高収入
バーニラバニラ、バーニラ、バニラ、高収入ならバーニラ♬
耳にしつこくしぶとく纏わりついてくるこのメロディと合成甘味料のような甘ったるい声に、吐き気を覚える。
あ、いやこの胃の不快感は極度の空腹下にレモングミを食べたせいだったか。
街ゆく人たちはみんな、嘲笑するように音源である広告トラックを一瞥してすぐに元の会話を再開する。
無関係だと思ってるんだろうし、実際そうなんだろうな、この人たちとあの歌の世界は。
居場所もなく金もなく、頼れる家族や友達も、体目当てじゃない恋人もいない。そんな女の子にはこの歌がどう届くんだろうか。
いや、そんな絵に描いたようなマンガみたいな悲劇のヒロインばかりじゃなく、埋め方を知らないか、埋めきれない心の隙間を持ってるってだけのどこにでもいる女の子たち、だったりするんじゃないのかな。たまたま、ふと手の届くところにあの世界があった、だけの女の子。
そういう人たちにとって、居場所となりうるその世界を、直感的な嫌悪のみで否定することは少し違う気がする。
そんなこと言ったって、かくゆう私も品のないその広告の不愉快さにマスクの中で顔を歪めたんだけど。
需要があるのも事実、そして供給者がいるのも現実。古代からずっと。
何が言いたいって、そういうのはなくて、ただ思った、それだけ。
私には、今仕事がないけど、資格はある。頼れる人たちも少なからず、いる。ちゃんと、顔を浮かべられる。隙間はいつもあるけれど、埋めきれなくても平気なくらいの、むしろなきゃいけないくらいなサイズ感。隙間が広がった時には、それを埋めてくれるものや人たちがいる。
仮にそれらを全て失ってしまったら、私もあの歌に危うく脆い希望をみてしまうんだろうか。
人生何があるか分かんないもん、ないとは、言い切れない。
自分にこれからどんな不幸が降って来るか幸せが待ってくれているか、なんて考えてもね。
人間万事塞翁が馬。
なんてね。今日覚えた言葉をね、
言いたかっただけだったりする。
まなちゃんは13歳で知ったらしいけど。
え。
でもまぁ、今の私が過去の私より前進してればはなまるあげちゃう。
なんてことを考えていた、
渋谷スクランブル交差点にて。