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親友の話
親友の卒業ライブに行ってきた。
奴は大学4年間、サークルで歌を頑張ってきた。
けど、ライブを観る私の隣には、奴がいた。
奴は卒業ライブなのに、選考に選ばれず、出演することができなかった。
嬉しさと悔しさが混じる奴に向かって、
「私たちいつもこうだね」と心の中で言った。
奴とは小学校からの仲で、
一言で言うと、まじめな変人。
4月から教員になる奴は、教員採用試験ではなく、間違えて公務員試験を申し込んでいた。
それでも、なんだかんだ、
試験に受かるのが彼女なのだ。
奴とは中高6年間同じ部活だった。
周りのモチベーションが低い中、
私たちは2人は意地を張るようにテニスコートに足を運んだ。
練習は誰よりも早く行ってボールを磨いて、
朝でも、
練習後でも、
オフでも、
自主練をした。
それでも私たちは弱かった。
「勝たなきゃ意味がない」なんて、とうに分かっていた。
だからこそ、悔しかった。
それでも続けていたら、少し軌道に乗って、
試合のトーナメント表の4つ角に、私たちの名前が載った。
少しの勝利数でも県は確実だった。
なのに、私たちは大きなチャンスを逃した。
悔し過ぎて、その時の感情を書き記したものは今でも残っている。
テニスコートの近くの公園で、
お互い黙ったまま、ずっとブランコに座り込んでいた。
ただただ時間だけが過ぎて、気付けばあたりは暗くなっていた。
高3のラストイヤーに賭けていたけれど、コロナで試合は無くなった。
奴は、
大学受験を機に鬱になった。
日に日に痩せ細っていく奴に、私は何もできなかった。
どんな言葉をかけても、不正解な気がして、
話を聞くことくらいしかできなかった。
次第に、奴と距離を置きたくなった。
カウンセラーでも、聖人でもない私は、
弱った奴の話を全て受け入れられるほど、できた人間ではなかった。
けれど、奴とはなぜだかここで終わる気がしなくて、関係を保った。
多分、他の人からもサポートを受けて、奴は無事大学に入学し、鬱も徐々に抜けていった。
絶対に私のおかげではない。言い切れるけど、
奴は、何もできない、こんな私の存在をずっと求めてくれた。
「あの時、話を聞いてくれてありがとう」と、
今でも言われる。
正直、奴といい思い出なんて、あんまり無い。
けれど、悔しい時にいつも奴は隣に居て、自分と同じくらい悔しがっていた。
だから、今回の卒業ライブも、奴が出られない事をわかった上で、行こうと思った。
1人で同期の卒業ライブを観客席から観るなんて、私には無理だと思ったから。
そしたら、私が泣いてた。
奴は泣いてなかった。
くそ、一枚上手になりやがって。
絶対に本人には言わない。
親友とか言うのはずいけど、
そんな調子で、これからもよろしく。