バーチャル・マッチング その3
relationship breaker
ある日、帰宅すると母親が声を掛けてきた。
「青森のおばあちゃんが亡くなったから法事があるわよ。今週末は大丈夫?」
そろそろ親族の法事が増えてしまう歳になったか、なんてちょっとへこみながら
「ああ、大丈夫だよ。」
と返す。一応は長男なわけだし、顔を出さないわけにはいかないだろう。
同じ県に住んでいるのに、田舎に戻るのは相当久しぶりだ。前回来たときは高校生だったか。来年から中学校に行く、なんてウキウキしてる従妹を見て理由もなくイライラしていたことだけしか覚えていない。
「お久しぶりです。この度は…」
ありきたりな挨拶をしていると、線香をあげる従妹が目に入る。記憶の中にある姿とは全く変わりすぎて、一目では気づかなかった。
「来てたんだ。最近帰って来ないって聞いてたけど。」
あまりの変わりように驚きつつも声を掛ける。
「あんたも実家に戻れって言うつもり?」
「いや別に。久しぶりだったから挨拶をしただけ。」
「そう。」
当時は真っ黒だったのに今はすっかり明るくなった髪を掻き上げ、全く興味がなさそうに答えてくる。
味が薄く口に合わない精進料理もそこそこに、外の空気を吸いに出た。エントランスを抜けると、ベンチで携帯をいじる彼女が俯いたまま話しかけてきた。
「つまらなさそうな顔してるね。」
「大人になってから法事が楽しい奴なんているかよ。」
「声かけてきた時からしけた顔してた。」
ちょっとムッとして言い返す。
「そういうお前はどうなんだよ。実家を出て伸び伸びってか?」
驚くほど明るい顔で彼女が顔を上げる。
「こんなクソ田舎飛び出せて最高の気持ち。家を出てからずっと。」
こちらを真っすぐ見据える眼が、本心なんだと伝えてくる。何も後ろめたいことはないはずなのに、俺は言い返す言葉を探すことすらできなかった。
月曜の朝、俺は課長の部屋の扉を叩いた。
「失礼いたします。課長、先日の転勤の話ですが―」