まめしとぎというもの
(居間 theater 東)
リサーチで八戸の台所、八食センターに訪れた。
八食センターは八戸市河原木にある食品市場だ。全長170mに、約60店舗が軒を連ねる。館内には「厨スタジアム」と「味横丁」2つの飲食街があり、市場で買った魚介類や食材を七厘で焼いて食べるスペース「七厘村」もある。
海鮮、野菜、惣菜、乾物、お菓子、お土産など、ずらりと食品が並ぶなか、とある店先にそれを見つけた。
まめしとぎ というものである。
平たい、緑色の草履のようなかたち。
薄いビニールに入って売られている。
一枚数百円のお得な食べ物。
まめしとぎ(正式名称は「豆しとぎ」)の存在は、八戸のガイドマップのようなものに掲載されていたのを見て知った。
私「ま、まめしとぎ……??」
美術館職員のYさん「八食センターで買えますよ!」
車を降りて八食センターに入るなり、まめしとぎを血眼になって探した。
私は豆が好きだが、とくに、つぶされた豆が好きだ。
ひよこ豆をペースト状にしたフムスなども最高だが、
とくに、仙台のずんだはあり得ないほど美味しい。
潰された枝豆の魅力は半端ない。
子供のころはずんだが好きすぎて、でもずんだは東京ではそんなに頻繁には食べられないので、
枝豆を食べる時に自分で口の中でずんだ状にして食べていたくらい好きだ。
まめしとぎを見た時に、直感で、
これは潰された豆では!?!?
と思った。
しかもずんだの親戚ではなかろうか。
緑色の潰された豆。しかし、ずんだよりも鮮やかなうぐいす色である。
ずんだ系列の菓子なのだろうか。
期待は膨らむ。
八食センターの店先でまめしとぎを見ていると、
お店のおばあさんがこう言う。
「そのまま食べてもいいけど、バターをしいて、フライパンでちょっと焼くといいよ」
な、なんだと!それはずんだではない!
しかし、なんて美味しそうな食べ物なんだ。
まめしとぎを6枚買った。
八戸にいる間に、2枚ほどはそのままで食べた。
ずんだをイメージしていた私にとって、それはまったく異なるものだった。
ずんだよりは砂糖も控えめでさほど甘くないし、思ったよりも素朴な味わいだ。
潰された豆の食感も、少し乾きがあってほろりとしていて、和菓子のような感覚もある。
だが潰された豆が好きな自分にとっては、かなり良い潰された豆だ。
八戸に来たら毎回買って帰ろう。
ところが、私はこの時まだ、まめしとぎの真の力を私は知らなかった。
リサーチが終わり、東京に戻って数日。
お店のおばあさんが「冷凍もしておけるよ」と言っていたので持って帰ったまめしとぎは冷凍しておいた。
そしてその日はやってきた。
まめしとぎを、バターで焼いたのである。
フライパンにバターをしき、焼き目をつけること数十秒。
できあがったバター焼きまめしとぎは、生のしとぎとはまったく異なる存在になった。
ありえないほど美味い。外はカリカリ、中は餅のようになっていて、バターの風味が出ている。全体的に甘くなっていて、何個でも食べれてしまう悪魔的な味だ。
まめしとぎにはこんな潜在的な力が隠されていたのか….
頭を抱えた。
ずんだとは別物だが、引けをとらない美味しさである。
いや、引けをとるとらないではなく、まめしとぎは無二の存在だ。
ずんだにはずんだの良さが、そして、まめしとぎにはまめしとぎの良さがそれぞれにあるのだ。
潰された豆の世界は奥深い。
農林水産省のサイトにはまめしとぎ(豆しとぎ)について説明が書かれていた。
(青森県三八上北地方及び岩手県北部に伝わる郷土菓子だそうだ。)
青大豆。なんて素晴らしい豆。
南部地方の冷害は、「やませ」の影響もあると考えられる。
そういった自然のなかで、米の代わりに大豆を作付けしたり(大豆といえば、なんばんみそも美味しい)、その豆で供物を作ったりと、先人たちの知恵と工夫で生み出されたまめしとぎ。
なんて素晴らしい存在なのだ….。そんな素晴らしい存在を、数百円で食べられるとは…。
こんなにも美味しいまめしとぎを生み出した先人たちに心から感謝したのであった。
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