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『リアバース《新感覚のXR型VRRPG(体験版)》』|第0部 プロローグ|愛夢ラノベP【短編小説/ライトノベル】
第零部 プロローグ
それは楽しい体験となるはずだった――リアバースでの悪夢が起きるまでは。
『初期メモリの削除完了。再起動を開始。プレイヤーのセンスデータを同期。勇者よ、目覚めなさい』
女性みたいな独特の電子音で起き、真っ白な部屋は謎が多い。目が覚めたのに、まだ体は重い。頭の中は真っ白で、視界に入る白も濃い。
「あなたは誰? 誘拐なら犯罪行為だ」
『落ち着いて、私はボア(BOR)と呼ばれています』
雪しかない南極大陸に降り立ったように、天井も床も壁も真っ白な空間にいた。僕は服を着ていないのに、全く寒くないのが不思議だ。
驚いていると、どこからともなく声が響いた。
「ボア、ここはどこ?」
『ルフの部屋です』
「ルフの部屋って何?」
『ルフの部屋とは、あらゆる魂の帰すべき場所であり、また全ての魂が巣立つ場所です。ここでプレイヤーはアバターを作り、リアバースに旅立ちます』
「アバターって、ゲームのキャラみたいなもの?」
『その通り、この部屋でプレイヤーは外見を設定し、リアバースへと遊びに行きます』
僕の目の前には、大きなディスプレイが表示される。透明な画面に色んな種族が映される。
ヒューマノイド――人に瓜二つの機械、どの武器でも装備でき、平均的なステータス。オススメ!
ブギーマン――透けているゴーストで、遠距離の魔法が得意。詠唱に時間がかかる。
月兎(げっと)――兎が擬人化した姿。その脚力で時空や時間を飛び越える。
「へー、色んな種類があるよ。僕は月兎にしよう」
『申し訳ございません。未実装です』
「自由に選べないなら、実装しているキャラだけ出して」
『すみません。ベータ版では、ヒューマノイドとブギーマンしか遊べません』
「じゃ、ヒューマノイドにするよ」
『分かりました。種族の次はステータスを割り振ります。攻撃力や防御力、スピードやインテリジェンスに百ポイントを分けて下さい』
「面倒だから、せっかちな僕は速度に全振りだよ」
『それではラスボスが倒せません』
「でも、遅いのは嫌だ。それに逃げ回れば、きっと勝てるさ」
『しかし、全方位や広範囲の攻撃もあります。本当に宜しいですか?』
「僕のキャラだよ。僕が全てを決めるのさ」
『……では、後悔がなければ、ユーザー名を決めて、オーケーを押して下さい』
「僕の名前、あれ? 名前が思い出せないよ」
『最初に初期データを消しましたからね』
「いや、待って。薄っすら覚えている。そうだ、ハヤトにするよ」
『分かりました。ハヤトよ、あなたはヒューマノイドとしてリアバースを生き、悪しき魔物から世界を守って下さい』
「お安い御用さ。この僕がリアバースの勇者だよ」
『注意事項ですが、絶対にテストプレイの時間は守って下さい。1時間を超えれば、あなたの命に関わります』
「別に、少し遅れても死なないさ」
『ダメです! ゲームは1日1時間までです。それを超えたら、危険なのです』
「はいはい、僕なら最速でクリアしちゃうよ」
『では、スマートアイを装着して下さい』
ボアからコンタクトレンズのような薄いフィルターを渡される。それを両目に付ける。すると、今まで見えなかった世界が見える。
「うわあぁぁぁあ、世界に魔物や建物が現れた」
『そのスマートアイで、リアバース空間を可視化します。ただし、ログアウト・ポイント以外での着脱を禁止します。強制ログアウトは失明や脳死の可能性があります、必ずマップの赤い点でログアウトするように』
「ログアウトは、ログアウト・ポイントだけ。ちゃんと覚えたよ」
『では、アカウントの認証を開始します。網膜のスキャンを開始、音声照合のためプレイヤー名を読み上げて下さい』
「頭脳明晰でイケメンのハヤト」
『……認証失敗。正しく名乗って下さい』
「マジか、イケメンのハヤト」
『違います。正しく名乗って下さい』
「ハヤト」
『……音声照合グリーン、網膜認証を終了……グリーン。本人と確認』
その時、白かった部屋は色を取り戻した。
瞳に装着したスマートアイに綺麗な映像が表示される。森の緑は生命を感じるほど鮮やかで、太陽の黄色は全てを包むように煌めき、空の青さは透き通るくらい澄んでいる。
『心拍数を検知。呼吸数を観測。血圧は正常。体温も平常。ハヤトのバイタル安定』
「いよいよ、冒険の始まりさ。リアバースにサインオン」
『ハヤトとキャラのセンスデータを連結します。サインオンを開始!』
「うわっ、見た目が変わる。世界も塗り替わる。一体、どうなっちゃうんだ?」
『リアバースの世界へ送ります。ハヤトにボアの祝福があらん事を!』
リアバース――それはリアルなまでにバーチャルだった。
まず驚いた事は、自分の容姿である。
「こっこれが僕!」と鏡のような水溜りを見て口を開ける。
ハヤト――百七十センチの53キロ、せっかちな15歳の日本人。
アバターはヒューマノイド。
タンポポ色の短髪をウルフカットにしている。ピンクトパーズのような桃色の瞳が特徴的。
偃月刀を背負い、真っ白な旅人の服と黒革のブーツを身に付ける。
「なんて広大な世界だあぁぁぁぁぁぁ!」
次に驚いた事は、高台から見下ろした世界の広さであった。
見上げた空には、昼なのに、オーロラが青空で揺れる。また、クラゲみたいな満月も見える。
自分の隣には、高い滝がある。その水は大地を流れ、その長さはナイル川をも超える。
そんな川を辿ると、世界へと導かれる。
右手には海が広がり、左手には砂漠が見える。遥か彼方には、雪峰が聳える。
だが、何よりも足元に広がる森林地帯が美しかった。
「うわあぁぁぁぁあ、これがリアバース空間か!」
まるで母親が子供を撫でるように、優しく風が僕に吹きつける。その風が大地の香りを、花の匂いを、澄んだ空気を鼻に届ける。時より歌う鶯が耳を楽しませる。
気のせいかもしれないが、空気は少し甘かった。
「これは本当にゲームなのか?」
クロスリアリティによって、細部まで詳細に作り込まれた拡張仮想現実。それは、この世に作られた第2の現実とも言える。
――次世代型アミューズメントパーク『リアバース』。
日米英の共同で制作されたゲームは、業界を……いや、人類を驚かせた。超美麗3Dグラフィックは、まさに現実そのもの。
新感覚のXR型VRRPGは、多人数の参加が可能なゲームである。
「リアバース、まさに現実のようなゲーム世界だ。よーし、終了時間まで遊ぶよ」
その時、後方で茂みが動いた。そこから大きな蟻が出現した。真っ黒な体は戦車のように大きく、顎はボルトカッターみたいに分厚いな。
「ギャーーーー! とりあえず、逃げるが勝ちだ」
「グヘヘヘ、喰ってやる……って、もういない。早すぎる」
蟻も腰を抜かすほどの速さで、モンスターを避ける。山風になった気分で森を駆ける。
やがて過ぎ去る景色は輪郭を失う。
植物の緑は青空の紺に加わり、大樹はグニャリと歪み、岩は彗星のように変わり、並走するモンスターは群れに混ざり、地面の茶色は幹のブラウンと重なる。
「へっへーん、僕の速度には追いつけないだろ……って、前方にも敵だとぉぉぉぉ!」
「そこの冒険者さん、私を助けて!」
「いや、魔物は倒すべき存在だよ」
「妾は悪い兎じゃないの。神獣種の月兎よ」と兎が水晶の中で叫ぶ。
月兎――体長1メートル弱の兎、ペロンと垂れたウサ耳に、満月のような黄色い眼と、白鳥のような羽が特徴的。純白のシルクのワンピースには、七色のスパンコールが散りばめられている。
「月兎って、僕が選ぼうとしたキャラだよ。でも、なんで水晶の中にいるの?」
「見たら分かるでしょ。これは罠だぴょん」
「本当は封印じゃないの?」と疑う。
「違うの! 妾は凄く貴重な兎で、時空や時間を飛び越えられるの。だから、狩人が罠を仕掛けているのよ。今や乱獲されて、絶滅危惧種だぴょん」
「つまり、うっかり罠にかかったと?」
「ドジドジ、妾は本当に間抜けだぴょん。美味しそうな月見団子に釣られちゃったの。冒険者よ、ここから出して」
「でも、封印だったら、大変な事になっちゃうよ」
「もし助けてくれたら、貴重なアイテムをあげる。これは不思議な壺笛だぴょん」
「普通の笛だよね?」
「これを吹けば、窮地に妾が助けに来るよ」
一瞬、騙されていると思った。だが、これも何かのクエストだろうと信じて、偃月刀を持った。それで水晶に挑んだ。何度か突くと、努力が実った。
「まさか物で釣ってくるなんて、最近のNPCは本当に精巧だ」
「妾はNPCではない。ただのドジな兎だぴょん」
「自分でドジって言っちゃうんだ。ほら、水晶は割れたよ」
「これで自由だあぁぁぁぁ! 人間よ、この恩は一生を賭けて返そう」
「大袈裟だな」
パリーンと割れた水晶から、月兎が飛び出る。僕の周囲をピョンピョン跳ねる。
だが、あまりに月兎が騒ぐせいで、巨大な蟻に位置がバレる。
「マズイ! 蟻に追いつかれちゃった」
「禁呪詠唱《グリームレイ》」
月兎が呪文を唱えると、一条の光が空間を切り裂いた。その光線で、蟻の体に穴が空いた。さらに、高熱で敵の体を焼いた。
「なんて魔力だ。やっぱり封印された魔物じゃないか?」
「いいえ、妾は善良な兎なの。だから、命の恩人は忘れないわ。これは、お礼だぴょん」
「さっきの壺笛だね」
「それは月光のベッセルフルートだぴょん」
月光のベッセルフルートは、満月みたいな壺笛だった。オカリナより小さく、穴は空いていなかった。何なら吹き口に息を吹きかけても音すら鳴らなかった。
「これ、壊れているよ」
「いいえ、本当に困った時に吹けば、どこに居ても必ず駆けるわ」
「なんか騙された気がするよ」
「妾を信じよ。いつか君が窮地に陥った時、この恩は必ず返す。おっと、人が来たようだ。じゃ、さようなら」
月兎が満月のように煌めき、その光の中に消えたと同時に、後ろの茂みから少女が現れた。
【筆者から一言】
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
本作は、クロスリアリティを題材にしたゲームの話です。
ただ、単純なゲームの話ではありません。ゲームは導入部だけで、そこから本題に入っていきます。実は、その伏線はプロローグにも隠されています。
最近は、ミステリーやラブコメを書いていましたが、久々にハイファンタジーに戻ろうと思いました。順調に行けば、第15回GA文庫大賞(後期)の応募作になると思います。
という訳で、例のごとく、この物語のラストは、どこかの出版社の受賞作として皆さんに伝えたいと思います(と言いつつ、受賞しない場合は、このアカウントで公開予定です)。
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