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【書評】ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か?

副題:聖書の物語と美術

これも昨年逝去した高階秀爾の著作。

姉妹書『ミロのヴィーナスはなぜ傑作か?』を読み書評noteを書くほど感銘を受けたので、こちらも探して読んでみた。


構成・目次

はじめに―名画を「読み解く」ために
第1章 天地創造―ミケランジェロ
第2章 アダムとエヴァ―マザッチョ
第3章 水浴のスザンナ―ティントレット
第4章 バテシバの不倫―レンブラント
第5章 「雅歌」とサロメの踊り―モロー
第6章 受胎告知―フラ・アンジェリコ
第7章 「最後の晩餐」はなぜ傑作か?―レオナルド・ダ・ヴィンチ
あとがき

※より細かい目次や本文サンプルは、上にリンクを貼った公式の「ためし読み」から確認できる。



全体的感想として、まず本書も面白かった。『ミロのヴィーナス』と比べどちらが面白かったかというと、『ミロのヴィーナス』の方だが、それはユダヤ教聖書/「旧約聖書」・キリスト教聖書/「新約聖書」の物語より、ギリシャ・ローマ神話の方により自身の興味関心が高いせいだろう。


上野にある国立西洋美術館の常設展が好きな人には、特にこの本はお勧めできる。私も結構好きである。もともと高階秀爾がそこの館長を努めていたことを考えると、ある種自明。


以下が本書の目的。例によって高階秀爾の明晰な著述で冒頭でクリアに宣言されている。まさにこの通り。付け加えると、その絵画が描かれた当時と同じ深さ・感動で作品を理解・評価するなら、あるいは味わおうとするなら、作品と同時代・同地域の人々にとっては「言うまでもない」背景や当時の社会を、遥か後代の私達は知識として補填して向かい合わなければならない。

絵画作品を「読む」とは、主題となった物語りの内容を、そこにこめられた人々の思いも含めて理解し、受け止めることです。

p.8


西洋名画を読み解くという点で特に白眉だったのは、第1章ミケランジェロ《天地創造》と第7章ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》の解説。この本で初めて、「へぇ~、ここがポイントなんだ」「なるほど、全体構成はこうなってるんだ」「その作品に関する美術史」と言った「知るべきことを知って確かにその作品を理解する」境地に達することができた(ちょっと大げさだが)。逆にこの本を読まなかったら、人生の中至るところで目にする(美術の教科書や雑誌、テレビの画面、広告素材等)大名画にも関わらず、その作品のある種の価値本質を掴むことのないまま、人生を終える可能性大だった。何でもかんでも学校で学べばいいというわけではないが、中高の美術の選択コースでこの本を副読本として生徒に勧めても良いのでは。


この本の中で洞察される「何の目的のために物語のどのシーンを選びどのように視覚的に表現したか」という理屈は、その抽象的本質は絵画に留まらず様々な創作表現に応用できる。特段美術的な創作をしていない私ですらそう思い至った。これもこの本を読んだ収穫。美術を職業的あるいは本気でやっている人は、きっと、四六時中そういうことばかり考えているのだろう。


以降は私的に関心の高かった個別トピックの列記。

* * *

p.18 「システィーナ礼拝堂天井画 図解」。これ、素晴らしい図解資料。大塚国際美術館に行くなら、この本を持って行って現地で開くといい。


p.45 「聖書」解釈の最大の争点。イエス誕生以前のユダヤ教世界の聖典である旧約聖書と、イエスの言葉に基づく新約聖書の間の対立。イエスの位置づけ。


p.99 ルネサンス期の西洋美術を読み解く上で欠かせない本。新約聖書に登場する聖人たちの伝記を集めた『黄金伝説』(13世紀後半)。当時の画家や彫刻家はこれを大いに参照した。


p.115 ギュスターヴ・モロー《出現》。聖書の物語の絵画で、インパクトの大きい作品と言われたら真っ先に浮かぶものの一つ。


p.142, 165, 166。当時絵画中で猫が描かれるとき、それは邪悪の象徴としてだった。p.166 コジモ・ロッセリ《最後の晩餐》では、猫を威嚇する相手として犬も描かれていたりする。


p.150 ティッツァーノ《聖母被昇天》。数ある聖母被昇天画でも、やはりこれが一番実物を見たい。画面構成の垢抜け具合が、他と比較にならない。


p.156 最終章書き出し、いよいよ本書のタイトル回収。それにしても高階秀爾の書く文章は、内容も表現も、これ以上洗練しようがない巧みさ。

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた数々の名画のひとつである《最後の晩餐》は、遅筆で未完成に終わったものが多い彼の作品のなかで、最も巨大な完成作です。しかし単にそれだけではなく、当時より版画によって広くヨーロッパに流布し、多くの画家たちに影響を与えた、傑作中の傑作とされています。その理由はいったい何なのでしょうか?

p.156


p.182 今に至るまで様々な「危機」をくぐり抜けてきた、ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》。第二次世界大戦時1943年には爆撃で壁画の母屋である修道院が半壊し、その後3年間作品は雨ざらしだったとのこと。写真も非常に生々しい。


p.185 ダ・ヴィンチ《ピリポの頭部の習作》1495年頃, 英ウィンザー城,王立図書館。この下絵のイケメン度合いが、凄すぎる。これがイタリア人イケメン顔完成形の一つか。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


記事見出画像は、2022年に大塚国際美術館で撮ったもの。

画像出典

以 上



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何となくUNIX(いしい)
誠にありがとうございます。またこんなトピックで書きますね。