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アルゼンチンで食べる大人の〆ホットドッグ

世界各国の物書きによるリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」。4週目のテーマ「お腹が空く話」をアルゼンチン在住の奥川が綴ります。末尾には、前回走者へのコメントと次回以降のお知らせがあります。過去のラインナップはマガジンをご覧ください。
ハッシュタグで参加募集!
固定メンバーで回してきた企画ですが、海外での話を書きたいな~とお思いの方!ぜひぜひ、「 #日本にいないエッセイストクラブ 」というハッシュタグを付けてお気軽にご参加ください。招待させていただくこともあります。

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アルゼンチンに移住して2ヶ月ほど、毎週のように僕は歓迎パーティーに招待された。もともと内気な性格に加え、ろくにスペイン語も話せなかったこともあり、僕はパーティーに出るのが嫌だった。

その日は妻の親戚の誕生日パーティーに招待された。街の中心にあるクラブを貸し切った大がかりなもの。女性は丈が短く、ボディラインが強調された派手なドレスを着て、男性はジーンズに襟のついたシャツを着ている人が多かった。

人々はグラス片手に談笑したり、踊ったりしていた。僕と妻は人々に挨拶をしながら、主催者であり、主役の一人でもある妻の叔父のもとへ向かった。ちなみに、もう一人の主役こそ僕である。

「叔父さん、誕生日おめでとう」、妻は叔父さんの頬と彼女の頬を合わせた。僕も彼女にならい、同じ挨拶をした。

「よく来てくれたね!みんなに君を紹介しよう」と叔父さんは言い、流れている音楽を止めて、みんなの注目を集めた。

「今日は私の誕生日パーティーに集まってくれてありがとう!みんなに紹介したい人が到着しました。彼が私の姪と結婚するため、はるか遠い日本から来たシュンです!」

割れんばかりの拍手が起こり、口笛も聞こえてきた。盛り上がりが落ち着いたところで、叔父さんは僕にマイクを渡した。

日本語でも大勢の前で話すのが苦手なのに、不慣れなスペイン語でのスピーチなんて地獄だ。脇にひんやりとした感触があった。

「こんにちは、日本人のシュンです。まだスペイン語は上手く話せません。でも、このミアモール(愛する人)とすぐに結婚します!」

何事も勢いでどうにかなる。

その後はいつも通り、興味本位に話しかけてくる人々に愛想よく対応し、妻とダンスを踊らされ、ボトルに半分ほど残ったシャンパンを一気飲みするだけ。

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パーティーが終わったのは明け方の4時ころ。いや、正確に言えばまだ終わってはいなかった。精神的にも肉体的にも疲弊しきった僕と妻は、一足先においとましたのだ。

街の中心から自宅まで歩いて帰ると1時間以上かかる。僕たちは冬の冷たい風にさらされながら、タクシー乗り場へ向かった。

15分ほど歩いて、タクシー乗り場へ到着。金曜日の夜ということもあり、多くの人々が夜の街を楽しんだのだろう。いつもは手持無沙汰にしている真っ黄色のタクシーはなかった。

僕たちは身を寄せ合い、ベンチに座り込んだ。すると、緊張から解き放たれたせいか、無性にお腹が空いてきた。

「あれだけ飲み食いしたのに、お腹空いちゃった」

「私も」

少しの沈黙が流れ、「ねえ、パンチョ食べましょ!」と妻が言った。

「パンチョ?なんだいそれは?」

「ホットドッグよ!夜遊びの後はホットドッグと決まっているんだから!」

急に元気づいた彼女に手を引かれ、僕たちは5分ほど暗い街中を歩いた。

「あった!カリート・デ・パンチョス(ホットドッグ屋台)よ!」

彼女が指さした先には、街路灯の明かりに照らされた黄色い小さな屋台がぽつんとあった。

メニューは、パンチョ15㎝とスーパーパンチョ30㎝の2種類だけ。

僕たちに気づいたはげた髭面の店主が、重そうに腰をあげた。中には、暖房器具と椅子があり、大きな鉄板の横には細長いアルミ製の鍋に沸騰したお湯が入っていた。

妻がスーパーパンチョを2つ注文すると、店主は細長いパンを鉄板の上に乗せた。

パンの片面を焼いている間に、クーラーボックスから取り出した凍ったソーセージを4本お湯の中に入れる。パンをひっくり返すと、こんがりとパンは焼けており、良い香りが漂ってきた。

パンの両面を焼き上げたところで、店主は細長いナイフで側面からパンに切れ込みを入れる。ソーセージを2本並べたところで、彼はトッピングを尋ねた。

妻はマヨネーズとポテトチップスを頼んだ。

店主は初めにマヨネーズをかけ、パンチョをナプキンの上に置いた。それから砕いたポテトチップスをたっぷりまぶすのだ。マヨネーズが接着剤の役割を果たしているから、ポテトチップスは落ちない。

見るからに、ジャンキーでおいしそうだ。

僕は妻のトッピングに加え、ケチャップもかけてもらった。店主が好意で、ポットから湯気を立てるカフェオレを注いで渡してくれた。

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お腹が早く食べさせてくれと鳴いている。僕たちは駆け足で、近くのベンチに腰をかけた。初めて食べるアルゼンチンのホットドッグ、いやパンチョ。

トッピングはマヨネーズとポテトチップス、ゆでただけのソーセージと日本のものとは違う。

僕は大きく口を開いて、パンチョをほおばった。

ああ、これは文句なしに美味い。

パンの表面はかりっと焼かれているのに、中はもっちりしている。ゆでたためかソーセージの風味は豊か。温かいカフェオレは優しく身体を温めてくれる。

パンチョを半分ほど食べ終えたところで、僕はそれまでの22年間、一度もホットドッグにマヨネーズとポテトチップスをトッピングしたことがないことを後悔した。

これら2つを加えることで、パンチョが濃厚で塩気たっぷりのものへと大変身するのだ。

普通に食べても美味しいが、たっぷり酒を飲んだ後だからこそ格別だ。移住して数年たった今はわかるが、ネウケン州の人々はバーやクラブ帰りに決まってパンチョを食べる。

〆のパンチョだ。

唯一失敗したと思うのが、このパンチョにケチャップをかけたこと。

マヨネーズとポテトチップスだけのシンプルな組み合わせこそ至高なのだ。

さすがアルゼンチン人の妻は経験から熟知している。そのことを伝えたところ、「パンチョにケチャップなんて子供の食べ物よ」と言われた。まさにその通りだ。

それにしても本当に美味しい。冷静に考えてみれば、それも当然だ。マヨネーズ・ポテトチップス・ソーセージ、このジャンキーな組み合わせがまずくなるはずがない。どうして今まで気づかなかったのだろう。

この日以来、僕はパンチョの虜になった。チェダーチーズやパルメザンチーズのソースをかけるなど、様々なトッピングに挑戦したが、やっぱりたっぷりのマヨネーズとポテトチップスだけの組み合わせが一番だ。

僕たちはあっという間に30㎝のパンチョを食べ終え、元気いっぱいにタクシー乗り場へと向かった。あとはベッドの中で彼女と体を温めあい、昼までぐっすり眠るだけだ。

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前回走者チリのMARIEさん。アルゼンチンとチリはお隣さんということもあり、よくチリに旅行に行くんですけど、本当にハンバーガーは絶品です。僕はアボカドがたっぷり挟まったハンバーガーを必ず食べます。あとチリ料理は、基本的に量がものすごく多いです。ああ、チリのハンバーガーが食べたくなった。。。

世界各国の物書きによる「日本にいないエッセイストクラブ」の第4巡目はここにてゴールです。次回、第5巡目のテーマは「思い出の写真」。世界各国に住む物書きたちは、どんな思い出話と共に写真を紹介してくれるのでしょうか。トップバッターは森野バクさん。どんな話が飛び出すか、どうぞお楽しみに!

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奥川駿平🇦🇷
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