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『ベイビーステップ』打ち切り説と、作者の力が及ばない領域

吾輩はマンガ好きである。

noteでも『違国日記』を枕に原稿を書いたことがあるし、予定稿のリストには「ドラえもんと感情のプロトタイピング(仮)」と題する記事もある。この件も、そもそもマンガが発端だった。「嬴政の発想って、今ならプー⚪︎ンと変わらないよな」と思いつつも『キングダム』の新刊を心待ちにしているし、ずっとヤキモキしていた『BLUE GIANT EXPLORER』の最終巻がようやく出るかと思えば値段の高さに目を剥き、最近のインフレを憂えたりもしている。

だから、マガポケで5巻まで無料で読めたテニス漫画『ベイビーステップ』にも、あっという間にハマってしまった。勢い余って最終巻まで購入……という、いつもながらの成り行きだ。自分は、どうも主人公がどんどん成長して強くなっていく物語に目がないらしい。しかも、学校一の美女まで漏れなく付いてくるのである。現実のテニスには苦い思い出しかなくても関係ない。

ものすごい勢いで最後まで読んだのはそのせいである。そして、最後の1コマにある「完」の文字が目に飛び込んできたとき、高速道路をフルスピードで走行中の車両がいきなり急停車したかのような衝撃を受けた。終わり方が唐突らしい雰囲気は、SNSの書き込みやAmazonのレビューを通して薄々感じてはいたものの、予想を超える最後だった。

ネットで「打ち切り説」をちらほら見かけるのも無理はない。何しろ、巻末に「色々事情もあり、主に私の力不足で(中略)ここまでになってしまい残念です」と作者自身が書いている。背後に何かがあったことを邪推しない方がおかしい。

とはいえ自分にできるのは、最終回に至る経緯を改めて注意深く洗い直すことくらいである。

Amazonのレビューを読むと、この終わり方を支持する声も結構ある。その視点で読むと、なるほど、作者が最後のシーンへ収束するように、物語の展開を整えていることがわかる。彼女との関係の節目とか、新旧の環境の対比とか、変わらない反撃の狼煙とか。ここで終わらせると決めたのなら、悪くないどころか、鮮やかな結末ですらある。

それでも読者としてはもっと先を読みたい。物語はちょうど大きな壁を突き抜けたところだ。次なるステージで大活躍が始まる、まさに直前である。だからこその「打ち切り説」だろう。作者の意図に反して掲載が中断されたと見る裏には、「いつか続きを書いてくれるのでは」という願望が紛れもなく存在する。

しかし自分は別の可能性に気づいてしまった。作者が描きたくても描けない理由があったのではないかと。

一言で言えば、取材の不足である。

本作の読みどころは、試合の最中の心の動きにあると自分は思っている。主人公と相手の選手が、どう考えてどの手を打っているのかを克明に描くところだ。プレイの良し悪しどころか、ショットの名前すらよくわからない自分が、斜めに読むだけで有無を言わさず駆け引きに引き摺り込まれてしまう。どこまで現実に近いのかはわからないものの、「超合本版」の最後についてきた「公式ファンブック」を読む限り、テニス関係者の評価は軒並み絶賛。そもそも作者が「連載当初からリアリティを追求してきた」とインタビューで語っている。

つまり、ここから先を描くには、世界トップ級のプレーヤーへの踏み込んだ取材が必要不可欠になるはずである。けれども日本で取材するとしたら相手が相当限られそうだ。そもそもこのクラスの選手は、作中で解説があるように猛烈に忙しい。一握りの超人しか知り得ない凄絶な戦いの実感を十分に得られなかったことが、物語に終止符を打つ一因だったのではないか。

作者に取材もしていない自分が、偉そうに自説を開陳するのは、かつて自分がそうだったからである。10ミリオン超えのベストセラーとは全くの別世界だが、自分の記事も、どこまで本当のことを書けるかが勝負だった。

往々にして筆がぴたりと止まり一歩も先へ進まなくなった時、最初に疑った原因が、取材が足りていないことだった。執筆中の内容に自信が持てなくなり、ああでもない、こうでもないと堂々巡りに陥っているのだ。当たり前である。いくら考えても、自分の中に答えはないんだから。

そんな時は、まず自分が書きたい筋を誰かに口頭で説明する。そうすると大抵、話のどこに無理があるかがわかる。それを受けて足りない部分を補えるよう、電話なりメールなりで追加の意見を集めるのである。取材が上手くなったのか、誤魔化す術を覚えただけなのか、最近ではすっかりご無沙汰の手段だが。

だとすると一抹の希望も湧いてくる。どんな分野のトッププロにも、いつかは引退の時が来る。突っ込んだ話を聞く可能性が大きく開けるその時こそ、急停止した物語を再始動するチャンスなのではないか。

何のことはない。面倒臭い理屈をどんなにこねくり回そうと、結局は自分も続きを読みたいだけなのである。第一、過去に世界で活躍した日本人選手はいるし、そもそも日本人に限る理由もないかもしれない。

だから最後は主人公の一言で締めたい。万一作者の目に触れることを願って。

「とにかく自分が超える壁だけを見てなんとか弱気を振り払え・・・・苦戦は続くかもしれんが一度その壁を登るんだ 今までの失点が加点になった時 世界は一変する 攻めた上でのミスこそが上達の種だと・・・・挑戦の証だと誇りに思える時が必ず来る」(鹿梅高校テニス部監督)。

あっ。エーちゃんの言葉じゃなかった……。

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