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ワークマンにおけるデザイン経営とは【ILY, Designability cast】

前回に続き、ワークマンについての考察をしたpodcastの配信を記事化しました。
今回は「ワークマンのデザイン経営について」です。

作業服の小売業だったワークマンが、2018年にカジュアル衣料品「WORKMAN Plus+(ワークマンプラス)」を出店して約2年。今ではユニクロの国内店舗数を超えるほどの急成長をしています。急成長の裏には、どのような要因があったのでしょうか。同社の業務変換、商品力など、様々な角度から考察し、3回にわたってpodcast配信をしました。
『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』(日経BP)を参考図書として、本の内容にも触れています。

デザイン経営とは?

2018年に経済産業省と特許庁が、『デザイン経営』宣言」を取りまとめましたが、それ以降、国内でデザイン経営の好例は出ていないことが課題とされています。ただ、私たちは、優れた経営のすべてが、デザイン経営だと思っています。これまでお話してきたユニクロもGUも、私たちから言わせるとデザイン経営ですね。とはいえ、単純に、ロゴのデザインを改善することが、デザイン経営なのかというと、そうではなく、私たちは、デザインという言葉を、もう少し広義に使っています。デザイン経営とは、経営におけるいくつもの課題を、一つの手法で効率的に解決することをだと考えています。
ロゴを変えて、「デザインがよくなったね」というのは、一つの手を打ち、課題が一つ解決したにすぎません。ユニクロの例でいえば、ロゴを変えることによって、ロゴのダサさが解決された、伸び悩んでいた海外店舗のブランディングができた、消費者のブランドイメージや需要が変わったなど、複合的に解決できています。私たちは、これこそがデザイン経営だと思っています。

「意味のイノベーション」の実現

それを踏まえて、ワークマンのデザイン経営の話に入りたいと思います。
デザイン経営の第一段階は、現場を変えることで、UX(ユーザーエクスペリエンス)を高めることです。ワークマンは、同時出店によるABテストやフィールドワークを積極的に行い、データ分析していますが、それにより、時間帯による来店者属性の違いを発見しています。9時から10時は、作業服を買いに来る職人さんなどプロ客、10時から17時は一般客、そして17時以降にプロ客が戻ってくるというものです。この結果をうけて、時間帯によって、売り場のディスプレイを変えることで、同じ商品の見せ方を変えています。
デザイン思考の中に「意味のイノベーション」という概念がありますが、ワークマンでは、今まで職人向けだと思われていた商品を、一般客のカジュアルファッションとして「捉えられ方を変えた」という点で、意味のイノベーションを起こしたといえます。
また、ワークマンでは、善意型SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)という興味深いサプライ・チェーンの仕組みを採用しています。商品の生産量をメーカーの判断に委ねて、メーカーの生産分はすべてワークマンが買い取り、サプライチェーンに卸し、売り切るとうものです。このシステムを採用している理由は、メーカーの方が情報優位、つまり、流行や商品の流れをよく理解しているので、全面的に信頼しているからです。これも、善意型SCMというパッケージによって、「メーカーを信頼して、パートナーシップを結ぼうとしている」という意思の伝え方自体が、デザイン経営的だといえます。多店舗で低価格商品を扱う、ワークマンならではの特殊解のひとつであり、非常によいデザインだと思います。
さらに、ワークマンの「過酷ファッションショー」も、意味のイノベーションの視点から語ることができます。「過酷ファションー」では、悪天候と同じ環境作りをした会場に、ワークマンの服を着たモデルが登場します。ワークマンの商品は、防風、耐水、防寒などの機能を備え、アウトドアの悪天候にも対応できることが売りです。まさに「過酷ファッションショー」は、商品をメディアにPRするためのデザインのひとつだといえます。

デザイン思考のプロセスを進める「アンバサダー・マーケティング」

ワークマンは、インスタグラマーやユーチューバーを「製品開発アンバサダー」に起用するマーケティングでも知られています。通常のインフルエンサー・マーケティングが、影響力やフォロワー数を起用基準にしているのに対し、ワークマンのアンバサダー・マーケティングは、ワークマン商品への愛や理解の深さを基準にしています。一般のインフルエンサーは、商品を拡散することが主な役割ですが、ワークマンのアンバサダーは、商品を共同開発するなど、より深くコミットしてもらう存在です。「格安980円!ワークマンの軽量ランニングシューズで走ってみた」というブログがバズったという話がありますが、ワークマンの商品がバズったり、はやったりする過程において、アンバサダーの存在は大きいのです。ちなみにこのシューズは、ワークマンのプライベートブランド「Find-Out(ファインドアウト)」のものです。私は個人的に、ファインドアウトのロゴがダサいと思っていて、このロゴを変えると、また一歩ブレイクアウトがあるのではないかと感じています。

デザイン思考のプロセスには、「共感・理解」、「定義・明確化」、「アイディア開発・創造」、「プロトタイプ」、「テスト」と5つのステップがあるといわれます。ワークマンは、ファンであるインスタグラマーやYouTuberをアンバサダーとして内部に取り込むことで、「共感・理解」、「定義・明確化」、「アイディア開発・創造」まで一気にやってしまったことになるのは、すごいなと思いますね。また、ワークマンでは、企業ホームページ等にアンバサダーのSNSのリンクを貼っています。アンバサダーへの対価として、インフルエンサーの露出に貢献するためです。これまでのインフルエンサー・マーケティングとは、両者の関係性が大きく異なり、よりデザイン的アプローチだと感じています。

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ワークマンをテーマとしたpodcastは3回にわたり収録しました。是非podcastからもお楽しみください。

Thank you, we love you!

私たちILY,は、ロゴ制作やビジュアルデザインなどの”見た目のデザイン”にとどまらず、MVV策定や事業・サービスのコンセプト設計などの”コトのデザイン”もご提供しております。お気軽にご相談ください。

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ILY, inc CEO
Business Designer
辻原咲紀

新卒でデザインプロダクトメーカーに就職、営業・マーケティング・商品企画・デザインの領域を横断し担当。インハウスでの広告制作やブランディング・アートディレクションに携わり独立。ベンチャー企業への技術提供・企業立ち上げなどを経て、0→1、1→100まで幅広いデザインに従事。2016年にデザインのコンサルティング&クリエイティブエージェンシーのILY.incを設立。経営・事業開発・コミュニケーションなど領域を横断した様々なデザインに取り組む。広島市立大学非常勤講師。


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Director / PR manager
服部麻優

WEBプロモーション会社でSEO・リスティング広告などの業務に携わった後、制作部門の立ち上げと部門 マネージャーを務める。 複数プロジェクトを同時に進行管理するだけでなく、品質管理のためのガイドライン・フォーマットを整 備し、チーム内への実施を徹底。各ステークホルダーとの情報の連携についてもツールでの一元管理の方 法を確立している。 経営PRなどディレクション領域を超えて業務に従事し、プロジェクトの範囲に留まらず、クライアントのビジネス全体への提案を実践。

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