アメトーークCLUBに入るか、ニューヨークオンラインサロンを続けるか、を考える

770円と1000円を天秤にかける

 「アメトーークCLUB」が始まったことを受け、ある芸人さんが「テレビ業界で革命が起きようとしている。おっそろしいことをやり出した」とつぶやいた。

 アメトーーク!はテラサには映像を回さず、ひたすらDVDを売り上げてきた人気番組。ここへきてプラスαの独自の動画配信サービスを開始したという。しかもそれが月額770円という絶妙価格設定。いちお笑いファンとしては加入せざるを得ないだろう。
 
 と思ったんだけど、いったん落ち着いてみた。

 770円は妥当なのか。

 よく考えたらテレ朝全体の配信サービス「テラサ」の618円より高いぢゃないか。

 その前に自分はちょっとサブスクに加入しすぎてる気がする。ユーネクスト(月額1990円)、ネットフリックス(月額1490円)、パラビ(1017円)、abemaプレミアム(960円)、アマプラ(500円)・・・

 さらにニューヨークのユーチューブチャンネル有料版とも言える「ニューヨークオンラインサロン」にも入っている。これは月額千円だ。

 上記を全部合わせると6957円。やっぱり金を使いすぎている。

 アメトーークCLUBに入るなら、何か一つやめよう。と考えた結果、「ニューヨークオンラインサロン」と天秤にかけることにした。

「ごっつ」と「ガキ」ビデオ

 話はちょっと変わるのだけど、冒頭の芸人さんの「革命」という言葉を聞き、20数年前を思い出した。

「ダウンタウンのごっつええ感じ」と「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」のビデオが販売され出した頃のことだ。

 今でこそバラエティやお笑い番組の過去放送分をDVDにして売り出すのは珍しいことではないが、当時はまったく一般的ではなかった。一度は全てテレビで無料で見られた映像なのだから売れるわけはない。業界ではそう考えられていたらしい。確かに現在みたいに「未公開映像」とか「特典グッズ」なんかもついていなかったし、そんなものにお金を出す人がいるのか。こんな疑問が生まれたとしても不思議はない。

 でも実際のところ「ごっつ」と「ガキ」のビデオは売れに売れた。1本あたり3800円ぐらいだったと思うが、それぞれ10巻以上をリリースし、トータル数十万本ずつのセールスを記録したはず。これだけでウン十億の売り上げになるが、さらにびっくりなのは、その後、両番組ともDVDも次々と出し、こちらもバカみたいに売れたという事実。

 これらの番組を、だいぶ初期のころから自前でVHSに録画し保存していた筆者も、ごっつとガキのビデオ・DVDはすべて買ったクチだ。繰り返しになるがコンテンツとしてはすでに無料で手に入れていたものに、どうしてお金を払ったのか。

 当時は何も考えていなかったが、今にして思えば、命を削って笑いを生みだし、それをタダで見せてくれている出演者やスタッフの皆さんに、少しでも何かお返しができればという気持ちがあったのかもしれない。

 若い頃から視聴率至上主義に苦言を呈してきた松ちゃんは「たとえ視聴率がふるわなくても、いいものさえ作っていればそれを分かってくれる人はいる。ビジネス的にも必ず回収できる時がくる」と言っていた。これをまさに体現した形で、テレビ局は結果として巨額の収入を得た。(そしてダウンタウンは現在にいたるまでトップを走り続け、その一方で当時、薄味だけどなぜか高視聴率だった番組の出演者たちはどこかに消えてしまった)

 一度テレビで放送したものをパッケージにして売るという「革命」は、その後さまざまな番組に引き継がれていったわけだが、その中の一つであるアメトーークが今また再び新たな革命を起こそうとしている、というわけだ。それがアメトーークCLUBなんである。(話が戻ってきてよかった)

「嶋佐和也×屋敷裕政×奥田泰」の凄さ

 で、いよいよ本題に入るのだけど、まず、なんで数ある加入済みサブスクの中から天秤にかけるのを「ニューヨークオンラインサロン」にしたのか。それは正直言って価格の割に視聴できるコンテンツの満足度に波がある、というのがある。

 フェイスブックの専用ページに上げられる動画のうち、目玉と言えるのは月に2回行われるニューヨーク2人による生配信。筆者はオンラインサロンができた2020年11月から加入しているのだけれど、2021年7月現在、いまだにこの生配信の在り方をめぐって試行錯誤、暗中模索が続いている感じがする。ズームを使ってサロンメンバーとニューヨークが直接話をする、という時もあれば、書き込みで質問を受け付けそれに屋敷さんと嶋佐さんが答えるという回もあった。自分がこれまででいちばん好きだったのは、ニューヨークと構成作家の奥田さんが3人だけでやり取りするのを、こちらが一方的に聴くというパターン。

 やっぱりお笑いのプロとプロが話をするのはめちゃくちゃ面白い。

 それに出演番組の振り返りや分析、テレビ業界の裏側のことまで聞けるのは本当に興味深い。さらには直近の話だけでなく、たとえば2019年や20年のM1について、閉じられた空間だからこそ明かせることも散りばめて話してくれたら最高なんだけど。(テレビやユーチューブじゃ言えないことも多いと思うので)
 この方式で月2回トークをやってくれるのならば、はっきり言って千円は安すぎるぐらいだと思う。

 一方、ニューヨークとサロンメンバーが直接話をするやり方はあまり好きじゃない。大変申し訳ないのだけど、正味なところ、素人がダラダラしゃべるのを聞かせられるのは苦痛でしかない。なんで千円払ってまでこんな話聞いてんだろう、おれ、という気持ちが湧いてくる。
 筆者もニューヨークにいろいろ聞いてみたいなということはあるのだけれど、自分もやっぱりダラダラしゃべってしまうと思うし、人に苦痛を与えるのも忍びないので、ズームに参加したことはない。

 あとはオンラインサロンのコンテンツと言えば、ときどき上がる企画動画ぐらいか。これは息ができなくなるほど笑う面白いものもあるのだけれど、本数としてはそんなに多くない。

 結論としては毎月毎月、千円に見合った満足度を得られているかというと、、、ちょっとあれだ、、、

 ではどうしてさっさとやめないのか。

 一つには上述の「ニューヨーク×奥田さん」トーク方式(ニューヨークのニューラジオプレミアム版みたいなイメージ)が定着してくれたらいいなという期待もあるのだけど、よくよく考えてみると、ごっつやガキのビデオを買っていたときと同じような思いをニューヨークチャンネルに対しても持っている気がしてきた。

 つまり、命を削るぐらいの気迫で人生かけて笑いを生みだしてくれてる人たちに、何か返せないか、という気持ちだ。

 冷静になってみると、ニューヨークとスタッフの人たちが心血を注いで作った動画は、ニューヨークのユーチューブチャンネルで好きなだけ無料で観ることができる。奥田監督による2時間超えの大作「ザ・エレクトリカルパレーズ」をはじめ、ニューヨークのネタ、トーク、お笑い企画が目白押し。最近では「アジア住みます芸人」に焦点を当てた秀逸なプロジェクトも進行中だ。

 これらの動画は全部タダ。

 これを踏まえると、これまでのお礼にともかく月千円ぐらいは払わせてくれ、という気にもなってくる。そのおまけにオンラインサロンのコンテンツが楽しめるというならもはや贅沢ですらある。

 というわけで結論は最初から出てた気はするが、オンラインサロンは続け(名前はニューヨークチャンネルプレミアムとかに変えてほしいけど)、アメトーークCLUBへの加入はいったん見送る。

 はっきり言ってコンテンツとしてはアメトーークCLUBのほうが充実していそうだけど、「巨大資本のテレビ局×超有名プロデューサー」の組み合わせで、しかもしょっぱなから天下の千鳥まで動員しているのを見ると、小さな所帯で手作り感満載でお送りしているニューヨークチャンネルのほうを応援したくなるのが人情だろう。(誰目線?)

 そしてこれがこの雑文で一番言いたかったことなんだけど、なにより自分はやっぱり「俺たちのニューヨーク」が好きなのだ。

神のごときダウンタウンと人間丸出しニューヨーク

 もう長いことお笑いファンをやってきて、劇場にもずいぶん足を運んだものだけど、ニューヨークほど見ている側をワクワクドキドキさせてくれる芸人さんを僕は他に知らない。
 屋敷さんと嶋佐さんは今年2021年のキングオブコントに出場することを決めたらしい。賞レースを通して、「頑張れ」と「頑張ろう」を同時に思わせてくれるコンビ。「しんどい」「お金ほしい」「休みたい」・・・。私がいつも思ってるような弱音を吐き、人間味溢れる言動を見せながら、それでも結局は結果を出していく2人。弱い部分をさらけだしながら、ファンと一緒に歩いて行く。これはお笑い史上最強無敵の神コンビ、ダウンタウンにさえ成しえなかったことだ。(松ちゃん、浜ちゃんは自分にとって神様なので崇拝することはあっても応援する対象にはならない)

 古くは「エンタツアチャコ×秋田實」、近年では「とんねるず×秋元康」や「ダウンタウン×高須光聖」のような、お笑いコンビと構成作家の伝説的な組み合わせはいつくかある。これらレジェンドの系譜に、「ニューヨーク×奥田泰」も彼らならではのやり方でいつか加わるのではないか。そんな期待を個人的には持っている。

 3人が新たな伝説になったとき、「俺もちょっとだけ力貸したんだぜ」と思いながら、ささやかな自己満足にひたるため、そのための千円を私はこれからも払っていく。
 

 

 

 

 



 

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