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スタートアップ投資と恋愛の相似性に関する雑文

投資担当の強い想いは伝わってきました。これは何より重要だと個人的には思っています。いくら論理的に正しくても投資担当がその起業家なりスタートアップなりに惚れ込んでいないと、投資って(特にリードに近いポジションになればなるほど)上手く行かないと思っているので、その大前提は絶賛クリアしていると思いました。
(中略)
テクニカルなことは勉強すれば誰でもできますし、熱い想いの方が重要なので、このまま最後まで突っ走られることを願っています。不安な点や不明な点があったらすぐにメッセなり電話なりで相談してください。それに応えるのも僕の仕事なんで遠慮は不要ですよー。

(社内チャットでの先輩の発言)

突然だが、私の職業は(以前から書いている通り)事業会社のバランスシートからのスタートアップ投資だ。私は、前職では非上場株を取り扱うファンドにいたというキャリアで、だからこそより痛感することが、事業会社にてスタートアップ投資に関わる職種の特殊性である。ファンドというビジネスは、LP投資家から調達したお金を運用しつつ、exit益が自らのボーナスに直結する構造を取る。だからこそベンチャーキャピタルは時として起業家に対し酷い仕打ちを取ってしまう、という話は、以前のnoteで軽く触れた(https://note.com/ilovedragalong/n/n9efa4919fd43)。逆に言えば、ベンチャーキャピタルに所属するキャピタリストたちがスタートアップ投資に全力になる理由は明白で、未来のユニコーン企業にシードの段階から関与出来たら、それこそ自分たちの人生を変えるかもしれない額のお金が入って来るのだ。たとえ意思決定方法が不明瞭だとしても、彼らは野生の勘すらも使いつつ、血眼でダイアモンドの原石を探す。

一方、私のような事業会社に所属しつつスタートアップ投資に関与している人間は、もちろん会社の給与体系にも依るが、上記が当てはまらない。特に私などは、たとえ自分の投資担当先がexitしたとしても、他部署の方と同じ規定に従った賞与が出るだけで、exit額に比例した特別給など存在しない。事業会社がスタートアップ投資を行う理由など千差万別だと思うが、我々は会社が決めた、ある特定の理由(もしかしたら理由すらない場合もある)に従い、その理由を実現するという純粋な目標のために、スタートアップ投資を行う。我々を突き動かすのは、ひとえに自社の未来への希望と、スタートアップに対する愛だ。

私は、学生時代のインターン等も含めると、かれこれ10年くらい何かしらの形で、投資に関わってきた。正確には、(実際の立場はともかく)投資家の端くれという気持ちで日々を過ごし、色々な経営者に会ってきた。とにかく、沢山の経営者の方がいて、会社があった。「x人の会社」という社名を掲げ、創業以来、会社にメンバーが増える度に社名変更を行っていた会社。経費を極限まで切り詰めるために、八百屋の2階の居ぬき物件にオフィスを構えていたアプリ開発会社。バイオハザードのような廃マンションの一室で、全5人の社員が共同生活をしながら次世代SNSを作っている会社。もはや「人に会うのが仕事」という側面もあるので、1週間に少なくとも1人は新たな経営者にお会いしたと考えると、私はこの10年で、500人以上の経営者の方にお会いしたことになる。もしかしたら、1,000人を超えているかもしれない。中には、従業員によるとんでもない不祥事に対し、自分も「飼い犬に手を嚙まれた」状態であったにも関わらず、ステークホルダーの心理的安全のために毅然として対処した経営者もいた。自社のサービスやプロダクト、その先にいるユーザーだけでなく、社員や社員の家族も背負って戦う経営者の皆さんを前に、株主という立場はあれど、自分はなんと無力なんだろう、といつも思わされる。それも、個人の名前を背負って投資ビークルに関与するベンチャーキャピタルではなく、たとえ損失を被ったとしても会社に守られている立場のお気楽なサラリーマンなのだ。私にできることは、ただただ、目の前にいる経営者のプロダクトやサービスを愛し、敬意を示すことだけだ。


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河田@ IPO検定(上級)勉強中 ※非VC
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