではありません。Can Golfなど、初期のプロダクトの時は特に苦労したのを覚えています。
・社外とのイメージ共有のために
対外的な場面で初めに取り掛かったのは「VR内の様子をなるべくHMD(※ヘッドマウントディスプレイ)なしでも共有する」ことでした。本当はルッキンググラスのような3次元モニターに映し出せるといいのかもしれませんが、大きいサイズになると数十万円する上に持ち運ぶのは不可能です。
そこでchrome castというgoogleの製品を使い、商談の場では必ずVR内の映像をそこにいる全員が見られるようにしました。chrome castは、VR内で使用者が見るものと同じ映像、テレビやプロジェクタに映し出すことができる端末です。もちろんHMDを装着頂くのが一番なのですが、状況によってはその場全員に見てもらうことが叶わないこともあり、そもそもVRへの耐性がない方は何かを被せられるという状態に相当なストレスがあるようです。プロダクトを見せようとしても「結構です」と、装着を拒否されることも少なくありませんでした。(この場合HMD装着以外にも問題があったのかもしれませんが)
ちなみに、大多数の方に次々と体験頂き盛り上がった商談の場から建設的に次のステップに進んだ案件はまだありません、不思議なことに笑 これはまだサンプル数が少なく根拠がわかっていないのでもう少し検証したいと個人的に思っています。
こうして、VRで頻出の「プロダクトが3次元であるためイメージが他者に伝わりにくい」という問題を早い段階で「HMDを被らなくてもしっかりイメージ共有していく」に切り替えたことが、現在頂けている案件につながっていると思います。クライアントの担当者以外の方にも空間などのプロダクトイメージを想像していただきやすくなり「作れるもの」「やれること」を短い時間で理解していただけるようになります。その他、簡単なプロトタイプをかなり初期の段階で作成しクライアントに見てもらうことも効果的です。こういった開発着手から納品についてはまた機会があれば詳しく記したいと思います。
・チームメンバーとのイメージ共有のために
社内において、この「イメージが伝わりづらい」ことへの解決はさらに大変でした。なぜなら社内の開発ミーティングや企画会議で話合う際にはクライアントに説明する以上に、配置する物体一つ一つのデザインや場所など、より詳細に認識を合わせて進まなければならず、それには画面を共有するだけでは明らかに不十分でした。
当初はイメージを紙にスケッチを書いてみたりジェスチャーを用いてコミュニケーションを取るなど試行錯誤していましたが、XRの360度に広がる空間全体の世界観やデザイン、UIなどをジェスチャーや平面に描いた紙で表すのは不可能でした。ある程度画力が伴えば可能なのかもしれませんが、私には到底無理だったようです。もしチーム内でイメージの共有ができていなかったり認識にずれがあると、ほとんどの場合、それは開発をある程度進めてから判明するため、時間も人手も大幅にロスすることになってしまいます。
そこで行った方法は、互いの共通認識を増やしていくことでした。ある程度共通の認識ができてくれば、その後は絵や言葉など少ないコミュニケーションでも「ああ、あれのことね」とイメージ共有ができるようになります。共通認識を増やすために、様々なVRの作品を会社で購入し、プレイをしながら空間デザイン・UIなどに注目していきました。VRに限らないゲームデザインや海外のゲームクリエイターの考えが掲載された書籍も共有しました。私自身ももともと、デザインやUIに明るいわけではなかったのでこの時期の経験は大変刺激的で現在のプロダクトデザインにも大きく役に立っています。
もちろんこれだけで全てが解決したわけではないのですが、以前より格段に認識の齟齬を減らしコミュニケーションにかかる時間を少なくすることができています。さらに今後は自社の製品が増えるにつれ、その時使ったアニメーションや配置がそのまま社内の共通言語となるので、この方法はプロダクトが増えていけばいくほど、より効果的になると考えています。
②どれくらい現実に近づけるべきか
もう一つの注意点は、「どれくらい現実に近づけるべきか」というものです。
弊社のプロダクトにCan Golfという初心者向けのゴルフトレーニングツールがあります。ゴルフを未経験の方が初歩的な動作をVR内で習い、それをおさらいしながら練習するというプロダクトです。イマクリエイトの前進であるCanR時代から取り組んだプロダクトですが、このプロダクトは数多くのゴルフ好きの方に体験頂くことができました。
そこでは「ゴルフではこういう当たり方をした場合、実際はもっとこうなるよ」といったフィードバックを必ずといっていいほど頂きました。もちろんそれを受けプロダクトを磨いていくのですが、CanGolfの場合、そこにははっきりと一つのラインを引いておきました。それは、ターゲットにとって最大の効果が出ることが目的であり、現実に近づけることが目的ではないというラインです。
CanGolfのターゲットは初心者や未経験者であり、目的はその人たちが短時間で基礎を学べ、飽きずに楽しく練習できることです。そのためには「現実に似ている」という一見重要な要素(例えばゴルフクラブのどの部分に当たるとどういう現象になるかなどの現象、さらには空振りなど)でさえ、CanGolfでは最優先ではないと考えていました。逆に、現実のゴルフほど難しい状態を作ってしまうと初めての経験をネガティブにしてしまう可能性がありそれは絶対に避けたい。そこで数多くいただいた「現実に近づけるにはもっとこう・・・」というフィードバックは丁寧に取捨選択し修正を重ねていきました。
もし現実化することにすべてのリソースを割き徹底的に開発を行えば、プロダクトのターゲットが変わり、競合となる企業やプロダクト、販売していくマーケットも変わってきます。戦略をそのように方向転換させることも一つの正解だと思いますが、CanGolfでは初心者の成長にフォーカスしていたため、それよりも「どうすればゴルフを知らない人が短時間で基礎を学べるか」を追求することにしました。そのため、目的としているゴールに不要なものや、むしろ妨げになりそうなもの(先ほどの、ゴルフクラブのどの部分に当たるとどういう現象になるかなどの現象や空振りなど)は例え本物のゴルフに必要な要素であってもXR化はしませんでした。
このXR化すべきかという問いはターゲットやクライアントが本当に必要としているものを作る上で常に持ち続けなければならない問いだと思いますし、もっと言えば「どの部分をどのようにXR化すれば効果が最大となるか」は能力拡張を謳う企業として、妥協せず追求し続けなければならない課題だと思っています。
■働き方の軸をどこに置くか
前述した課題やその解決を模索するうちに働き方も手法も1年間で変化してきていますが、実はやっていることはあまり変わらないと思っています。トライして、結果を分析して、改良するだけ。
クライアントの反応が悪いなと思えば悪い理由を分析し、それがプロダクトでなくデモの方法ではないかと思えばデモの方法を変えてみました。スタンドアップミーティングを取り入れてみても、納期直前に見落としていた問題が発覚してしまうことがあったのであれば、WBSなどのファイル共有によって補うことを試してみるのもありです。
ただ、何かにトライし変化させる時は常に、よりよいプロダクトを作るために、という理由が軸に置かれていなければいけないと考えます。「案件が人を、会社を育てる。」昔誰かに言われた言葉ですが、もしも働き方の変化がよりよいプロダクトを提供するという点に起因していない場合、それは主観や自己都合から来るものである可能性が高く、注意が必要だと思っています。イメージしやすく例を出すなら、評価を気にした不要な残業、好き嫌い人事、異動してきたばかりの上司が不要なツールを導入し強要すること、などでしょうか。中身のない社内文化は案件に関係のない状況において生み出されがちな気がします。小人閑居として不善をなす。
こうした、案件を軸としない、純粋でない変化を繰り返していれば必ず皺寄せは溜まっていき、結果として顧客にも会社にも、そして自分にも不利益な結末となりえます。逆に言えば、綺麗事かも知れませんが、提供するプロダクトの価値を常に一番に考えておけば、おのずと働き方や環境を最適な方法に変化させられるのではないでしょうか。
PMは前述のとおりプロダクトに関わる社内すべての部署と連携してゴールに向かう責任があるため、そういった変化や方針の奥深くを観察し方向性を決め、時には警鐘を鳴らすポジションでもあるべきと考えています。
私自身、来年も同じ綺麗事が言えるように自戒を込めて。
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