![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/95471810/rectangle_large_type_2_b96651287d98113bd42b79817f4774ef.png?width=1200)
「地雷女の自来也さんと別れたい」第1部・第2話|愛夢ラノベP|【#創作大賞2024、#漫画原作部門】
第1部 地雷女の自来也さんと別れたい
第2話 タイムリープ
――目覚めると、4月を迎えていた。
十数分前と全く同じように、寸分違わず桜の花が散る。その花吹雪は、その一片一片が先ほど見た光景と重なる。間違い探しをしても、1箇所も違う箇所なんて存在しない。
桜の花がバサバサと。
桜の雨がパラパラと。
桜の雪がサラサラと。
青空は桃色の桜吹雪に隠され、赤や青の屋根はピンクに塗られ、灰色の道路は桃みたいに鮮やかだ。
そんな桜に見守られながら、俺と自来也は高校の入学式に参加する。校門を通ると、桃色の世界で黄色い歓声が響き渡った。
「「「「キャーー! 自来也さんよ」」」」
「皆さん、ごめん遊ばせ」
まるでビデオテープを巻き戻して再生したように、自来也は高校の先輩や先生に挨拶した。そんな彼女の後ろを、俺はリテイク中の俳優みたいにトボトボ歩く。
なぜ同じ出来事を繰り返す?
これは死後の世界なのか?
はたまた夢の続きなのか?
そんな事を思っていると、あの罵詈雑言が再び心を貫いた。たぶん1億回くらい聞いても慣れることはない。
「あの後ろの男性はストーカーかしら?」と女学生が問う。
「あれは自来也様の彼氏よ」
「「「「「あの冴えない男性が彼氏!」」」」」
さっきと同様に、学内で女子高生が悲鳴を上げた時、コスプレをしたロリ少女とスレ違う。梔子色の外はねショートボブに、チェリーストーンみたいな桃色の瞳の少女だ。
初対面なのに、どこかで逢ったような。
そう思い、記憶を辿っていると、さっきの別れさせ屋だと気がつく。彼女に相談すれば、あるいは真相が分かるかも。
これは演技だとか、さっきのバッドエンドが夢だとか、未来予知だとか、そんな話が聞ける可能性が高い。そこで、俺は歴史を変える事にした。
自来也から離れて、別れさせ屋と話すんだ。
「ちょっとトイレに行ってくる」
「もう入学式よ。我慢しなさい」
「漏れそうなんだ」と股間を押さえる。
「まさか浮気相手と会うつもり?」
「不倫なんてしない。もう我慢ができないんだ」と漏れそうなフリをする。
「はぁーあ、仕方ないわね。5分で戻って」
自来也から許可を得て、俺は単独行動を認められた。校舎のトイレに向かうフリをして、別れさせ屋を尾行する。そして、自来也の目を盗み、ロリ少女が女子トイレに入る瞬間、俺は彼女の右腕を掴んだ。
「キャッ! あなたは佐藤蓮」
「お前は別れさせ屋だろ」
「なぜ私の正体を……いや、私は別れさせ屋じゃないわ」
「嘘をつけ! 俺と自来也を別れさせようとしているだろ」
「なぜ依頼内容を……いえ、そんな計画はないわ」
「さっき体育館裏で会ったよな? 突然、俺にキスをして、自来也と別れさせようと試みただろ」
「それは今日の作戦……って、なぜ佐藤が私の手法を知っているのよ?」
「ついに認めたな」
「しまった!」と別れさせ屋は口を押さえる。
「やっぱり計画は実在するんだな。という事は、さっきの出来事は正夢に違いない」
「何の話よ?」
「数分前に、俺と君は自来也に殺されたんだ」
「ぐふっ、そんな夢みたいな話は信じられないわ」と別れさせ屋は失笑する。
「本当なんだ。時間が巻き戻っている」
「んな、少年ジャンプの漫画みたいな展開は起きっこないわ」
「だが、俺は君を別れさせ屋と見抜いた。この理由は説明できないだろ」
「たしかに、それは事実ね」
「そこで、頼みがある。俺は自来也と別れたい」
「あら、そうなの」
「だから、別れさせ屋の君と協力したいんだ」
「へー、それは好都合ね。分かったわ、私は最上川モカ。協力するわ」
「モカ、命令には何でも従う。だから、俺と自来也を別れさせてくれ」
「もう5分よ。蓮が遅いから探しに来ちゃった」
俺がモカの名前を聞き出して、協力関係を築いた時、自来也の声がした。なぜ場所がバレたか不明だが、咄嗟にモカと男子トイレに隠れた。
「モカ、こっちに来い」
「って、ここは男子トイレよ」
嫌がるモカを連れて、1階の男子トイレに飛び込む。個室は3つだが、そのまま1番奥の洋式トイレに潜む。
汚い水は悪臭を放つ――これに顔はつけたくないな。
そういえば、自来也への警戒心と緊張感が解けるまで気が付かなかったが、狭い空間にモカと2人きりだ。息遣いを感じながら、肩を抱き合って息を潜める。
「ちょっと、これはマズい状況よ」とモカの声が震える。
「シー、声を出すな。自来也にバレる」
「どうやら男子トイレに逃げたようね。蓮、どこ?」
なぜ自来也は俺の居場所が分かるんだ?
そんな疑問を抱いていると、自来也が手前からトイレの扉を開けては閉める。まさか男子トイレまで調べに来るとは……ギギーバタン、ギギーバタンと2回とも空室が確認された。
ダダダダダダン、唐突に自来也が扉を叩く。
「あとは、ここだけね。あら、鍵がかかっているわ。蓮、居るのは分かっているわ。出てきて」
「佐藤、場所がバレて……うっうーん」と話すモカの口を塞ぐ。
「お腹が痛いんだ。もう少し待ってくれ」
「もう入学式が始まるわ。それに今の女は誰なんだよぉぉぉぉお!」
自来也の怒鳴り声とともに、ガンガンと木製の扉が蹴られる。その度に、ドアが歪む。モカの顔も歪む。やがて扉が開くと、自来也の鬼の形相があった。
「蓮、みーつけた!」
「なぜ自来也は場所が分かるんだ?」
「最後だから、教えてあげるわ。蓮のスマホには追跡アプリが入っているのよ」
「何だってーー!」と驚愕の事実を知る。
「ところで、その女は誰?」
「テヘ、どうも! 蓮の彼女で、モカって言います。自来也さん、彼と別れて下さい」
「モカの話は嘘だ。彼女は別れさせ屋で……」
「黙れ、クソ金玉野郎。モカちゃん、ちょっと話があるから、トイレから出て」
「はぁーい、蓮も大丈夫よ。ちゃんと別れさせて……ウギャ!」
自来也は聞く耳も持たず、モカの髪を鷲掴みにする。そのままモカを引きずると、何度も何度も何度も何度もモカの頭を少便器に打ち付けた。
除夜の鐘を突くみたいだ。
モカの血が流れるため、群馬県の嫗仙の滝みたいに、少便器に赤い液体が滴る。
「ちょっと、自来也さん! やめて。痛い」
「テメェ、人の彼氏に手を出してんじゃねーぞ」
「私は別れさせ屋で」
「意味不明な事を言うな。絶対に許さない。殺してやる」
「血が……血が止まらないわ」
「これは私の痛み! これは蓮の痛み! これはアンタの罪!」
「やめ……ウゲッ」
モカは電池切れのロボットみたいに動かなくなった。おでこが陥没したモカを見て、俺は死期を悟る。そこで、素早くトイレを出た。
しかし、自来也に左腕を強く握られる。その手は真っ赤に染まっていた。
「どこに行くの?」
「ちょっとトイレ」
「トイレなら、そこにあるわ」と個室に連れ込まれる。
「嫌だあぁぁぁぁあ! 助け……ゴボゴボ」
そのまま洋式便所に頭を突っ込まれる。生臭い匂いが鼻につき、数日間くらい放置された生温い水を少し飲む。
「ウゲッ……ゴホゴホ」と水を吐く。
「なんで私という彼女がいたのに、浮気なんてしたの?」と自来也は俺を便器に押し込む。
「違う、モカは別れさせ屋で……ブクブクブク」
「他の女の名前を言うんじゃねーよ」
「プハッーー! ごめんなさい、アイツは別れさせ屋で……ゴボゴボ」
「その別れさせ屋って何よ?」と自来也は俺を持ち上げる。
「はぁはぁ……俺も知らないけど、誰かが俺と自来也を別れさせようとしたんだ」
「どうせ蓮の差し金でしょ」
「違う、信じてくれ。俺は何もしていない」
「でも、さっきモカちゃんが別れさせるって言っていたわ」
「そっそれは気のせい……グハッブハッ」と便座で溺れる。
「蓮、これで水に流そうね」と自来也が大のレバーを引く。
「はぁはぁ……自来也、事情を聞いてくれ」
「うるさい! トイレの個室で2人きりって完全に浮気でしょ」
「それは事実だが、勘違い……ゴボゴボ」
「テメェ、私という美人な彼女がありながら、他の女と密会すんじゃねぇーよ!」
自来也は便座を下ろすと、それで俺の頭部を挟み、そのまま座った。俺の頸部に体重がかかり、首の骨が曲がる。さらに、便座に顔が浸かる。
臭い!
首が痛い!
息ができない!
苦しい!
死んじゃう!
そんな俺に構わず、自来也は何度も何度も何度も何度も便器に座り直した――怒号を上げながら。
「許さない! 許せない! 死ね! 死ね!」
「自来也……ぐるじい」
「あーあ、せっかく従順な犬を捕まえたと思ったのに、とんだ浮気者だったわね」と自来也は便器に深く腰掛ける。
「反省……助け……じにだくなぃ!」
「全て蓮が悪いんだからね。こんな事を私もしたくなかった。でも、お別れね」
「いゃだあぁぁぁぁぁあ!」
「これで! 最後よ! バイバイ!」
自来也は立ち上がって座る動作を繰り返した。
ここで俺の記憶は途切れた。最後に覚えているのは、便所の悪臭と自来也の悪口と首の折れる音だけだ。
(3719字)
(タグまとめ)
#ライトノベル
#小説
#ラブコメ
#タイムリープ
#SF
#愛夢ラノベP
#文学
#短編小説
#メンヘラ
#別れさせ屋
#地雷女
#失恋ラブコメ
#地雷女の自来也さんと別れたい
#創作大賞2024
#漫画原作部門