妻との信念対立、ワクチン推進vsワクチン忌避
新型コロナワクチンの接種が進んでいる。僕の住む沖縄県の離島でも、5月から高齢者の接種が始まろうとしている。
ワクチン接種についての情報発信も、村の広報などを通して、診療所医師という立場から、正確な情報の発信に努めている。
その一つが、村の広報誌に毎月投稿している「診療所たより」で、その原稿のチェックを、非医療従事者の視点から妻にお願いしたところ、ワクチンに対して妻との間に、埋められない信念対立があることに気づいた。
僕は、どちらかと言うと「ワクチン推進派」。でも妻は「ワクチン忌避」の代表。
そんな妻と、ワクチンについて話すとものすごく対立した。理屈で話しても直感的な妻には通じなかった。それがもどかしくもあり、腹立たしくもあった。
一方で、僕と患者、地域を結びつける「眼」にもなってくれている妻に感謝したい気持ちになった。
今回のワクチンは確かにすごい。発症予防も、重症化予防も、そして最近分かってきた、感染予防効果もかなり高い。
新型コロナによる犠牲者が増え続け、医療逼迫が増す今この世の中で、国が、医療従事者が、ワクチンを普及させようと情報発信に苦心しているのは分かる。僕もその1人だ。
もし今回のワクチンが、変異株が増え始める前に、もう少し早く日本国内で広まっていたら、いわゆる「集団免疫」によって流行は収束していたのではないかと思ってしまう。それくらい、今回のワクチンの効果はインパクトがある。
一方で、いわゆる「ワクチン忌避」と呼ばれる人たちの言うことも理解できる。長期的な副反応についてはまだ未知数で、時間でしか証明できない。そのような未知の部分に恐怖を抱くのは当然だ。
自分や家族が感染することに現実味を感じない、あるいは感染しても自然に良くなるでしょっていう「自然派」の人にとって、ワクチンのメリットより、そのような未知のデメリットは大きく感じられるのだろう。
多分僕も、医療従事者じゃなかったら、ワクチンは受けない派だったと思う。
最近、診療中に、患者さん一人ひとりに問いかけると、副反応が心配で接種するか悩んでいる人が、3人に1人くらいの割合でいた。
驚いたのは、「周りが打つなら自分も打たないといけないでしょ」「打たないと仕事やめないといけないの?」と、周囲の目を気にしている人が、結構な割合でいたことだ。
日本は「同調圧力」が強い。沖縄の離島はなおさら強い。それが、離島という小さなコミュニティの、協調性を強い拠りどころとして生きてきた人たちの、アイデンティティでもあるからだと思う。
そこで気づいた。僕のような医療従事者が、「ワクチン推進派」として一方的な形で、離島という少し「窮屈」な社会に情報発信することは、一部の人を苦しめてしまうのではないだろうか。
島に住む、特に高齢者は、情報リテラシーがあまり強くない。僕の発信する情報は、そのような人たちにとってある程度影響力があるのは事実で、自分の発信する情報にはとても気を遣う。新型コロナワクチンならなおさら。
僕はただ、事実に基づいた情報と、判断の軸になるような視点を届けるつもりだったが、妻からの指摘を受けて「集団免疫」のためにワクチン受けましょ〜という、やや一方的で、一部の人に圧力をかけかねない内容になっていることに気づいた。
妻とはいつも、散歩しながら、写真のような場所で語り合ったりする。そこでいつも貴重なインスピレーションを与えてくれる、妻の存在に改めて感謝した。