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全ての女の子に贈る。背中にそっと寄り添う言葉をくれる一冊。

仕事に家事に毎日こなして、忙しい合間にも勉強して成長しようと頑張っている人こそ、自分の痛みや悩みには蓋をしがちですよね。きらきらして充実しているね、と周りから言われても、心の中では本当は全然そんなことないのに……と思ってしまうことはありませんか。

心のもやもやを抱えている人におすすめしたい私の一冊は、西加奈子さんの『おまじない』です。

小さい頃、転んだら母が「いたいのいたいの、とんでいけ〜」と傷を撫でてくれたように。小学生だったとき、学校で気になる子の名前をこっそり消しゴムに書いて筆箱に入れていたように。この本の中には、心の中の不安や痛みをそっと溶かして前向きにさせてくれる言葉が散りばめられています。


著者の西加奈子さんについて

作者の西加奈子さんの名前は、聞いたことある人も多いのではないのでしょうか。最近では、タレントの明石家さんまさんが映画化したことで知られている『漁港の肉子ちゃん』。その他にも西加奈子さんの作品には、同じく映像化された『きいろいゾウ』や、直木賞受賞作品となった『サラバ!』などがあります。どれも登場人物の心情が細やかに感じられ、物語に引き込まれる作品となっています。

8つの短編で今の自分に寄り添う

この『おまじない』の本には、悩みや傷を負おった8人の女性たちがそれぞれある人からかけられた言葉で救われる、8つのショートストーリーが掲載されています。

母からかけられた言葉に囚われている少女、思いがけない妊娠に戸惑っている女性、痛いと思われてもいじられ役をし続けるキャバ嬢……年齢や境遇も違うけれど、それぞれ悩みをもった女性たちが主人公になっています。

どのストーリーも10分くらいで読めるボリュームなので、気が向いたときにちょっと読むことができるのもいいところです。

今のあなたに必要な言葉をかけてくれる

さまざまな背景の女性たちのストーリーは、読むときによって印象に残る話が違います。そのときの自分の状況や悩んでいることに対して、8つのストーリが変わるがわるあなたに必要な言葉をかけてくれます。

例えば、『孫係』という話があります。

紳士的なおじいちゃん。孫は素直でいい子と言われる少女。はたから見れば理想的で完璧な二人も、心の中では嫌だなと思うこともあれば、疲れることもあるのです。でも係だと思えば、素敵なおじいさん係と、いい孫係を演じられる。そんなお話です。

私も会社ではいい人を演じてしまいます。以前の私の会社には、毎日毎日おしゃべりが大好きでピッタリと後をくっついてきて話をしてくる先輩がいました。こちらが忙しいときもお構いなしです。話す内容も、だいたいが自慢話と同僚の噂話。そのうえ、私のプライベートも根掘り葉掘り聞こうとするのだから、本当はもううんざりしていました。

だけど、毎日顔を合わせなければいけないのに先輩と話すのを避けて人間関係を悪くしたら嫌だな、嫌われるのも嫌だし…という気持ちで、そのおしゃべり好きな先輩の話に楽しそうに相槌をうっていました。本音では嫌なのに楽しそうに振る舞う自分が嫌でした。

「私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ」「みんな根はいい子なんだ」「正直なことと優しいことは別なんだ」
このストーリーの中のおじいさんはこう言います。それは誰かを騙しているのではなく、思いやりの心からきているんだと。

この先輩嫌だな〜と思っても、その先輩はその役割をせざるをえないからそう演じているんだ。私は後輩係なので、いい後輩になれたらいいのだと思えるようになりました。

「お前がお前やと思うお前が、そのお前だけが、お前やねん」「お前が決めていいねん」
この本にある「ドラゴンスープレックス」の話でおっさんはそう言います。

曽祖母、祖母、母、私の四世代を描いたこの話で、それぞれが自由な生き方をしています。私はバラバラな生き方と価値観の家族の中で、自分がどう考えるか悩んでいました。おっさんがかけてくれた言葉は、いつだっていろんな選択肢があるし、いろんな正解がある。自分が決めたことで、それでいいんだ。と言ってくれているような気がします。

私は今、職を失い離婚して子どもを抱えて実家に戻ってきました。実家の両親は、私に会社に勤めてほしいんだろうな、子どものためには再婚して父親をつくってあげたほうがいいんだろうな、と悩むことも多いです。だけど大事なのは、自分が決めたこと。自分がこれがいいと思えたらそれでいいんだと、丸ごと肯定されたようで涙が出てきました。

自由でありのままの自分でいるために

私たちはどうしても、こうあるべき、こういうふうに思われたい、という思いに多少なりとも縛られています。親や上司からの期待からくる言葉にも囚われてしまいます。頑張ってる人こそ自分の中に悩みを押し込んでしまったり、自分はだめだと思い込んで劣等感を抱えてしまったり。

今を現状を変えたいのなら行動するしかない、なんて強いるようなことは書かれていません。言葉によって押し込められてしまった自分というものを、おまじないの言葉によって解き放してあげる。西加奈子さんのおまじないは、まだ乾き切っていない傷にそっと手をあててくれるような暖かい言葉たち。夜、ひとりソファーの上で読んでほしい一冊です。

自分の弱い部分をみてあげて、暖かな言葉で包んであげよう。明日はきっと心に青空が広がるような気持ちになれるはずです。


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