人生を立ち止まって見つめ直すブレーキのようなもの
駆け抜けることでしか得られないやり甲斐や爽快感もあるけど、ふと立ち止まることで初めて目にする世界もある。そんなことを、昨日の診療後の散歩で目にした景色からふと思った。
診療後の夕方、気持ちよくランニングしようと家を飛び出したけど、全然いつもの調子が出なかったのでつらつらと歩きながら景色を楽しんでいたら、普段目にしない場所に、ニョキッとリュウゼツランの幹が蕾を付けて伸びていることに気づいた。
その姿は、断崖絶壁で大海原を背景に、とても凛々しく見えた。数十年に一度しか花を咲かせないというのを知っていたから、尚更だった。その場所で、風を感じながらしばらくぼーっと過ごした時間は、なんだかとても貴重で愛おしかった。
さっそうといつものペースで走っていたら、決してその景色や瞬間に出会えなかったと考えると、「調子が出ない」ことが逆に良かったと思えた。身体の不調は、普段気づくことのない世界に出会えるチャンスを与えてくれる。
話が発展するようだけど、病気や身体の不調って、良い意味で人生のブレーキなんだと思う。「立ち止まって足元を見てみて」「こんな素敵な世界だってあるよ」って教えてくれる、ある意味で「人生のお供」的な。
今日の診療で、健診を受けたことのない30台男性に採血したら、そこそこヘビーな糖尿病が見つかって薬を開始した。診療現場ではありふれたことだけど、彼にとっては人生を立ち止まって見つめ直すチャンスになるかもしれないと後で思った。
それまで肉と米しか食べなかった食生活を見直すチャンス、身体を大切にしようと思い直すチャンス。もしかすると家族の健康を一緒に考えてみようと思えるチャンス、糖尿病を持つ人への見方が変わり、病気を持つ人への共感が生まれるチャンス。
病気ってほとんどネガティブな側面しか取り上げられないけど、自分を大切にすることを通して人に優しくできるポテンシャルを持った、ポジティブな側面もあるかもしれない。
そんなポジティブな側面にもスポットライトを当てられると、日々の診療の世界が広がり、より温かみのあるものになるかもしれないと思った。