バーチャル・マッチング その6
メジャー・タイプ・ラメテイション
たかがタトゥーを入れるだけで親族からこんなに厳しい視線を向けられるとは思ってなかった。別に極道の道に進んだわけじゃない。手首や足首に軽く模様を入れただけだ。それなのにみんな白い目を向ける。
実の親から面と向かって「そんな事をするように育てた思いはない。二度と顔を見せないでくれ。」と言われた時はさすがに応えた。
もともと自信が持てないタイプの人間であるという自覚はあった。なにかを一生懸命やり切ったという経験があるわけでもなし、中途半端な人生を送ってきた。「周りが進学するから」という理由でクソみたいな大学に進学し、特に何かを成すでもなく卒業した。底辺大学を卒業したことが就活にポジティブな影響を及ぼすわけがなく、どこにも就職が決まらないまま所謂就職浪人というものになった。
それでも実家は出たかったので、フリーターをしながら独り暮らしを始めた。
そんな折、音楽にはまった。HIP HOPというジャンルだったのが災いし、世間一般で言うところの「柄が悪い」友人が増えた。クラブに入り浸り、まともな仕事についている人はほとんどいなかった。
それでもどこかで一線を引いてる人がほとんどだった。そんな中で目立つためには、他人より過激なことをするしかなかった。そこで私が選んだのがタトゥーだった。
一番最初は目立たないところに入れた。でも誰にも気づいてもらえず、次は洋服を着ていても見えるところに入れてみた。これまでの弱い自分を少しだけでも変えることが出来た気がした。
そんな事をして何となくでも自分に自信を持てたのか、久しぶりに実家に顔を出した。お盆だから親戚が集まっていた。
そこで私を待っていたのは親戚からの気を使ったような言葉と、肉親からの勘当の言葉だった。
せっかくこれまでの弱い自分を変えられた気がしたのに。私にとってタトゥーは洋服を着るようなものなのなのに。
腕の外側には対外的に強さを示すような柄を、腕の内側には本当の私を示すような柄を彫ってきた。本当はその間を繋ぐ柄を入れるつもりだった。そうして私がまた外の世界に羽ばたけるきっかけになればと思っていた。
でも私の考えは間違っていたみたいだ。どんなに取り繕っても本当の私を外の世界で表現することはできない。外側と内側には明確な線引きが必要なんだ。
幸いなことに私は他の人よりも少し毛が濃いみたいで、普段から脱毛用の剃刀を愛用していた。これを使えばきれいな線が引ける。
クッと力を入れて引くと、まるで絹ごし豆腐を切るように刃が入っていった。鮮やかな赤いラインが私の外と内を隔てていく。
結局のところ、こうするしかなかったのだろう。勘当されたとはいえ家族が私の事を悲しんでくれれば良いのだが。
それにしてもこんなに私の心臓がドクドク言っているのは何時ぶりだろう。