深淵を覗く。「n番部屋事件」
※非常に暴力的で性的虐待を含む表現があります。閲覧には注意してください。
n番部屋事件とは、2018年から2020年まで韓国でTelegram、Discordなどの匿名化メッセンジャーアプリを使って行われていた性犯罪である。8つのチャットルームで脅迫した女性に性暴行を働き、それらを記録し、コンテンツとして販売していた。
警察発表では被害者は70人あまり存在する。映像を購入したり、配布した人間は最低でも6万人以上いるとされており、累計26万人の会員が閲覧していた。韓国の統計では男性の人口は2579万人(2021年)で、韓国人男性の約2%はこのサディスティックなチャットルームで映像を購入したことになる。
事件が明るみに出始めたのは2019年2月ごろで、性的被害を受けている女性の動画並びに画像をアップし、個人情報まで共有しているTelegramのチャットルームがあるということが掲示板やコミュニティなどで噂されるようになった。
「n番部屋」は2018年、「ガッガッ(神神)」という人物がTelegramで1から8までの8つのチャットルームを作り、そこで性的猥褻動画・画像を載せ始めたところから始まった。
そのチャットルームの入場者は1部屋あたり300人から700人ほどで、被害者は30人以上といたとされており、一部屋あたり1万ウォンほどの入場料が必要であった。
「ガッガッ」は女性を脅迫し、男性公衆便所での脱衣行為、自慰行為の強要などによる映像や写真、宿泊施設に監禁された未成年者の強姦映像を撮影しアップロードしていた。
「ガッガッ」の手法は自撮り系のユーザーに対し「個人情報が漏れている」「写真などが無断で使用されている」などと言って接触し、「ポルノ流布で捕まる可能性があるので助ける」と個人情報をハッキングし、それを使って脅迫を行い動画や写真を撮らせていた。
その後「ガッガッ」は「ケリー」という人物にそのチャットルームを譲った。さらに「ウォッチメン」という人物はポルノサイトを開設しn番部屋に繋がるリンクを作っていたが、2019年9月ごろには一度その部屋も消えたそうだ。
それらのチャットルームの中で、「博士」という人物が運営した「博士部屋」は、仮想通貨による決済をすることで部屋に入ることができるという運営を始めた。2019年7月ごろに登場した「博士」は、女性を脅迫、個人情報を掠め取り、脅迫を行い、サディズムな写真と映像を掲載し始めた。
「博士の部屋」では支払われる料金により画像や映像の過激さが変わる。「味見部屋」は20万ウォン、日本円で2万円ほどで入室できる。「ハードルーム」「スナップ制作および共有部屋」が25万ウォン、「高額原子部屋」「良質の資料を定期的に管理して水質が維持される部屋」は入場料60万ウォン、さらに「最上位グレードルーム」「リアルタイム奴隷からなる最強の部屋」などは最大150万ウォンで仮想通貨を使用し入場がなされていた。
「博士の部屋」は組織的に運営されており、「被害者誘引」「性的搾取物の作成」「性的搾取物の流布」「収益金の管理」の部署に分かれており、このルームでは女性を「奴隷」と呼んでいた。写真や動画を公開する前の待機画面は「奴隷たちが待機中です」と表示をする手の混みようであった。女性を性的暴行するだけでなく、便器の水を飲ませたり、身体の中に虫などの異物を入れされる行為も撮影されアップされていた。
手口としてはSNSを通じて「モデルの仕事」「デートアルバイト」として女性を募集し、採用契約書を作成するためと偽り連絡先を送らせ、その情報から役所で働く部下を使って女性の個人情報を入手し、性的な写真を撮影し脅迫の材料に使っていた。
さらに制作部隊(「職員」と呼ばれる)を女性のところに送り込み暴行シーンを撮影し、有料会員にアップしていた。その部屋では、情報漏洩や逮捕に繋がらないように会員にも身元を明かにさせていた徹底ぶりである。
「博士部屋」での被害者は74人に達し、うち16人が未成年であった。アップされたものには女子中学生が拷問される姿や自傷行為を強要される映像も含まれていた。
そしてそれに倣うかのように2020年までに模倣したルームがいくつも生まれていた。Telegramへの捜査が始まると、約30万人のアカウントがTelegramからDiscordに退避し運営を続けた。
2019年9月には「ウォッチメン」(38歳会社員)「ケリー」(30代男性)が逮捕され、その後2020年2月には66人の運営者及び共犯者が検挙された。3月17日には「博士」(チョ・ジュビン)を含む14人が検挙され、3月20日には124人が検挙された。
2020年4月には元「博士の部屋」の運営陣で別の「太平洋遠征隊」という数千本の映像をアップしたチャットルームを作った「太平洋」(16歳)が逮捕、「博士部屋」の参加者を募集し犯罪収益を博士に渡していた「ブッタ」ことカン・フン(18歳)が逮捕、そして創始者の「ガッガッ」(ムン・ヒョンウク:24歳・大学生)を逮捕された。
その後の判決では「博士」は児童・青少年の性保護に関する法律違反、淫乱物を作成し配布及び犯罪団体を組織した疑いで懲役42年が確定した。さらに10年間の身元公開、児童・青少年関連機関や障害者の福祉施設での就業制限、さらに出所後30年間、位置追跡のための電子足輪の装着、1億ウォンの追徴金が科せられた。彼はメディアで「止められなかった悪魔の生き方を止めていただいて本当にありがとうございます」と言った。
これら逮捕者の続出により事態は一旦終息し彼らは息を潜めた。
男性の残酷なサディスティック願望を映像化し、それを手に入れたい男たちが一定数いる。それらは一種のマニュアルのように拡散しファンタジーを増強する。
さらに資本主義はそれらを供給し需要が増すたびに狂気は加速するのだろう。供給側は個人レベルでサディスティックな情欲を満たすだけでは飽き足らず、コミュニティに君臨することで崇められ更に残酷度を増し続ける。提供する側に回る優越感が彼らのアクセルをより踏みこませる。
集団化し組織化することによって薄まる「職員」の罪悪感。肉に飢えた野良犬の集団は群れを大きくしすぎたことで終焉に向かった。
ルームの支配者は最も考えつく残酷な方法で女性を無慈悲に嬲ることができる。その実力を誇示することで、良心というアンカーは簡単に取り払われるのだ。
人間の欲望は果てしない。糞蠅はどこにでも卵を産みつけるのだ。