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恒例行事「出勤ダッシュ」

平日の朝は、家を出るまでほぼルーティン化している。遅刻ギリギリにもならず、かといって余裕があるわけではない時間に体を起こして、無駄なく
出勤までの準備をする。というかイレギュラーなことが無ければ、どんな社会人でも、たいてい毎日同じような流れになるはずなのに、最寄り駅に続く大通りに出ると、いつも同じ時間に全速力で駅まで向かうおばさまがいる。

すれ違うことがあれば、悪い子を探すナマハゲのような鬼気迫る表情で走っているのが分かる。遅刻に怯えながら走っているなら、アラームをあと5分早めるべきだが、毎日ってなると事情があるのかもしれない。おばさんの家から交差点までは、全速力すれば息が上がる距離だが、その様子はさすがに健康維持ではなく、緊急事態な様子に見えてしまう。もしかして遅れちゃいけない舞踏会でもあるのか、でもスカートの裾を持って走ってるわけじゃないしな。

そもそも毎朝のスケジュールに、何かしらのイベントがあるからバタバタしているとしたら意味が分かる。例えば、会社にいる好きピに服を見せるために、朝から一人ファッションショーをしているとか。月曜は派手目な柄物を合わしたらから、火曜日はクールなパンツスタイルで…会社に向かう!!!と意気込みと同時に玄関を開けている。向かう!!が自分の中の仕事とプライベートを切り替えるスイッチで、交差点までくると徐々に体がほぐれてくる。僕の見当違いで、会社員じゃなくてアスリート的な思想なのかもしれない。わざわざ朝一から走りたいわけがないのに…と思うのは、緩い会社員的な発想で、彼女の出勤は走り出すことが、毎日のきっかけになっていたのか?

それとも、走っているのは結果的に仕方なく走っているだけで、実は何かから逃げているからみたいな?そうなってくると事件性が出てくる。出てくるけど、毎日何かから逃げてるなら早くそいつをどうにかしてほしい。どうして朝からそいつから逃げ切ろうとしている。「テーブルを曲がると見せかけて、股抜きだ!」と今まで使ったことないフェイントで惑わせて毎朝玄関を開けてるんだ。家帰っても心休まらないでしょ。それか朝方だけ豹変するタイプのヤツなのか。月みたら狼になる狼男みたいに、朝方になると凶暴化するみたいな。相場は夜だろ。鶏タイプの化け物なのか?おばさんも歯向かうな。保健所にまずは電話してくれ。

謎な私生活を送っているおばさんは、走っているのに関わらず日傘をさしている。そんな時までささなくていい日傘は、上下に揺らされながら、自分の存在意義を無視されてリレーのバトン化している。むしろ日傘が風を拾って、スピードを相殺してる気もするが、それでも傘をさしたいんだから日傘は日を遮る以外にも何か意味があるんだろう。

いや、というより前に進もうとしてると思ってたが、もしかして上に行こうとしてたのか?上下に揺らされてると思っていた日傘は、実は羽ばたいていて、交差点までは飛ぶ前の勢いをつける滑走路として使っていた可能性が出てきた。おばさん in the sky。やられた、前じゃなくて上か。これだから人生の先輩ったら、発想が若輩者の上を飛んでいく。アイディア in the sky。おばさんが走り込んでいた意味が、出勤ではなく出航だと思うとなんだか腑に落ちた。どうしてもう少し早く家を出ないの?と疑問が出ていたが、そういうことじゃなくて、ダイヤ通りに向かっていたけど、ただ上に行かずに前に出すぎていただけ。滑走路から体が離れなかっただけなら、いつか傷ついた鳥が空を飛ぶように、おばさんが飛び立つのを見守ろうと思う。


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