ゾンビ・ドラッグ
最近また「ゾンビ・ドラッグ」や「ゾンビ・タウン」の名を聞くようになった。ゾンビ愛好家としてはこれは調べずにはいられない。
「ゾンビ・ドラッグ」と言えば2016年、マイアミで「バスソルト」と呼ばれる危険ドラッグを摂取した男が全裸となって、道脇に座っていたホームレスの男性に襲いかかり、顔の75%を「喰った」という事件があった。この事件は「マイアミ・ゾンビ事件」と呼ばれ、男は18分間に渡って顔を貪り、捕まった際には「口の中に何か入ってるよ〜」と叫んでいたらしい。その映像を捉えていた防犯カメラ映像が公開されていた。
これを見てついに世紀末黙示録が始まるんだな...とワクワクしていたが、劣悪なドラッグの副作用であったと知りかなりガッカリした。
この「バスソルト」の主要成分は「メフェドロン」で、カチノン系のパーティドラッグの一つである。MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)の亜種でもある。中枢神経を刺激する作用があり、摂取すると攻撃的になる。
現在の研究ではメフェドロンはMDMAより乱用能力が高く、重度の発熱やオーバードーズ(過剰摂取)による死亡者も多く出ている。
カチノン(S-1-フェニル-2-アミノ-1-プロパノン)はアフリカ原産の植物である「カート」に含まれるアルカロイドの一種である。そう、モチャモチャと石灰と一緒にガムのように噛むあのカートである。
カチノンはエフェドリンやアンフェタミンなどと似ており、線条体からのドーパミンの放出を促進するドラッグである。
脱法ハーブあたりから爆発した、元の薬物の分子構造をちょっぴり変えることで法の目を潜り抜けるいくつもの亜種が生まれた。「きのこの山」が「まいたけの山」とか「まつたけの山」とか「ウスキキヌガサタケの山」として質が落ちて発売される感じだ。改良を加えることで元のオリジナルのドラッグとはまるで違う作用を持つ依存性と毒性の強いドラッグが大量に市場に出回る時代となった。
人の顔を食うあたり「メフェドロン・ゾンビ」はなかなか攻撃的だ。
そんなゾンビの流行もある程度治ってきたと思いきや、次はフロリダを中心に「フラッカ」というドラッグによりまたしてもゾンビ化が流行した。フラッカは、スペイン語の俗語で「美しい女性」という意味だ。
この「フラッカ」は中枢神経に強い興奮作用をもたらす「α-PVP(αピロリジノペンチオフェノン」が主成分だ。これもカチノン系の合成覚醒剤であり過剰刺激、妄想、幻覚を引き起こす。メチルフェニデート(日本ではコンサータ錠:ADHDの治療薬)やコカインと同じレベルの精神刺激作用を持つ。別名「グラベル(砂利)」とも呼ばれ、非常に安価で流通し「5ドルの狂気」とも呼ばれている。フラッカはの大半は中国製であり、そう言えばバスソルトも中国製だった。やるな中国、ゾンビ製造大国の大御所だ。
過剰摂取で幻覚の犬から全力で逃げる全裸の男や、体に火がついたと思った者が衣類を全て脱いだりと、なんせ服を脱がしたがるドラッグでもある。「フラッカ・ゾンビ」は暗黒舞踏ポージングのドラッグのようだ。
危険ドラッグに含まれる成分は、麻薬や覚せい剤の化学構造の一部を改変させて作られた「デザイナードラッグ」であり、合成カンナビノイド系、トリプタミン系、カチノン系、フェネチルアミン系、ピペラジン系化合物と多岐に渡る。
そして、現在フィラデルフィアでもストリートに大量のゾンビが発生している。フィラデルフィアは「ゾンビ・タウン」と呼ばれるほどだ。
流通しているのは「フェンタニル」というドラッグだ。
「フェンタニル」は、医療用鎮痛剤であり、がん患者の苦痛緩和などに用いる強力な合成オピオイドの一種で、ヘロインの50倍、モルヒネの100倍とも言われる。依存性が高く、致死量はたったの2mgである。
さらに安価なものは「トランク」と呼ばれている。「トランク」は動物用の強力な鎮静剤(キシラジン)を元にコカイン、ヘロインなどを混ぜたものだ。
投与量を誤ると呼吸困難、危険な低血圧、心拍数の低下を招く。これらのダウナードラッグにより「ゾンビ化」が急増している。「トランク・ゾンビ」はなんせ動かない。
まだまだ世紀末黙示録は遠いようだ。