VRけん玉トレーニングシステム開発の裏側:バーチャルならではの体験づくり
こんにちは!イマクリエイトCTOの川崎です。
私はVRけん玉トレーニングシステム『けん玉できた!VR』をつくったのですが、今回はその開発についてお話します。
『けん玉できた!VR』を簡単に説明すると、VR空間で、熟練者のカラダの動きを3Dで目の前に表示させて、さらに玉がスローに動く簡単な状態から徐々に玉の速度を上げていくことで、初心者がけん玉ができるように導くものです。
私は、高校一年生の時に映画『マトリックス』を観て、デジタルな世界の中でヘリコプターの操縦を数秒間で習得できてしまうシステムに心を奪われました。
そして約3年前に初めてVR機器を試したときに、
「VRを活用すれば『マトリックス』のトレーニングシステムを実現できる!」
と強く感じ、私の一番の趣味である「けん玉」でVRトレーニングシステムを開発しました。
『けん玉できた!VR』の体験者は、今までの延べ人数で1128人です。そのうちの1087人が、けん玉の今まで成功したことが無い技を習得しました(習得率は96.4%)。
その開発の裏側の話をします。
1.進化した「けん玉」
けん玉というと「子供や高齢者の遊び」というイメージがあるかもしれません。
しかしながら、こんなカッコいい技やパフォーマンスがあります。
ちなみに動画の中の人は弊社の久保田です。
(全日本けん玉道パフォーマンス大会 3連覇)
また、級や段といった制度があったり、手先だけではなくヒザや全身を使うスポーツという一面があったりします。
数万の技があるともいわれ、簡単なものから超難しいものまで細かい段階で色々な技があり、新しい技がはじめて「できた」ときの嬉しさや感動を永遠に楽しめる奥の深い遊びです。
私は約5年前に、そのようなけん玉の魅力に気づいて、20数年ぶりにやり始めました。
級に合格してから猛烈にハマってしまい、現在ではけん玉道4段に合格し、多くの人にけん玉を教えるようになりました。
そして約3年前にVRと出会い、VRを活用すればけん玉の指導を加速させられるのでは?と考え、『けん玉できた!VR』をつくり始めました。
『けん玉できた!VR』では、弊社の『ナップ』という、VRゴルフトレーニングCanGolfや、ナップ溶接トレーニングにも使われている以下の2つの技術を活用しています。
・リアルな人のカラダの動き
・バーチャル技術ならではの難易度調整
それぞれについてお話します。
2.リアルな人のカラダの動き
けん玉を初心者に教えるとき、多くの人が手だけを動かして技を成功させようとします。
しかし、それではけん玉の技の成功は安定しません。
けん玉の技を安定させるためには、2つの大事なことがあります。
それは、
・持ち方
・ヒザの使い方
です。
口で説明したり、画像や動画を見てもらったりして学んでもらうという方法があるのですが、それらの方法よりも短時間で、一瞬でカラダの動きを学んでもらう方法があります。
それは、立体的な熟練者のカラダの動きをバーチャル空間でマネしてもらうというものです。
『けん玉できた!VR』では、図のような立体的な熟練者のカラダの動きを1人称で好きな角度から見ながらマネしたり、重なってマネしたりできます。
この「リアルな人のカラダの動き」をマネしてもらう機能によって、体験者に一瞬でカラダの動きを理解させ、その通りに動いてもらうようにできました。
3.バーチャル技術ならではの難易度調整
けん玉を初心者に教えるときのカラダの使い方以外の悩みとして、
「玉の動きが速くて、ついていけない」
「玉の動きが速くて、難しい」
という声をよく耳にしていました。
ここでもバーチャル空間の特性を活用することができます。
バーチャル空間では、物理法則を自由自在に調整することができます。
例えば、重力を変えたり、速度を変えたり、大きさや明るさを変えたり。
「玉の動きが速くて、難しい」のならば
「玉の動きを遅くして、簡単」にしてしまうことができるのです。
バーチャル空間で重力を小さくすれば、簡単に玉の動きを遅くできます。
しかし、ここで1つ問題が起きました。
単純に重力を小さくすると、玉の速度は遅くなるのですが、地上と同じ力で玉を上げると玉が高く上がりすぎてしまいます。
それによって、むしろ現実よりも難しくなってしまう問題と、実際のカラダの動きとは違う動きのトレーニングになってしまう。
そこで、玉がけん玉の皿から上がる瞬間に玉の軌道を予測して、玉の軌道を変えずに玉の速度を0.4倍速、0.6倍速などに調整することによって玉を遅くすることにしました。
すると、玉の速度も遅くなり、なおかつ玉の上がる高さも地上と同じになります。
それによって、実際に行うべき動作のトレーニングを現実よりも難易度を下げて行うことができました。
まずは、玉の動きが遅い簡単な状態でけん玉の練習をしてもらい、慣れてきたら徐々に玉の速度を上げていきます。
バーチャル空間において玉が実際と同じ速度でもけん玉の技が成功するようになると、現実でもけん玉ができるようになるという仕組みです。
現実では失敗の連続で練習するものを、成功の連続で楽しくスムーズに練習できるようになりました。
4.多くの人による実際の体験
『けん玉できた!VR』を、けん玉のできない私の母と奥さんに試してもらったところ、5分程度で実際にけん玉ができるようになりました。
「VRを活用すれば『マトリックス』のトレーニングシステムを実現できる!間違いない!!」
VRトレーニングシステムの研究と開発に人生をかけようと決意した瞬間でした。
それからVRやIT、けん玉、ジャグリングのイベントなどに参加し、『けん玉できた!VR』を多くの人に体験していただきました。
体験者の数が100人くらいになったときに、日テレの「nextクリエイターズ」というTV番組で取材いただきました。
また、1年かけて体験者の数が1000人くらいになったときに、
VRクリエイティブアワード2019というVRの作品大会で優秀賞をいただきました。
そこから1年、溶接やゴルフのVRトレーニングシステムを開発しながら、
東京大学の稲見 昌彦 教授と一緒に『けん玉できた!VR』の論文を書き、
情報処理学会エンターテインメント・コンピューティング2020という研究のシンポジウムで最優秀論文賞をいただきました。
『ナップ』という「リアルな人のカラダの動き」「バーチャル技術ならではの難易度調整」に関する技術の新しさと効果のスゴさのおかげだと考えています。
このVRけん玉トレーニングが、ゴルフトレーニングのCanGolfや、先日発表したナップ溶接トレーニングでも活用している『ナップ』という技術につながっています。
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