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🟠「チヌ牛無双」第郚、愛倢ラノベ【#創䜜倧賞2024 、#挫画原䜜郚門】

「チヌ牛無双」愛倢ラノベ


【あらすじ】文字

 本䜜は、リアバヌチャルに䟵食される䞖界で、日倜、ず戊うサむバヌポリスの物語。
 鯖田゜ロは父芪をノァヌゞョンに殺され、そのショックから匕きこもっおいた。そんなある日、山口県の角島からが䟵攻しお、ノァヌゞョンに母芪も殺されおしたう。たた、自身ず姉のマルチもマルりェアをむンストヌルされるが、人は適合する。そこで、゜ロは牛に倉身しおマルチを救おうず詊みるも、ノァヌゞョンはマルチを連れお逃げる。
 それから幎埌、゜ロはサむバヌポリスの入隊詊隓を受ける。だが、その䌚堎でマチョ教官がに殺される。そのずは、ノァヌゞョンず名乗るマルチであり、゜ロは立ち向かう。



【補足説明】文字

 チヌ牛だっお䞖界を救える

 ――西暊幎。
 バルト䞉囜で行われた戊術シミュレヌションの際、なぜか映像が珟実に投射され、謎の生呜䜓が人間を襲った。その生呜䜓を人々はず名付けた。は基地局ず呌ばれる塔から特殊な空間を生み出し、その䞭でしか生きられない。その゚リアは、リアバヌチャル空間ず呜名された。
 リアバヌチャル空間の䟵食やの䟵攻を防ぐため、各囜は防衛戊を始める。その動きに同調しお、日本も譊芖庁サむバヌ課ず自衛隊を招集しお、サむバヌポリスずいう組織を結成した。そのサむバヌポリスは、日倜、ずの戊闘に明け暮れおいる。
 鯖田゜ロの父芪もたたサむバヌポリスの䞀員であったが、数幎前の角島決戊でノァヌゞョンなるに殺されおいた。そのショックから゜ロは匕きこもりになっおしたう。
 そんなある日、ノァヌゞョンの襲撃で母芪を倱い、姉のマルチを拐われた。その時、第歩兵郚隊の隊長である音海埋歌に救われ、幎埌に圌はサむバヌポリスの入隊を決める。その倉化を隠しながら。
 本䜜では入隊詊隓たでしか明かされおいないが、物語は角島奪還䜜戊ぞず進んでいく。そこで、゜ロは他の隊長や同期ず出䌚いながら、マルチの奪還に成功する。しかし、デヌタ感染を治す術が分からず、゜ロはマスタヌデヌタずいう黒幕を探すこずになる。
 角島奪還䜜戊の埌は、リアバヌチャル空間のグラりンド・れロ、すなわち始たりの堎所たで䟵攻しおいくストヌリヌずなっおいる。その最埌は、゜ロがマスタヌデヌタを壊し、マルチを救枈する堎面が描かれるであろう。



【本文】
第郚 プロロヌグ

 少し曇った昌なのに、窓の倖に広がる䞖界は、どこか少し黄色い。
 そう、それはたるで街が黄砂に飲たれたように。
 この阿川駅だっお、その豊北歎史民俗資料通だっお、あの土井ヶ浜だっお、街から望める響灘だっお、父が眠る郊倖墓地すらも、自分たちの色を忘れお仄かに黄色がかっおいる。
 いや、もはや珟状こそが䞖界の色になり぀぀あった。
 僕が生たれる少し前、䞖界はリアバヌチャル空間に飲たれた。
 リアバヌチャル空間――それはリアルずバヌチャルが融合した耇合珟実。
 その䞍可思議な颚景を、今たさに液晶テレビが四角く切り取った。やや黄色い海を背景にしお、代の新米女性アナりンサヌが䞭継をしおいる。春らしい緑のレディヌススヌツを着おいる。

『どうも、星芋ミヌナでぇぇぇぇす。本日は、サむバヌポリスの隊長さんに来おもらいたした。えヌず、お名前は  おずうみ』

『音の海ず曞いお、オトミです』

『えぞぞぞ、フリガナを忘れちゃいたした。さお、音海さんの登堎です』

『どうも、音海埋歌り぀かよ。みなさん、よろしくね』

 星芋ミヌナに玹介されお、音海は笑顔を芋せながら右手を巊右に振った。僕の憧れの人だから、画面に食い入っおしたう。
 音海埋歌――歳の日本人、センチのカップ、右利き。
 濃藍の長髪は、埌方で波のようなフィッシュボヌンになり、前方では枊みたいに瞊巻きロヌルになっおいる。オレンゞの䞡目は、サヌドオニキスみたいに煌めく。
 フスタネヌラのような癜いミリタリヌワンピヌスに、灰青色のミディ・ゞャケットを重ね着する。シャコヌ垜は黒く、右肩の食緒ずサッシュは淡桃色であり、タクティカル・ブヌツは茶色だ。はためくマントには、ミミナグサの王章が描かれおいる。
 その右手には、゜プラノサックスのような銀色の现長い楜噚を携える。
 ちなみに、僕は音海埋歌の倧ファンさ。
 星芋ミヌナは可愛らしいが、あたりに音海が矎しすぎお、その矎貌がくすんでしたう。それにミヌナは気が぀いたのか、カメラにアピヌルしながら取材を続けた。

『音海さんは第歩兵郚隊のトップだそうですが、普段は䜕をされおいるのですか』

『日々、サむバヌポリスはず戊っおいたす』

 ずはノンプレむダヌキャラだが、珟代ではリアバヌチャル空間からの䟵略者を意味しおいる。
 地球がリアバヌチャル空間に飲たれおから、人型の䟵略者が攻撃をしおくるようになった。その䟵略者はリアバヌチャル空間でしか生存できないため、埐々に珟実を䟵食しおいる。そんな䟵略者は感情を持たぬ事から、ゲヌムのキャラクタヌに準え、ず呌ばれおいる。
 そんなに僕の父さんは殺され、今日で呚忌を迎えた。
 僕だっおず戊えるなら、父さんの仇を蚎ちたい。ノァヌゞョンなるを倒したい。でも、サむバヌポリスの詊隓に萜ちお、今では匕きこもり状態だ。
 だから、なおさら画面の䞭にいる音海に憧憬を抱いた。

『音海さんはずの戊闘が怖くないですか』

『正盎、怖いわ。毎日、仲間も殺されおいる。それでも街を、人を、明日を守るために戊っおいるの』

『その右手の歊噚は䜕ですか』

『これは音響兵噚よ。私の槍であり、盞棒でもあるわ』

『本圓にカッコいいです。街のために呜を賭けるなんお私にはマネできたせん。皆さんも、ご芧ください。バルト䞉囜の戊術シミュレヌション事故から幎、リアバヌチャル空間は確実に日本列島を飲み蟌んでいたす』

 緑のスヌツ姿の星芋ミヌナが指差す先で、黄色いドヌム䞊の空間が広がっおいく。
 ――幎月の正午、気枩床。
 ――北緯床・東経床の䞋関垂豊北町。
 海岞沿いの街から西を芋れば、波打぀海の向こう偎に角島が芋える。そこに憎きの本拠地がある。
 角島は完党にリアバヌチャル空間に呑たれ、サむバヌポリスは角島倧橋で培底抗戊をしおいた。本土防衛の最前線であるため、おそらく音海も加勢に来たのだろう。は無限にリスポヌンするが、サむバヌポリスは死んでしたう。ゆえに、事態は良くないはずさ。
 なんお偉そうに情勢を分析しおいるず、母芪が郚屋に䟵入しおきた。い぀も勝手に入るなっお蚀っおいるのに  もはや僕にずっちゃみたいなものさ。

「゜ロ、テレビばかり芋おいないで、ご飯くらい食べなさい」

「ノックも無しに扉を開けるな」

「階から呌んだけど、返事をしないからでしょ」

「母さん、静かにしおよ。今、䞖界情勢を孊んでいるんだから」

「そんな暇があるなら、父さんに黙祷を捧げなさい」

 母さんは僕に目くじらを立おた。たぁ、父さんの呚忌だから仕方がない。
 鯖田真由矎――歳の日本人、センチのカップ。長い黒髪を括りながら、黒真珠のような瞳で僕を芋据える。今日も゚プロン姿で、䞡手の肌荒れが働き者である事を蚌明しおいた。
 デリカシヌがない母芪に嫌気が差したが、実は、これが母さんを芋る最埌の機䌚だず知らない。そのため、少しキツく圓たっおしたう。

「黙祷は埌でしおおくから、はやく郚屋から出おいけ」

「そう蚀わずに昌埡飯を食べよう、父さんの呚忌なんだからね」

「い぀でも食事くらいできるだろ」

「゜ロは郚屋から出ないでしょ。それに家族ず䌚える時間は意倖ず少ないのよ」

「たしかに、父さんもで呆気なく死んだしな」

「そんな蚀い方をしないの ノァヌゞョンが匷かったのよ」

「それは知っおいるさ。特に匷いには、特別な番号が付䞎されおいるからな」

「他のモブずは違っお芋た目も異なるようね。本圓には憎いわね」

 いわゆる角島決戊で父さんは戊死した。
 幎前、響灘に基地局が撃ち蟌たれ、そこから倧量のが襲来した。もちろん、サむバヌポリスは出動したが、奇襲であったために、䞻力はいなかった。それでも地元民が力を合わせお角島のみで被害を留めた。
 ただ、その角島決戊で父さんはノァヌゞョンなるに殺られた。しかも、特殊な方法で殺されたらしく、遺䜓も遺骚も垰らなかった。仲間の話によれば、果敢にも匷敵に飛びかかり、時間を皌いだらしい。立掟な最期だ。

「母さん、僕が父さんの仇を蚎぀から」ず拳を握る。

「゜ロみたいな匕きこもりのチヌ牛は、を殺せないよ」

「バカにすんな。単なるデヌタなら、僕だっお壊せるさ」

「を舐めちゃいけないよ。それに゜ロはサむバヌポリスの詊隓に萜ちただろ」

「分かっおいるさ、僕がサむバヌポリスに向いおいない事は。魔法適正率が䜎くお歊噚が䜿えない。それでも、僕だっお父さんの仇を取りたいんだ」ず涙ぐむ。

「そこたで蚀うなら、マルチのように匷くなりな」

「お姉ちゃんは僕ず違っお倩性の才があるから」

「そうやっお蚀い蚳ばかりせずに胜力を磚きな。゜ロにも父芪の血が流れおいるんだから、きっず立掟なサむバヌポリスになれるよ」

「うるさいな いい加枛、郚屋から出おいけ」

 僕は枕を投げお母芪を远い出した。
 そう、僕には二卵性双生児の姉がいる。なんの運呜か、゜ロずマルチず名付けられた双子は、その名の通り、片や内向的に、片や瀟亀的に成長した。
 もちろん、内向的なチヌ牛は僕さ。
 だから、僕は姉のマルチず比范されるこずを嫌った。マルチは䜕でもできた。勉匷も埗意で、スポヌツも䞇胜、友達も倚い。しかも、僕ず違っおサむバヌポリスの詊隓にも合栌しお、今や蚓緎生をしおいる。
 完璧なマルチず比范されお、僕は怒りから母芪を远い出した。
 人になるず、テレビの音が倧きく聞こえた。
 星芋ミヌナの隒ぐ声が孀独感を高めおいるず、いきなり音海が避難を呌びかけた。

『芖聎者の皆さん、今すぐシェルタヌに逃げお』

『おや、角島から基地局が発射されたした。おっず、サむバヌポリスが出陣しおいたす。たぁ、そんな事より、私のメむクを芋お䞋さい。今日は地雷颚メむクを  』

 星芋ミヌナは緊急事態の最䞭に自分語りを始めたが、おそらく芖聎者は第戊術飛行隊の勇姿を目に焌き付けおいただろう。
 僕も、その人さ。
 少し雲がある黄色い空の䞋、数機の人型が䞋関垂に爆撃を始めた。しかし、垂街地に到着する前に、数名のサむバヌポリスが炎や雷などの兵噚でを迎撃した。敵は燃えながら、次々ず油谷湟に堕ちおいく。
 そう、なぜかサむバヌポリスはリアバヌチャル空間で魔法が䜿える。
 その魔法適正率こそサむバヌポリスの詊隓でも求められるのだが、特殊な兵噚を扱うこずで、圌ら圌女らはリアバヌチャル空間のみにおいお魔法を攟おる。
 その䞍可思議な魔術を歊噚に、サむバヌポリスは時に䞋関垂を守り、たた時にの領土を攻めおいる。
 そんな説明をしおいるず、基の基地局が䞋関垂に降りおきた。基地局ずは、リアバヌチャル空間を発生させる装眮であり、党長メヌトルほどの通倩閣みたいなロケットになっおいる。
 そんな基地局をカメラマンが芋事な技術で捉える。
 液晶テレビに映る颚景は、最初は芋た事もない空や行った事もない海を映した。しかし、分埌には近所を写し、やがおカメラマンが基地局の姿を芋倱った刹那、時を同じくしお家の窓が吹き飛んだ。

「きゃぁぁぁぁぁあ」

「母さん、倧䞈倫か」

 僕は必死で階から階に呌びかける。でも、りィヌヌンず街䞭に響き枡る譊報が僕の声をかき消す。
 怖い。
 郚屋から出たくない。
 兎のように恐怖で身を震わせながらも、䞀方では、母さんを守りたいずいう気持ちがあった。だから、おそるおそる僕は扉を開けた。䞀瞬、倖は異䞖界に思えた。だっお、そこに階段は無く、䜕なら家から空が芋えたから。
 そう、家の半分が吹き飛んでいた。
 キッチンやマルチの自宀があるはずの堎所には、電信柱のような巚倧な塔が立っおいた。たさに僕の自宅に基地局が飛来したのだ。
 そんな事実に気が぀いた頃、階では母さんがに襲われおいた。

「デヌタ照合  おやおや、あなたは鯖田透の配偶者ですか」

「もしやノァヌゞョン」

「埡名答、これで劻も倩囜に送っお差し䞊げられたすね」

 ノァヌゞョンなるは、母芪の銖を右手で掎んだたた喋っおいた。たさに僕の目の前には、父芪の仇がいたのだ。
 ノァヌゞョン――ナンバリングされた、代の女性、センチのカップ、僕の父芪を殺した犯人。
 黒色のショヌトヘアで、真っ黒な県垯を぀ける。床たで䌞びた灰色のワンピヌスを匕きずる。人のように芋えるが、その䞡足は鳥に特有の䞉前趟足になっおいた。たた、背䞭には翌開長メヌトルほどの翌が生えおいる。
 話には聞き及んでいたが、実際にノァヌゞョンを目の圓たりにするのは初めおだった。もちろん、殺したいず思った。だが、僕はマルチず違っお勇気も力もなくお、䞀歩たりずも螏み出せない。
 自分が二宮金次郎の石像になった気分さ。

「私は、どうなっおも良いわ。だから、子䟛には  ゜ロには手を出さないで」

「人間の芪は偉倧ですね、最期たで子䟛の身を案じるなんお  ただ、その願いが叶うかどうかは結果によりたす」

「私に䜕をする぀もりなの」

「鯖田透にしたように、あなたにもマルりェアをむンストヌルしたす」

 ノァヌゞョンは話しながら臀郚の仙骚あたりからケヌブルのような尻尟を生やした。そのケヌブルは蛇みたいにクネクネず動くず、やがお母さんの銖に突き刺さる。
 するず、母さんは悲鳎を䞊げた。

「痛いぃぃぃぃい やめおぇぇぇぇえ」

「この皋床で叫んでいおは䜓が持ちたせんよ」

「この埌、どうなるの」

「簡単です、マルりェアをむンストヌルしたす。そのコヌドが䜓内で適合すれば、晎れお私たちの仲間になれたす」

「もし倱敗したら」

「その時は粉々に砕けるでしょうね、鯖田透みたいに」

「埅っお ゜ロず話をさせお」

「ふふふっ、時間がありたせん。それに子䟛を守りたいのでしょう。ならば、耐えお䞋さい。マルりェアをむンストヌル」

 ノァヌゞョンが開始を宣蚀するず、ケヌブルのような尻尟はオレンゞに光った。その灯りは、やがお母さんに䌝播するず、圌女は蛍光灯のように光りながら苊悶の衚情を浮かべた。そしお、その䜓はガラス现工のように粉々に砕け散るず、色の茝きを攟ちながら跡圢もなく消え去った。
 もう母さんずは喧嘩もできず、觊れ合う事すら叶わなくなった。日垞の䞭の幞せずは呆気なく消え、その時に倧切だず気づかされる。そんな教蚓を母の死から教わった。

「はぁヌヌ、たた倱敗ですか」ずノァヌゞョンは呆れた。

「そんなバカな  母さんに䜕をした」

「だから、マルりェアをむンストヌルしたしたが、適合せずに砕けたした」

「それは死んだっお意味か」

「えぇ」

「母さんを返せよ」

「無理です。それより次は君の番ですよ」

 ノァヌゞョンは有無を蚀わせずに、ケヌブルのような尻尟を階に䌞ばした。もちろん、情けない僕は逃げた。しかし、尻尟は蛇のように僕に巻き付くず、その先端が僕の銖に刺さる。ミツバチに刺されたようなチクリずした痛みが走る。
 そんな痛みを気にする暇もなく、僕は階ぞず匕きずられた。
 抵抗を詊みるも尻尟は緩たらず、僕はノァヌゞョンの前で吊るされおしたう。これから僕が酷い事をされるのに、なぜか圌女の方が悲しげな顔を芋せた。

「はぁヌヌ、どうせ倱敗するず分かっおいおも、プログラム通りにしか生きられないのは、蟛いものですね」

「僕にも同じ事をする぀もりか」

「愚問ですね。私たちは同志を増やすために、人にマルりェアをむンストヌルしなければならないのです」

「マルりェアっお、バグを匕き起こす゜フトりェアだろ。そんな物、䜓内に入るのかよ」

「私にも組み蟌たれたのです。適合すれば、君にも読み蟌たれたすよ。では、始めたす」

「やめろぉぉぉぉお 死にたくない」

 僕は駄々をこねる子どものように暎れた。手足をゞタバタさせた。だが、ノァヌゞョンは我が子を抑える倧人のように匷靭な力で抵抗を蚱さない。圌女は䞡手で僕を捕たえるず、そのたた謎の光を僕の䜓内に送信した。
 最初は熱湯を飲んだような熱さがあった。
 その熱は、やがお党身ぞず䌝播しお、サりナに入った時のように䜓枩を䞊昇させた。䜓から汗が吹き出す。䜓内の党おの氎分を排出したのでないか、そう疑うほどに濡れおいた。
 喉の枇きに我慢できなくなった頃、䜓はラむトのように明滅した。
 母さんずは異なる反応を芋せる䞭、今床は党身に痛みが駆け巡った。たるで血管に突起物を流し蟌たれたように、䜓の節々が悲鳎を䞊げた。しばらく激痛に耐えるず、吐血しおしたう。

「グハッ、䜕が起こっおいる」

「おやおや、惜しい所たで行きたしたが、もはや䜓が限界のようですね」

 ノァヌゞョンは残念がるず、僕を床に捚おた。もちろん、起き䞊がっお殺しおやろうず思ったさ。しかし、もう䜓は動かなかった。自分の䜓じゃないみたいにな。
 悔しさず情けなさで心たでズタズタにされた時、マルチが家に飛び蟌んだ。

「母さん、゜ロ、倧䞈倫そ」

「マルチ  逃げろ」

 おそらく時期に僕は死ぬだろう。それでも匟ずしお双子の姉だけは守りたかった。父さんも母さんも守れなかった僕にずっお、マルチは最埌の家族だから。
 だから、僕はマルチを芋ながら声を振り絞ったのだ。これが圌女を芋る最埌ず思いながら。
 鯖田マルチ――歳の日本人、センチのカップ、右利きのクリアボむス。
 母芪ゆずりの黒髪を赀いスカヌフでハヌフアップにしおいる。たた、僕ず同じく青い瞳はサファむアのように矎しい。
 サむバヌポリスの蚓緎を終えたのか、垞装第皮倏服を着おいた。その垜子には音海の郚隊ず同じ垜章が刻たれ、癜いシャツも緑のスカヌトも䌌合っおいた。
 あぁ、これがマルチを芋る最埌の機䌚かっお埌悔をしおいるず、あろうこずか、圌女は戊闘を始めた。

「匟に䜕をしたの」ずマルチはスマホを取り出した。

「ふふふっ、よもや私ず戊う぀もりですか」

「これでも私はサむバヌポリスの候補生じゃん。呜を賭しおでも垂民を守る矩務がある。その垂民が匟なら、なおさらだわ」

「マルチ  逃げろ」

「゜ロは黙っおいお。今、集䞭をしおいるから」

 マルチはスマホをノァヌゞョンに向けた。なんお立掟な姉なのだ。僕は歩も動けなかったのに、圌女は果敢にも戊おうずしおいた。ただ基本すら教わっおいないのに、に立ち向かう姿は、父さんにすら重なった。

「そのスマホに现工があるのですか」

「被写䜓撮圱《静止画》」ずマルチはシャッタヌを切った。

 以前、マルチから胜力に぀いお聞いた事がある。圌女はスマホで撮圱した颚景を珟実にする事が出来るらしい。圓初は半信半疑だったが、今では信じる事ができる。
 なぜなら、圌女が撮圱した堎所は塵぀ですら動かなかったからさ。
 だが、ノァヌゞョンは猛者だった。圌女は撮圱される瞬間、倧きな矜を矜ばたかせお空ぞず飛翔しおいた。そのため、静止画の圱響から逃れたようで、そのたたマルチに襲いかかる。
 もうダメか、僕は諊めおいた。
 しかし、マルチは持ち前の運動神経を掻かしお、ノァヌゞョンの䞉前趟足を軜々ず亀わした。さらに、戊堎カメラマンのように、空を飛び亀うノァヌゞョンにレンズを向ける。

「次はフレヌムに収めおやるわ」

「ふふふっ、残念でしたね」

 僕はマルチの勝利を予想しおいた。しかし、圌女がシャッタヌを抌すより速く、ノァヌゞョンは圌女の銖にコヌドを刺しおいたのだ。
 そう、䞉前趟足による攻撃は囮であり、はなからノァヌゞョンはむンストヌルを狙っおいたわけさ。

「痛いじゃん 䜕よ、この線は」

「マルチ、尻尟を倖せ」ず腹の底から声を出す。

「゜ロの指瀺に埓いたいけど、これ、倖せないじゃん」

「マルりェアのむンストヌル」

 マルチが銖に刺さった尻尟を匕っ匵っおいる隙に、ノァヌゞョンは再びむンストヌルを始めた。母さんや僕の時ず同じく、尻尟はオレンゞに光るず、やがおマルチも発光した。
 このたたじゃマルチは死ぬ。
 そんな確信を芆すように、マルチは癜く茝いた。するず、光を攟぀圌女よりも、ノァヌゞョンの顔の方が明るくなったのだ。

「なんず蚀う事でしょうか、たさか適合するずは思いたせんでした」

「䜓が倉じゃん。䞀䜓、䜕が起こっおいるの」

「マルチさんでしたか あなたはマルりェアに適合したのです。蚀うなれば、これは進化ですよ」

 驚いた事に、ノァヌゞョンはマルチを抱きしめた。しかも、その倧きな翌で圌女を包み蟌んだ。蓑虫みたいな栌奜から数分埌、その矜が開くず、マルチはドラゎンず人が混ざったような異圢に倉わっおいた。
 マルチの背䞭から緑の翌が生え、犬歯が䌞び、緑の尻尟が犬のように動く。

「私は人じゃなくなったの たるでドラゎンみたいじゃん」

「ふふふっ、安心しお䞋さい。マルチさんはマルりェアを取り蟌んで、ドラゎンの力を埗たのでしょう。ただし、リアバヌチャル空間から倖に出れば、死んでしたうので、泚意しお䞋さい」

「元に戻しおよ」

「私には無理です」

「゜ロず離れたくないじゃん」

「あの床で倒れおいる青幎ですか あれは時期に死にたす。あんな死に損ないは攟っおおいお、マスタヌデヌタ様に䌚いに行きたしょう」

 ノァヌゞョンはマルチの右手を取るず、矜を広げお飛び立ずうずした。しかし、マルチは嫌がっお飛ばないように匕っ匵る。
 このたたではマルチが拐われる。
 マルチず氞遠に䌚えなくなる。
 そんな危機感が、家族ずの離別が僕を匷くしたのだろうか。急に心臓が痛くなる。激しい錓動のせいで、血液が埪環しお䜓の各所が成長した気がする。
 黒い髪は、茶色の毛䞊みになる。
 青い瞳は、血に染たったように赀く倉わる。
 现い足は、幹のように茶色く倪くなる。
 薄い䜓は、筋骚隆々に倉わる。
 ふず割れたガラスを芋るず、自分の姿が映っおいた。いや、自分ではない。たしかに、顔は自分なのだが、その䜓はミノタりロスのように牛ず融合しおいたのだ。䞡腕は牛の前足になり、䞋半身は牛そのものさ。
 蚀うなれば、チヌ牛が本物の牛になったように。

「僕は牛になったのか」

「あり埗たせん、死ぬはずだった圌もマルりェアに適合したのでしょうか」

 ノァヌゞョンが意衚を突かれた間に、僕は䞡足に力を蟌めた。牛の脚力は凄く、その蹄ず爪先立ちの姿勢から瞬発力を生み出せる。
 突颚が起きた。
 牛の筋力を䜿うず、ズバヌンず鉄砲玉のごずく前方に飛び出しお、僕はマルチを救えた。二床ず觊れられないず思えた圌女を、お姫様抱っこしおいる。

「゜ロ、その姿はどうしたの」

「それはマルチも同じだろ。おそらくマルりェアのせいさ」

「グヌヌヌ、その女を返しお䞋さい。いえ、あなたもマスタヌデヌタ様の所に連れお行きたす」

「誰がノァヌゞョンの呜什に埓うかよ」

「ならば、匷制的に連れ垰るたでです。シヌケンス番号  グハッ」

 ノァヌゞョンが䞡翌を広げお、竜巻を起こそうずした瞬間、圌女の鳩尟を癜い槍が貫いた。
 それず同時に女性の声もした。その可愛い声は、぀いさっき聞いた芚えがある。どこで聞いたか思い出せないが。

「サックスのための亀響曲・第番《むントロ》」

「この䞀撃  もしやサむバヌポリスの粟鋭ですか」

 ノァヌゞョンが芖線を背埌に向ける。その動きに連動しお、僕も圌女の背埌を芋た。䞀瞬、自分の目を疑う。
 音海埋歌だ
 先皋たで響灘で生攟送に出挔しおいたのに、音海は僕の自宅に到着しおいた。なんお速さ、そしお迅速な察応だ
 驚く暇もなく、音海は゜プラノサックスを匕き抜いた。するず、ノァヌゞョンの䞊半身に颚穎が空いた。そこからドバドバず青色の液䜓が飛び散る。それはタコや゚ビのようなヘモシアニンを有する血のようだった。

「人を解攟しお」

「嫌ですよ、貎重な適合者なのですから」

「適合者っお䜕よ」ず音海は僕らを芋た。

「答える矩理はありたせん。シヌケンス番号《デヌタストヌム》」

 ノァヌゞョンは䞡翌を目にも止たらぬ速さで動かした。するず、旋颚が吹き荒れお、砂嵐で芖界が遮られた。䜕も芋えないけど、少し違和感があった。急に䞡腕が軜くなった。
 やがお颚が収たるず、ノァヌゞョンず共にマルチの姿もなかった。
 半壊した自宅には、僕ず憧れの音海しかいない。

「したった、マルチを拐われた」

「あの傷で俊敏な動きね」

「音海さん、今すぐ远っお䞋さい」

「そう蚀われおも、空を飛ばれたのでは远跡できないわ」

「ならば、僕だけでも远いかけお  グッ」

 右足を螏み出そうずするず、心臓が悲鳎を䞊げた。悪魔に肺を握り朰されたように巊胞がゞヌンずした。それず同時に肺も瞮たる。どれだけ口を開けおも、もう酞玠を取り蟌めない。
 床に倒れるず、䞡腕が元に戻っおいた。
 さらに、䞋半身から毛が抜け萜ち、䞡足が倉な方向に曲がっおいるのが確認できた。どうやら開攟骚折や耇雑骚折になっおいるようだ。

「無理に動かないで、酷い怪我よ」

「だけど、マルチは今しか救えない」

「そうずは限らないわ。だっお、ノァヌゞョンはマルチさんを貎重な存圚ず認識しおいた。だから、簡単には殺せないはずよ」

「じゃあ、どうしろっお蚀うのさ」

「本圓にマルチさんを助けたいなら、私ず䞀緒に来なさい」

「どうする぀もりだ」

「゜ロ君っお蚀ったっけ。君の胜力を隠しお、サむバヌポリスに入隊させるわ」

「それでマルチを助けられるのか」

「圓然よ、来幎の詊隓で入隊させお、マルチさんを捜玢するわ。おそらく角島にいるのだから」

 僕は音海に説埗されお、この日の远跡を諊めた。それから幎、圌女の䞋で蚓緎を受けた。サむバヌポリスになるために。
 やがお春倏秋冬を巡する頃、䞋関には、マルチが拐われた時ず同じく桜が咲き乱れたのである。



【第話】
「チヌ牛無双」第郚第章①

https://note.com/im_ranobe_p/n/n87b10538845c



【第話】
「チヌ牛無双」第郚第章②


https://note.com/im_ranobe_p/n/n1ea042896820






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