ILY,hubってどんなところ?オフィスを解体してコミュニティスペースをオープンした理由
Hello, people.
ILY,の辻原です。
9月14日、ILY,は代官山に新しいデザインのためのワークススペース「ILY,hub」(以下「hub」)をオープンしました。
「“good days”を実現するためのソーシャルデザインの実験場」と称して、ILY,のメンバーはもちろん、ビジネスパートナーやクライアントなど社外の方々も集まって交流できる空間となっています。
「なぜ、今?」と疑問に思われる方も多いでしょう。現に、コロナ禍で在宅ワークが推進される昨今、都心では“脱オフィス”をしている企業も少なくありません。そうした中、時代に逆行するような形であえて人が集まる場所をつくった背景には、私たちILY,のビジョンにかかわる強い想いがあります。
今回は「なぜ今、ILY,はhubをオープンしたのか」「hubで何をしようとしているのか」などについてお話ししたいと思います。
“ソーシャルデザインの実験場”でできる3つのこと
ILY,hubには、大きく分けて3つの機能があります。
1.ソーシャルデザインのためのコミュニケーションスペース
平日の日中(9:00~19:30)は、デザインに取り組めるコワーキングスペース(=コクリエーションスペース)として機能。都内には数多くのコワーキングスペースがありますが、デザインに特化したスペースは例がありません。この昼間のhubは、ILY,の社内外問わず、さまざまな人が集まって、コミュニケーションを交わしながらアイディエーションやアウトプットができる空間になっています。
2.ディスカッションと対話のための会員制バー
平日の夜(19:30~23:00)のhubは、ビジネスパーソンがビジネスやデザインについて語り合える会員制のバーになります。夜のhubでは「どうすればよい未来を実現できるだろう」「よい世界とはどのような姿だろう」といった壮大な話が語られることも。誰もが考えたことがあるけれど、ほかの場所で話すのはちょっと恥ずかしいような話も、時にフランクに、時に真剣に語れる空間です。
3.文化と体験のためのイベントスペース
休日(11:00~17:00)のhubでは、ポップアップレストランやアート展示など、カルチャーを体験できるイベントを開催予定です。クリエーションに欠かせない文化的な視点を得ることができます。
また、hub内にはワークデスクやカフェ&ダイニングスペース、キッチン&バーカウンターを設置しているほか、ビジネスやデザインに関する書籍、付箋、ホワイトボードなども完備。コクリエーションやディスカッションを活発に行える環境になっています。
「Design, for good days.の専門研究機関」になるために。2年間温めてきたhub構想
こうした機能を持つhubの立ち上げは、実は数年前から構想していたものでした。
背景にあるのは「単なるデザインファームではなく、ILY,を『good daysを実現するデザインの専門研究機関』にする」とういう構想です。私たちはクライアントからご依頼いただく仕事の中で、ビジネスやブランドのデザインをはじめとしUI/UX デザインからプロダクトデザイン、空間デザインに至るまでさまざまなデザインに携わっています。プロジェクトや案件それぞれに必要なデザインは別個ですが、「ユーザーを幸せにする」「よりよいサービスを実現する」「持続可能で全体最適なビジネスを設計する」といったプリミティブなデザインマインドは全てのプロジェクトに共通しています。つまり、私たちは短期的にはプロジェクトの完遂を、それらを通じ長期的にはDesign, for good days.(ILY,のミッション/ビジョン)の“研究”を行っているのです。
「専門研究機関」というと閉鎖的な印象もありますが、私たちは社内外を問わず社会に開かれたオープンなチームを目指しています。業界内の他社はもちろん、他の業種・領域の企業や個人も巻き込んでこそgood days、すなわち「よりよい社会」をデザインできると考えているからです。
私たちが目指すモデルとして掲げているのは、アメリカのマサチューセッツ工科大学内に設置された「MITメディアラボ」です。同ラボでは、所属する研究者たちが学際的な研究に取り組んでいますが、資金源はグローバルで活躍する企業からのスポンサーフィーです。個々の研究グループやプロジェクト単位で支払われるのではなく、ラボ全体のより一般的なテーマに対して支払われます。この仕組みにより、研究者たちの自由な研究活動が担保されるとともに、スポンサー企業はラボのすべての研究成果にアクセスすることが可能に。さらに、スポンサー企業がラボのグループと連携して研究することもできます。
ILY,が長期的に目指すのは、このMITメディアラボのデザイン版です。プロジェクト単位でデザインに取り組むのではなく、good daysを実現したいパートナーやサポーターと長期的にデザインの研究・実践をしていくような在り方です。そういった長期ビジョンを視野に入れ、9月に代官山にILY, hubをオープンしました。クライアントやパートナー、ILY,メンバーが会社の壁を越えて集まり、ディスカッションやクリエーションに取り組む拠点として活用していきたいと考えています。
コロナ禍の今、人が集まる場所をつくる決意をしたワケ
とはいえ、このタイミングで人が集まる場所を立ち上げるのがハイリスクなのは確かです。それでも今、hubのオープンに踏み切ったのは2つの理由があります。
1.メンバーがコ・クリエーションを体験する場が必要だった
1つ目は、ILY,のメンバーが前向きに集まれるスペースをつくる必要があると考えたことです。
コロナの影響で2020年3月〜8月はILY,も全面的にリモートワークに移行しました。4月には「これまでの働き方が変わる」と確信し、表参道のオフィスをクローズすると決めました。
「とはいえみんなが集まる場所は必要だし...」と、私はステイホーム期間中ILY,にとってのオフィスの意義について考えていました。個々人が割り当てられたタスクや専門業務を遂行する「プロフェッショナルワーク」の範囲であれば、リモートワークでも十分可能です。むしろ、オフィスがプロフェッショナルワークをするだけの仕事場なら、不要であるとすら言える。
しかし、私たちの仕事はプロフェッショナルワークのみならずILY,のチームメンバーやパートナー、クライアントが集まりディスカッションやワークショップを通じ成果を出す「コクリエーションワーク」の要素も欠かせません。何より、こうしたコクリエーションワークを実践するチームをつくるために、私は個人事業主をやめてILY,という会社を立ち上げたのです。
このコクリエーションの体験を担保し、メンバーがILY,で働く理由を生み出していたのが、ILY,にとってのオフィスでした。オフィスというよりも、それは実験や発明、学習、コミュニケーションのための“秘密基地”のようなものです。ILY,がILY,であるために、もう一度、メンバーが前向きな気持ちで集まってこられる“秘密基地”をつくろう。それが、今のタイミングであえてhubをオープンしたひとつ目の理由です。
2.「やるべき仕事」を創出する場として
2つ目は、さまざまな人との交流によって「私たちのやるべき仕事」を生み出したいと考えたからです。
ILY,には営業部隊がありません。そのため私たちの仕事は、メンバーと社外の人との交流から生まれるものや「こんなことって出来るのかな?」とご相談いただくものがほとんどです。コロナ禍ではそうした交流の機会が激減したため、要件が確定した状態で「これを作って欲しい」というご相談が増えてしまいました。こうした傾向は私たちにとってはあまり良いものではありません。見通しづらい社会であるからこそ理想的なゴールのために、より柔軟に共創を行っていく必要があるからです。共創の機会を積極的に作り出すために、コミュニケーションの場であるhubを立ち上げたという側面もあります。
さらにこうした決意を後押しするように、知人の引き合わせによって4月末に好条件のスペースに出会うことができました。
ある意味hubは、コロナ禍があったからこそ生まれた場所なのかもしれません。
「good days」のためのコレクティブインパクト
私自身は「デザインによる社会実験のためにILY,を経営している」と考えています。私はデザインやアートといったある意味感情的で定性的なもの、一見非合理的で理論になりきらないものが持つ「力」を信じています。私たち人間は間違いなくその力によって心を動かされ、豊かな人生を歩むことができるからです。私はその力をビジネスにおいて実証したいと考えていて、創業時からの関心事は一貫して「Good daysはデザイン可能なのか?」の仮説検証に尽きます。
コロナ禍による外出自粛期間中、中国、イタリア、香港、アメリカ...世界中のバッドニュースが私たちの窮屈な気持ちをさらに陰惨にしました。それらのニュースを受けながら「本当にgood daysをデザインすることはできるのか」と自身の非力さに悲しさと情けなさを感じていました。大規模で困難な社会問題に対して、一個人や一企業はあまりに無力です。
しかし目的を同じくする人々が集まり対話を行い、議論やアイデアを交わし合い、知識や情報を交換し合うような場や機会・コミュニティをつくることができれば、実際に社会を大きく動かす取り組みに発展させることもできるかもしれません。目的が同じであれば協力し合いwin-win-win-win...な関係になりえますし、相互に還元可能な組織を社外に持つことは私たちのような小さな会社にとってだけでなく、あらゆる企業にとって意味のある生存戦略であるはずです。今後のビジネス環境を鑑みてもこうしたコレクティブインパクト的視点は非常に重要だと考えていて、ILY,hubではそうした「コレクティブインパクト」の仮説検証も行っていきたいと考えています。
good daysについて考えるなら、とりあえずILY,hubに行ってみよう
私の直近の夢は「good daysについて考えるならとりあえずILY,hubに行ってみようよ!みんなで話してみよう。」と言ってもらえるようになることです。ビジネス領域、文化・アート領域を問わず、さまざまな人たちがhubに集まり、対話し、good daysのための取り組みがどんどん生まれるようになるといいなと思っています。そうした働きかけを精力的にやっていきたいと考えています。
皆さんにもいつか、ILY,hubの仲間に加わっていただけることを楽しみにしています!
Thank you, we love you.
ILY, inc CEO
Business Designer
辻原咲紀
新卒でデザインプロダクトメーカーに就職、営業・マーケティング・商品企画・デザインの領域を横断し担当。インハウスでの広告制作やブランディング・アートディレクションに携わり独立。ベンチャー企業への技術提供・企業立ち上げなどを経て、0→1、1→100まで幅広いデザインに従事。2016年にデザインのコンサルティング&クリエイティブエージェンシーのILY.incを設立。経営・事業開発・コミュニケーションなど領域を横断した様々なデザインに取り組む。広島市立大学非常勤講師。
私たちILY,は、ロゴ制作やビジュアルデザインなどの”見た目のデザイン”にとどまらず、MVV策定や事業・サービスのコンセプト設計などの”コトのデザイン”もご提供しております。お気軽にご相談ください。