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新型コロナウイルスで外出禁止となったアルゼンチンの暮らし

アルゼンチン全土で外出禁止開始

最近は、警察と軍隊が鳴らすサイレンを聞きながら、マテ茶を飲むのが日課だ。

2020年3月20日、コロナウイルスの影響で、アルゼンチン全土で不要な外出禁止となった。

日常生活で外出できるのは、基本的に日用品と医薬品の買い物時のみ。買い物に行けるのは、各家庭1人だけ。営業しているお店もスーパーと薬局ばかりで、当然ながらカフェやジム、教会などは閉鎖されている。

地元のスーパー「カプリオーロ」は、外出自粛措置が発表されてから、営業時間を変更した。普段は9時から13時、17時から20時までの営業時間で、長い昼休憩シエスタを挟む。でも、外出禁止中はシエスタなしの、9時から17時までだ。また多くのスーパーは、症状が悪化しやすい高齢者のために、特別時間を設けている。

外出禁止開始から数日は、事態を深刻に捉えていない人が多くいた。10日間での違反者数は、約3万3千人にもなるようだ。

僕はアルゼンチン中西部のネウケン州に住んでいる。ここはまだ、昔ながらの伝統が根強く残る州だ。例えば、日曜日のランチは家族全員が集まって伝統炭火焼肉アサドを食す。

外出禁止となって迎える初めての日曜日、アルゼンチン人の妻が昼食を準備していたところ、義母からメッセージが送られてきた。

「アサドできたから、おいで」

一瞬、日曜日だけ外出が許されているのかと思ってしまったが、そんなことはない。多くのネウキーノ(ネウケン州に住む人々)からすれば、外出禁止でも日曜日は来るでしょ?みたいな感覚なのだ。

そんな状況を受けてネウケン州知事は、日曜日は食料品店の営業も全面禁止にし、月曜日から土曜日の外出可能時間は8時から20時までと定めたのである。

19時55分頃から、警察と軍がサイレンを鳴らして、帰宅を促す。普段は多少の遅れが問題にならないアルゼンチンでも、外出禁止中は5分前行動が厳守されているようだ。

評価を高めるアルベルト大統領

徐々にだが、国全体でコロナウイルスを防ごうという雰囲気が出てきた。それは、アルベルト大統領の影響が大きいのかもしれない。

毎日ニュースを見ていると、コロナウイルスの対応で、各国政治家の評価は大きく上がり下がりしている。アルベルト大統領は、評価を上げているだろう。

3月3日に国内で初の感染者が確認され、15日には国境閉鎖と学校の一斉休校を発表。そして20日に外出禁止開始である。未曽有の状況の中、かなり高い危機感を持って対処しているように感じる。

「アルベルトの早い対応は良かったよね」、僕はオンライン・マテ茶会中に友人ローサとマクシィに言った。

「イタリアみたいになる可能性があったからね」

インテリのローサのこの説明には、とても納得した。アルゼンチン人の大半は、現在コロナウイルスの被害を大きく受けているイタリアとスペイン系移民である。つまり、国民性や文化などはイタリアとスペインの影響を色濃く受けているのだ。

コロナウイルス対策で重要なのは、人の集まりを防ぐこと。例えば、先に挙げた日曜日のランチでは、家族全員が集まる。僕の家族を例にすると、義父母と義理の妹、義姉家族、僕の家族の少なくとも10名は集まる。

その場に1人でも感染者がいると、多くの家族にコロナウイルスが伝染する可能性がある。想像してみるだけで、ぞっとする。

定期的に家族が集まる文化の国は、コロナウイルスとの相性は最悪なのだろう。普段の生活で、ミニクラスターが発生する場面が多くあるのだ。やっぱり、アルベルト大統領の迅速な判断は功を奏したと思う。

また、外出禁止中は収入が減るため、政府は様々な経済補助も実施した。代表的なのは、大多数の世帯への1万ペソの支給だ。僕の家の家賃は1万5千ペソと考えると、なかなか大きな額だと分かるだろう。

アルベルト大統領はポピュリズム傾向あるペロン党出身のため、こういったサポートはお得意である。そのポピュリズム政策が支持されることも、批判されることもある。しかし、こういった深刻な事態の時、この国に住む者として正直に言うと、とても頼もしさを感じる。

そして、アルベルト大統領が多くの国民のハートを掴んだのが、このセリフだ。

"Una economía que cae se levanta, pero una vida no(落ち込んだ経済は立て直せるが、失った命は戻ってこない)"

その日、僕のSNSでは一枚の画像がバズっていた。それは、アルベルト大統領に女の子が抱き着いた姿を映しており、下には「アルベルト、養子にして!」のキャプション。

アルベルト大統領の教えを守り、自宅から巡回するヘリコプターに挨拶する少女。そのことを知り、大統領は「皆を危険にさらしている大きな子供たち(大人)よりもこの少女は危険性を理解している」と述べたうえ、コロナウイルスが終息したらヘリコプターに招待するとツイート。見事にバズる。

外出禁止中、アルベルト大統領は積極的にSNSを活用して、国民との交流を図っている。ツイッターでやり取りする他、インスタライブで有名歌手との対談をライブ配信もした。

昨年の大統領選では、マクリ前大統領を支持していた我妻も、完全にアルベルト大統領の虜である。

外出禁止令中の過ごし方

外出禁止となって2週間以上たった。当初は3月31日までの予定だったが、イースター休暇明けの4月12日まで延長された。しかし、政府は5月初旬に感染ピークを迎えると予想したため、4月中は外出禁止令が継続される可能性は十分にある。

普段から自宅に籠り切っているとはいえ、やっぱり多少の息苦しさみたいなものは感じる。特に4歳の息子は、友達たちと思いっきり外を走り回りたいようだ。考えてみると、3月から始まった幼稚園も2日間だけしか行けてない。

不幸中の幸いは、庭があることだ。ネウケン州は庭付きの家が多く、皆多くの時間を庭で過ごしている。庭越しに会話する人達もいるほどだ。息子もストレス解消するかの如く、ひたすら庭で犬を追いかける日々。

家に籠っている時は、料理が娯楽になる。妻と息子はトルタフリータ(揚げパン)やケーキ、ピザ、エムパナーダ(パイの包み焼き)などを一緒に作っている。僕もまた、炭火焼肉アサドを作る釜を有効活用して、頻繁に炭火焼肉やハンバーグ、ピザなどを焼いている。

平日にも至る所で灰色の煙があがっているから、他の家庭でも炭火焼き料理を楽しんでいるのだろう。こんな時だからこそ、少し手の込んだ料理が心と体を豊かにしてくれる。でも、外出禁止が解除されたら皆、少しだけ身体が丸くなっているような気がしてならない。

後は、オンライン飲み会ならぬオンライン・マテ茶会をしたり、教会の神父さんなどはフェイスブックでオンライン配信をしたりしているようだ。

とまあ、外出禁止中のアルゼンチンの生活はこんな感じ。自由に外を出歩けないのは不便だが、自分や家族のためにも、今は出歩く時期ではない。

いつ来るのかは分からないが、コロナウイルスが落ち着いたら、大切な人たちと子ヤギのアサドを楽しみたい。

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奥川駿平🇦🇷
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