死体処理の合理的方法について
死体の処理方法について、最も捜査の目をかいくぐれる方法があるかどうか、実際の統計データなどは存在していない。
殺人犯による死体遺棄の全数の把握は不可能だし、全国の失踪者たちが犯罪にそもそも巻き込まれたのか、その母数が不明である。
ただし、様々な方法で証拠を消そうとする検討は犯罪者たちによって日夜なされている。これら犯罪者の目標は「死体自体からの証拠と自分への接点を消すこと」だ。失敗に終わったケースはニュースで見ることになるが、おそらく単独犯行で成功しているケースもあるはずだ。
●山中への遺棄・埋没
よくニュースで見かける遺棄方法であり、殺人犯たちの最もスタンダードな方法である。
山中への遺棄はハイキングや登山、散歩や林道の整備、狩猟やドライブなど様々な機会で第三者により発見されている。マネキンだと思って近づいてみたら人間であった、骨のようなものを見つけたなど、捜査関係者でない第三者の発見第一報のニュースはよく見かける。
山中への遺棄は時間の猶予や手間や体力的な問題、地形の関係上高所などから低所へ向かって投げ捨てるケースが多い。投げ捨てるなら見つかりにくいように崖下に向けて、というところだろうが、途中の木に引っかかったり朽葉に埋もれたりと思ったより距離が稼げない。
山中への遺棄は車での搬送がどうしても必須となり、トランクや後部座席から引き出し抱えて投げ捨てることになるため、実際はかなりの腕力を要する。成人男性の死体であれば50kg以上の肉の塊となるため抱えて遠くまで投げ捨てるのはなかなか一人では難しいだろう。
投げ捨てる際には手や足が邪魔になりやすいことからある程度折り畳んで粘着テープや紐などで固定しておいた方が良い。しかし死後硬直中であればやりにくいだろう。コンパクトさを考えるならば体育座りのような体勢で固定すべきだが、カモフラージュも兼ねてスーツケースなどに入れてもいいかもしれない。ただし、山中に新しいスーツケースが捨てられていればかなり目立つだろう。
可能な限りアスファルトの舗装道路を越えた林道や未舗装道まで侵入して遺棄すべきであるし、できることなら下見に行っておくべきである。もっと言えば車から降りて更に山深くまで搬送できれば発見の確率はさらに下がるだろう。
崖下などに捨てる場合は、投げ捨てるのではなく谷底まで引きずり下ろすべきだ。もし谷底に水が流れた後などがあれば台風などの際に土石流などでバラバラになり発見が困難になるほか、より身元の特定が難しくなる可能性がある。しかし歯の治療痕が見つかれば身元は特定されやすい。自然に賭けなければいけなくなるため山中の遺棄自体が発見のリスクが高いということになる。
では山中への埋没は、と言うと作業は手間がかかる上に万が一掘っているところを見られたら犯人と特定されやすい。夜間の山中での作業は困難だろうしライトなどの光がさらに怪しさを増すからだ。早く掘るためには2人以上の協力が必要とされるし、その辺の茂みなどでは発見のリスクも格段に高まる。
発見を避けた埋没であれば山深いところまで侵入した方がいいが、原生林などであれば根が張っていることが多く、大きなサイズの穴を掘ること自体が難しいだろう。準備としてスコップだけでなく虫除けや光量の大きなライトも必要となる。登山用のヘッドライトは必須となるだろう。
●海への遺棄
海への遺棄は潮流に乗って海岸に打ち上げられることも多い。遺体は時間が経つとガスが貯留し腹や臀部を上に浮いてくるからだ。水死体に生じるガスは多少の重りなどもろともしない。
法医学の文献などには、水中死体の70〜80%は死後にまず水没すると書かれている。遺体がそのまま沈んでいるなら、本来地引き網に引っかかるなどしない限り遺体が見つかることは無いはずだ。だが、通常の死体は肺に空気が入っているため容易に浮く。生理学的には溺死体浮き袋となる肺が水浸しになっているためまず沈む。沈めておきたいなら溺死の方が良いが、それもやがて浮いてくることになる。
溺死させようが投棄しようが時間の経過と共に死体は腐敗する。カスパーの法則というものがあり、水中の方が腐敗は遅い。地上の腐敗速度を1とした時に、水中では1/2、地中では1/8になる。水中の方が腐敗速度は遅いが結局ある程度の時間が経つと腐敗が進み腐敗ガスが体内で産生され、その浮力によって浮く。
この腐敗ガス、なかなか侮れないもので体重と同じくらいの重りを付けていても浮上したという報告もあるぐらいだ。
ガスの力は強力で、コンクリート詰のドラム缶も浮上させることもあるという。小細工をしない場合は浮上してくる期間の目安としては、夏で数日、春秋で数週間、冬で数ヶ月と言われている。
ただし、水深が深くなると水圧も高くなる。高い水圧がかかると、腐敗ガスによる浮力が弱くなる。そのため水深が深いと多少の腐敗ガスくらいでは浮上しにくくなる。しかし船が必要となる。
浮上しない条件としては、
水深10mなら水温11℃以下、
水深20mなら水温13℃以下、
水深30mなら水温14℃以下、
水深40mなら通常の水温では浮上しないとされている。船を持っているならば死体の隠匿は可能かもしれない。
ガスによる死体の浮上を防ぐためには、体重以上の錘を装着する必要がある。手足に紐などで錘を付けても腐敗して千切れてしまうためコルセットのようなものを使って体幹に装着する方が良いかもしれない。
●バラバラにする
細かくして捨てることにより身元がわからなくなり、なおかつ運びやすい方法だが、血液の処理や臓器などへのグロテスクさへの抵抗感にかなり左右されてしまうだろう。
まずは血液の処理が大変で血抜きが必要になる。頸動脈をうまく切断し、浴槽で逆さまに吊るすのはかなり難しいだろう。人間には5〜6リットルの血液があるため、血抜きには時間もかかる。
血抜きをしないまま解体作業に移ると血液で身体が汚れるため浴室で行うのは必須で、さらに全身を雨合羽やビニール袋などで覆うか、裸で行った方が良い。そうだとしても血液の鉄臭い匂いがしばらくは体や頭髪にこびりつくだろう。
血抜きが済んだら次は解体が必要となる。手足は関節部がわかりやすいが体幹部や頭蓋骨の処理は大変だろう。
これまで様々な器具が解体に使われてきた。金鋸、鋸、ナイフ、包丁、鉈、斧、チェーンソー、肉切り包丁などなど。刃物は脂肪により切れ味が悪くなるため、2本以上の準備が必要だ。研ぎながらであればもっと時間を要するだろう。
体幹の処理には特に時間がかかる。例えば首には多くの筋肉が集まっていて、頸椎と呼ばれる骨もある。首は非常に頑丈にできているので、切断するにはよほど鋭利な刃物か鉈(なた)のような重いもので何回も切り付けないといけない。
速やかな遺棄を目指しているならば解体は向かない方法だが、身元をわからなくするためにはその手間は惜しまない方が良い。
解体は1日では終わらないし、人間の腐敗速度はかなり早いため浴室などで遺体を冷やしておかないと腐敗臭を辺りにばら撒くことになる。1週間で解体できなければ諦めた方がいいかもしれない。仕事をしている人は長い休暇を必要とする。
我々の身体には常在菌という形で、体の表面や口腔内、胃・腸などに様々な細菌が生息している。この細菌達による分解過程で細菌はガスを産生する。これが特有の臭いを持つ「腐敗ガス」で、よくニュースで「隣の部屋から臭いがするので」と近所の人が言うアレである。
臭いの中味は硫化水素、二酸化炭素、アンモニア、窒素、メタン、インドール、スカトール、メルカプタン、フェノール等様々だが、硫化水素とインドールが主に独特な臭いの元と言われている。
死臭は、クサヤやチーズ、生ゴミが腐敗したような匂いに例えられる。死臭は、そのクサヤが腐敗して臭気が数倍、数十倍になったような匂いで、尋常ではないほどの悪臭といっていい。腐敗を遅らせるには遺体を冷やすしかない。ドライアイスや氷を大量に買っておく必要があるが無理ならせめて水につけておくべきだ。
解体方法やその後の捨て方はいくつか実際の事件を参考にしてみる。
井の頭公園バラバラ殺人事件では公園清掃員が、池の周辺のゴミ箱から切断された人体のパーツを発見した。発見されたのは頭部と胴体を除く27個の肉塊パーツで、その27個は全て長さが電動ノコギリのようなもので20cmに切断され、血液が全て抜き取られ全て綺麗に洗われていた。
これは、公園内のゴミ箱の投入口サイズである縦20cm、横30cmに合っていた。更に、手の指紋が削られていた。被害者の身元は特定できたのだが、物証が乏しく犯人は見つかっていない。遺体の切断方法は少なくとも3パターンあり、複数犯説の根拠の一つになっている。体組織が残っていれば血液型とDNAの鑑定は可能で、手の指紋でなくても、掌紋(しょうもん)からも個人を識別出来るらしい。
更なる追加処理を加えた犯行については、浅草遺体カレー煮込み事件がある。遺体を2年間倉庫の冷凍庫に保管した後、ハンマーなどで遺体をバラバラにして、バーベキュー用のコンロで焼いたり、カレーで煮た。2年間冷凍していたため、体内の液状物が乾燥した上に冷凍されていたため簡単に崩壊したのだと思われる。さらにカレーの匂いでカモフラージュしている。
北九州一家殺人事件では遺体をノコギリで解体し、内臓はミキサーで液状化させて公園の公衆便所に流し、肉や骨は鍋で煮込みフェリーから海に投棄させた。犯人は一家を洗脳し軟禁状態にしていたため、死体の解体処理にかかる人手は多かった。
愛犬家連続殺人事件では被害者4人の遺体は風呂場で解体され骨・皮・肉・内臓に分けられた上、肉などは数センチ四方に切断。骨はドラム缶で衣服や所持品と共に灰になるまで焼却され、それらは全て山林や川に遺棄された。遺体を埋めても骨は残ることから、焼却してしまうことを考案、しかし遺体をそのまま焼くと異臭が発生するため、解体して骨のみを焼却したという。燃え残りが出ないよう、1本ずつじっくり焼いた。
江東マンション神隠し殺人事件では、殺害後遺体を包丁2本とのこぎりでバラバラに切断し、冷蔵庫やベッドの下、段ボール箱などに隠した。腕、足から包丁を使って肉をはぎとり、まな板で切り刻んで水洗トイレから下水管に流した。残った骨はノコギリで細かく切り、冷蔵庫に隠した。その後、胴体を解体し、腹や胸から肉をはぎ取り、臓器を取り出し、これをまな板の上で切り刻んだ上、水洗トイレから下水道管に流した。その後、遺体の頭から髪の毛を切り、頭皮を剥ぎ、眼球を取り出し切り刻んで水洗トイレに流した。さらに頭蓋骨をノコギリで切って、脳を取り出し、下水道に流し、頭蓋骨は数個に切って冷蔵庫に隠した。
これら方法を見ているとアイヌの料理チタタプを思い出す。
これらを見ると少なくとも解体処理には3日から5日は単純にかかる。なにせ遺体の解体には手間と暇がかかるのだ。
●プロフェッショナルによる方法、超高温処理
なんでも技術を伴う仕事にはプロフェッショナルが存在する。違法で秘密裏に遺体を遺棄する方々も存在するが、ジョン・ウィックのように金貨を渡せば処理してくれるような方々は日本には存在しない気がする。
となると日本では社会規範から外れた反社会組織の方々に何らかのネットワークを持っているならそこを利用するのも一つの手ではある。しかし本業である脅迫のプロの方々にわざわざ脅しのネタを提供するのも気が引ける。よほど信用ならないとプロの方々は利用できないため、個人レベルでの利用はなかなか難しいだろう。
プロの方々による最近のトレンドは高温処理らしい。「処理プラント」を使う方法というものがある。
これは道路に敷くアスファルト合材の処理プラントを利用する方法で、アスファルトは砂利とコールタールとなどの材料を約3000℃の熱処理で混ぜて仕上げるのだが、ここに放り込む方法である。業者と懇意になって、処理プラントに遺棄するのだという。高温のため、肉から骨まで全部溶けてしまうらしい。
他にも、ペット用の移動火葬車を買い取って使うらしい。やはり高温処理だ。
今は一台150万円くらいで買えるそうだ。30〜40cm間隔で人間の身体を切ることができれば、投入して90分間ほど燃やすと骨までなくなるそうだが、やはり解体処理は必須のようだ。
●薬品による処理
強アルカリで溶かす。鍋に遺体を入れ水と水酸化カリウム(パイプ系洗浄剤)で満たし、液体洗剤でよく使われる苛性アルカリ溶液を入れ、180℃まで熱すると3時間ほどで溶ける。
正確に言えば、溶けるというよりは鍋の中はアミノ酸や塩などが含まれる緑がかった茶色のオイリーなジュースになるらしい。残ったリン酸カルシウムの骨は手でも粉々に砕けて、どこでも好きなところに捨てることができる。しかし結局普通の鍋だと死体の解体作業を伴ってしまう。
これらは「アルカリ加水分解」という処理で、熱と圧力、そして水酸化カリウムや水酸化ナトリウム(カビキラーやハイターパイプユニッシュなど)といったアルカリ性物質で通常の腐敗プロセスを高速化するものだと考えられる。遺体を80ガロン(約300リットル)くらいの水が入った鉄の容器に収め、それを華氏300度(摂氏150度)くらいに高温化し、1~2時間もすると、遺体のほとんどは液体化し残った骨の残骸は灰になるが、市販の薬剤ではもっと時間がかかるだろう。
八王子ホスト殺人事件では遺体を鍋に入れ、パイプ洗浄剤などの類いの強アルカリ性の薬剤を大量に投入し煮溶かした。家宅捜索した結果、警察は歯のインプラントを発見し、執念の捜査でこのインプラントが被害者のものであることを突き止め逮捕に至った。
犯人は実家に死体を運び込み、四肢を切断。業務用のずんどう鍋に入れて薬品で煮込み、2日かけて肉を溶かした。溶かした液体は、浴室の排水溝やトイレに流した。残った骨は砕き、河川敷に捨てたとされている。市販されているアルカリ溶液では濃度が低いため煮溶かすためには2〜5日間の時間が必要そうだ。
●薬品による処理
アルカリ性ではなく、酸性の方が遺体を溶かすにはいいのではないかと思ってしまうが、例えばフッ酸(フッ化水素酸)だと強い酸ではあるが、カルシウム(骨や歯)と反応すると硬い膜を作って溶解を止めてしまうのだ。
塩酸も同じようにカルシウムと反応してしまう。過去の事件で作業員が塩酸のチャンバーに落ちた時には、ほぼ即死かと思われる遺体は塩化物に覆われた状態で「石膏像のミイラ」のようになっていた。
では超強酸(フルオロ酸)はどうか。硫酸よりも強い酸は全て超酸と呼ぶのだが、強すぎる酸は人体を溶かす時に反応により猛毒のフッ酸を大量に出し、更にガラスも下水管も溶かしてしまう。強酸で遺体を溶かす際には鍋自体が溶けないように巨大なホーロー製容器が必要になる上に、反応時に希硫酸が跳ねて飛んできてしまうため、室内での処理はかなり難しい。
酸性の溶液による死体処理はその扱い自体に難渋しそうだ。
●豚に食べてもらう
カナダのバンクーバーで49人を殺害した連続殺人犯は「経営する養豚場で遺体を豚に食べさせた」という証言があった。
報道によると、バンクーバー一帯では1990年代以降、60人以上の売春婦や麻薬常習者の女性が行方不明になっており、2002年に養豚業の被告の犯行が発覚し26人に対する第1級殺人の罪で起訴された。
「豚に食わす」はアメリカ映画の仁義系でよく出てくるフレーズだが、食欲の旺盛な豚に与えれば骨まで食べるようである。
豚は猪を家畜化したものだが噛む力は尋常ではなく、2014年中国江蘇徐州市では2歳の男児が豚に噛み殺され内臓からは頭蓋骨の一部が見つかったほどだ。
しかし、養豚業を営んでいるものしかできない離れ業ではある。
●おしゃれな処理
「ナチュラルでオーガニックな還元(Natural organic reduction)」と名付けられた「堆肥葬」は、人間の死体を生分解して堆肥に変える葬送方法だ。
死後、遺体はオーガニックなウッドチップを敷き詰めた再利用可能なモジュール式の棺に収められ、棺ごとコンポストを行う専用のカプセルに収容される。
その後、落ち葉が土に戻っていくように約30日間かけて骨や歯までもがゆっくりと土に還っていく。容器内は微生物やバクテリアが活動しやすい環境に整えられている。
分解後は、1立方ヤード(0.76立方メートル)ほどの豊穣な土に変わる。遺族や友人はこの土を持ち帰って通常の土と同じように植物を植えるのに使うなど再利用することが可能だそうだ。
さまざまな遺体の遺棄方法があるが、結局のところヒトは集団で暮らす動物であるため、物理的に消失させたところで社会的な繋がりが消えるわけではない。それが分かってないから結局捕まえられてるのであるが。むしろいかに当人とは無関係か、をどう装うかも重要である。
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