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防災地下神殿【行こ行こ#2】

地下神殿。なんと魅惑的な響きだろう。
ドラゴンクエストに登場しそうなこの建物は、どうやら地面の奥深くで、僕らの日常を支えているそうなのです。

この場所であってる?

今回は、友人に誘われて埼玉県は春日部市にある【首都圏外郭放水路】へ行くことにしました。
近所のレンタカー屋さんが全て出払っていたようなので、お互いにアクセスの良い吉祥寺のレンタカー屋さんを予約しました。
先についた友人から連絡があり「指定の場所に行ったら、ただの自動車整備工場があるだけなので、遠巻きに見て待つ」との連絡が。

現地に着くと。

お世話になったレンタカー屋さん

完全に自動車整備工場ですね。

看板はあるので恐る恐る声をかけると。

「あ、予約している、まるのすけさんですね!お待ちしていました。」

どうやら正解のようです。

店員さんはとても親切で気さくな方でした。
初めての方は皆、驚かれるようです。

ヘッドバンキング安全運転

都内で暮らしていると、ハンドルを握る機会がありません。しかも慣れぬレンタカー。
今回の日産マーチは【ブレーキがシビア】でしたので、ちょいと踏むと「ガクッ」と止まります。

狭い吉祥寺の一方通行を徐行しながら、次々と飛び出す歩行者や、道の真ん中を悪びれもなく疾走してくる自転車を避けるのは至難の技。
止まる度に頭をガクッと前につんのめらせて、ロックフェスさながら、ヘッドバンキングしながら住宅街を抜けました。

時間も余裕があったので、高速を使わずに春日部市へ。途中で昼食を取りながら目的地へ向かいます。

テンション上がって腹ペコ野球部が食べる感じのメニューに…


首都圏外郭放水路に到着

東京から車で2時間。
田んぼ道を走っていると、丘の向こうに大きな建物が見えてきます。

ひときわ目立つ茶色い箱

遂に防災地下神殿こと【国土交通省首都圏外郭放水路】に到着しました。

地上施設外観
看板


外観からも圧倒されるスケールです。
施設の目の前にはこの巨大地下施設を掘ったシールドマシンが展示してあります。

実際に使われたシールドマシンの歯


受付を済ませるとガイドさんに導かれて、地下へ続く階段へ向かいます。

ガイドさん「みなさんがご存知の地下神殿は、水圧を調整する施設です。そしてご覧頂いてるサッカーの真下にありまして、このサッカーコート2面分と同じ大きさです。

サッカーコート2面分

コレと同じ大きさ!?

写真ですと伝わりにくいのですが、呆気に取られる広さです。
面積にして12000平方メートル。

そして、この施設の役割についても名調子で教えてくれます。

首都圏外郭放水路は国の施設です。国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所が管理しています。洪水対策用の施設です。

中川と設川の一帯は、古くから浸水被害に悩まされてきた地域です。

これはこの土地が、利根川江戸川荒川といった大河川に囲まれた皿の様な地形であり、河川の勾配が非常に緩やかで水が溜まりやすい特徴があるためです。

雨がたくさん降りますと小さな川の水は、すぐにいっぱいになり溢れそうになります。
この小さな川の増水を大きな川(江戸川)へ流すための地下の川となります。

メカニズムの図解

洪水を防ぐ地下の川。

へー、なるほど。


ガイドさんに続いてさらに奥に進みます。

ガイドさん

あ…。

あのダウジャケット、かっこいい。欲しいなぁ。


…とかなんとか考えている内に、秘密の扉が開きました。

ザッザッザ


ここからは116段の階段で地下神殿に降ります。
降りる途中に地下神殿の全景が見えるのですが。

これが滅茶苦茶かっこいい!

ただし階段は危険なので動画写真含めて全面撮影禁止だそうです。
これは現地に行かないと見れない光景です。むしろここからのアングルが1番カッコいいまでありました。是非現地でご覧になることをお勧めします。

荘厳なる神殿

地下神殿に降り立つと、そのあまりの巨大さに眩暈がします。

iPhoneのカメラでは全体が入らない

地下22m。気温は10℃、湿度は32%だそうで、肌寒い感じです。ただ風がないので凍えるほどでは無かったですね。
地下ではWi-Fiが使えるのでネットは繋がります。

放水路は大きく三つの施設でできているそうです。

  1. 水を取り込む立坑

  2. 水を流すトンネル

  3. 排水機場(神殿)


立坑は全部で5本あり、4本の立坑から合計5つの川の水を取り込んでいるそうです。

  • 大落古利根川

  • 幸松川

  • 倉松川

  • 中川

  • 18号水路

トンネルは6.3km続いているそうで、全ての川から溢れた水を受け止めて、大きな江戸川に逃すのだそうです。
4つの立坑から集められた水は、第1立坑を上ってきて、この調圧水槽へ流れ込んできます。


第1立坑

写真で見えているのは第1立坑全体の1/3程度だそうで、この下に50mも続いているそうです。
安全上覗けないですが、バンジージャンプできるくらいの高さがある事になります。

日本国内 バンジージャンプ高さ ランキング
第1位 岐阜・岐阜バンジー(215m)
第2位 茨城・竜神バンジー(100m)
第3位 熊本・五木バンジー(66m)
第4位 群馬・猿ヶ京バンジー(62m)
第5位 静岡・富士バンジー(54m)
第6位 埼玉・秩父ジオグラビティパーク(50m)
第7位 群馬・八ッ場バンジー(45m)
第8位 群馬・みなかみバンジー(42m)
第9位 奈良・開運バンジー(30m)

気絶しそう…。

それにしても、どうしてこのような神殿状の様式になったのでしょうか?
ガイドさんは続けます。

この調圧水槽は、柱が多いことから地下神殿の様だと言われています。
空間の広さは、幅78m、奥行き177m、高さ18mです。

柱は、幅が2m、長さが7m、高さが18mで、一本の重さが500tあります。
そしてこの柱が全部で59本あります。

柱が多い理由は、地下にこうした空間を作ると周りには地下水があり、地下水からは浮力がかかります

まるで水に浮き輪を沈めた様な状態です。

そのためこの調圧水槽自体が浮き上がってしまわない様に、柱と天井部分が錘の役割を果たしています。

これって大きなオモリだったんだ!
荘厳で重厚感のある作りだと思ったら、本当に重い構造物の様です。


テンションが上がっている筆者

更に続けます。

このエリアは、ポンプを運転するための水深と水量を確保する役割があります。

他にも、万が一ポンプが緊急停止した場合、行き場を失った水が逆流する際に津波の様な現象が起こります。その圧力を調整するためにもこの空間は必要なのです。

なるほど。専門家が機能を考えて設計した結果、神殿に似てしまった模様です。


ピカピカの床の謎

それにしても、川の水に土砂が含まれていないのでしょうか?壁にはうっすら泥が付いていますが、床はピカピカです。
ガイドさんは続けます。

洪水の際には、川の水と同時に土砂が入ってきます
この施設は年間平均7回稼働しているのですが、土砂が2〜3cm積もってしまします。

そのままでは見学ができないので、人の手を使って土砂を取り除いています

人が綺麗にしてくれてるの!?


上のラインまで水に浸かるという


その上、冬季にはブルドーザーを使って綺麗にしているそうです。
しかしブルドーザーは見当たりません。そもそもここにブルドーザー置いていたら流されてしまいます。

なので…。


開口部は4m×10m


ここから入れます。

クレーンで吊ってブルドーザーを搬入し、土砂はクレーンで回収して江戸川堤防の材料にするようです。


もうね、圧巻です。


本当のヒーロー

中国の古い諺か何かに「政治とは治水である」といった言葉があったと思いますが、まさにコレです。

考えてみれば、広大で平らな関東平野で洪水が起こればたくさんの家が水没します。

それは誰かの実家であり、35年ローンを組んで昨日完成した新居であり、毎日通う学校であり、一生懸命汗を流す職場であるわけです。

この神殿は、そんな誰かの愛おしい日常を、地下で守っているのです。

ガイドさんの背中に書かれているキャッチコピー

【日本が世界に誇る】
防災地下神殿

本当のヒーローは、今日も人知れず、地下で出番が来るのを待っているのです。

※最後に撮影した写真をいくつか掲載しておきます。

ブルドーザーを搬入している写真
地味に良かった記念陶版
山田五郎さんのサイン
神殿へ続く階段
上流から下流方向
奥は暗くなっている
第1立坑方面
この先は江戸川に繋がっている
向こうには4機の羽根車があるそうです
下流方面から上流を見た図
地上からの光が差しています
ギリシャ神殿感ある
這いつくばって写真を撮る筆者


記事:まるのすけ

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