【横浜FC 2023】第14節H川崎戦:できっこないをやれちゃった!!
今節、スタジアムで試合前に流れていた選手の勝負曲は、長谷川竜也の選曲でサンボマスターの「できっこないをやらなくちゃ!」でした。
これが、長谷川竜也自身がこの試合への想いを込めたものなのか、それとも単純に本人が好きな曲なのかは本人にしかわかりません。しかし、試合後の三ツ沢からの帰路、センチメンタルな気分に浸っていた私の脳内にはふと「できっこないをやらなくちゃ」が流れていました。
よもやの川崎撃破。その嬉しさを噛み締めつつ、開幕からの10試合のことや過去の川崎とのゲームの悔しさなどをいろいろなことを思い出し、しみじみこう感じたのでした。
「できっこないをやらなくちゃ!」。
…ホントにやれちゃったよ、すげぇや。
1.試合寸評
前半から川崎にボールを持たせながら、大事なところはやらせず支配率こそ70%近く握られたものの、ピンチらしいピンチを作られず迎えた前半終了間際、井上潮音のスーパーゴールで先制。迎えた後半、開始早々に山下諒也の恐ろしいスピードからのロングカウンターで追加点を奪うと、その後は元主将の瀬古樹の技ありの直接フリーキックで1点差に迫られたものの、最後まで集中を切らさず試合をクロージング。見事に川崎相手に勝ち切って見せました。
こうして寸評にしてしまうと、いかにも簡単な感じがします。しかし、相手は川崎です。一番の収穫は、今のこの守備組織が川崎相手に通用したことでしょう。
この日のスタメンは、小川航基とユーリ ララの出場停止に加えて、試合後のインタビューで四方田監督が怪我人や病人の存在に触れていたこともあり、ここまで全試合出場のンドカ・ボニフェイスも欠場していました。前線やボランチの選手の変更は予想の範疇でしたが、最終ラインに今シーズンのリーグ戦の出場が第9節ガンバ戦の終盤4分だけだったマテウス モラエスの出場はサプライズでした。
そして、結果的にこのマテウス モラエスの起用は武器の一つとなりました。今シーズン、ルヴァンカップを主戦場としていた彼のパフォーマンスは、スピードも高さもあるものの、一対一の場面ではいささか軽い対応の目立つものでした。しかし、布陣の変更により3CBの一角となり岩武、吉野の2人のカバーを受けながら共にに守ることとなった状態での彼は、スピード、高さ、強さを存分に発揮し、ンドカ・ボニフェイスの不在を感じさせない素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。
恐らくビルトアップの精度や選手個々の技術ではリーグトップであろう川崎相手に、CBの選手が変わっても流れの中ではやらせなかった。これは自信になると思います。
2.ゲームの質を上げたベテラン2人が産んだ井上潮音のスーパーゴール
そして、この試合を語る上で欠かせないのが伊藤翔、長谷川竜也のベテランコンビでした。この2人がプレスに行く場面、行かない場面、ボールを持つ場面、持たない場面の判断を的確に行ったことで過去2試合のウノゼロよりも更に落ち着いた状態でゲームを進めることができたように思います。特にシャドーに長谷川竜也が入ったことで、彼の戦術眼と技術が攻撃面で時間的・空間的余裕を産み、更にその余裕がチームの精神的な余裕を産み出しました。
全力全速で演奏するばかりだったこの数試合の横浜FCの攻撃に、長谷川竜也という指揮者が現れたとでも形容しましょうか。
そして、この余裕こそが中盤の底で奮闘していた井上潮音に攻撃参加を促します。前節の柏戦でも、押し込んだ位置からのボールロストに対して激しくチャージしてイエローカードをもらうなど、加入当初のイメージを覆しファイター的なプレーも目立つようになっていた井上潮音。しかし、元来はテクニカルなプレイヤーです。守備の仕事に追われながらも、余裕が生まれたことで機を見て最前線まで攻撃参加をしたことが件の先制点に繋がりました。
この先制点の美しさについては、今更言及するつもりはありません。
あの美しい一連のプレーを前に、私の拙い説明など何の意味も持ちませんから。
ただ、チームのJ1通算100得点を自慢の技術の詰まったJ1初ゴールで飾ったことは、チームのために走り、戦うことに徹しているテクニシャンへのサッカーの神様からの祝福なのかもしれません。
3.良く守り、賢く攻める
この試合を振り返る上で、忘れてはいけないポジティブ要素。それは、初めての複数得点での勝利です。
特に前節の柏戦については、良く守るという部分については決死のディフェンスで遂行したものの、攻撃面では山下諒也や林幸太郎の気合のスプリントでのロングカウンター以外に攻め手を見いだせなかったのもまた事実でした。
しかし、このゲームでは長谷川竜也が入ったことでロングカウンター以外にも有機的に選手が絡んだ攻め手を何度か表現出来た上、実際その流れの中から得点を取りました。そして、前節も発揮していた山下諒也のロングカウンターも得点という形で結実できました。2点ともセットプレーではなく、流れの中からの得点であることも価値が高いと思います。
これで良く守るという基本ベースの中に、新潟戦や神戸戦で見せた小川慶次朗のようなハードワーカーを起用したより激しく、テンポの早い仕様と、今節のようなマエストロ長谷川竜也を起用した緩急をつけた仕様の戦い方とバリエーションが増えました。
チームの戦い方が定まり、浸透してきたことで、少しずつ選手たちがそこに自分のキャラクターをアドリブで出せるフェーズに突入しつつあるのかもしれません。
しかし、川崎相手に勝ったとはいえ、貰える勝ち点は3だけです。これで浮かれて次節大敗しては全てが水の泡です。しっかり緊張感をもって、(その前にルヴァンもありますが)次節も大阪でこのサッカーを追求し、確実に自信を積み重ねてきて欲しいものです。