私の好きなもの:ポーの一族
名作、というより聖書のような本。
漫画の神様といえば手塚治虫だけれど、
少女漫画の神様といえば萩尾望都。
(でも、わたしにとっての漫画の神様は萩尾先生なんです)
はじめて読んだのは高校三年の冬。
自動車学校に通っている時で、待合で読んでいた。
学校の図書館にベルサイユのばらがあり、
それがきっかけで80年代の少女漫画を
いろいろ読んでみようと思っていた矢先
名作だと名高いこの作品をたまたま友人が貸してくれた。
そのとき手にしたのが文庫版だったのは、とても幸運なことだったと思う。
ポーの一族というのは、各話の時系列がバラバラで
連載時順に収録されているのものあれば、
話の時系列順で収録されているものもあり、
文庫版は後者だったので非常にわかりやすかった。
この話の掲載順というのは非常に大きな要因であって、
ポーの一族を読んだことはあるけれどよくわからなかった
という方や
これから読もうと考えていらっしゃる方には
強く文庫版をオススメする。
作品のくくりとして、恋愛、ファンタジー、サスペンス、ミステリー
そのすべてが当てはまり、
そしてどれも少しだけ足りない。
「ポーの一族」のジャンルは「ポーの一族」であり、
カテゴライズする言葉をうまくあてることができない。
きっとポーが好きな人にはよくわかっていただけると思う。
あらすじは上記のリンクから読んでいただけると分かるかと思うが、
バンパネラの少年が、
永遠の時を旅する物語である。
いろいろな国、移り変わる時代、そして人間
わたしがポーを好きな理由なんて、
語り尽くそうにも尽くせないのだけれど
繊細な絵と、
詩的な表現がとりわけ大好きなのである。
萩尾先生の指先で描かれる丸ペンの線の繊細さ。
メリーベルの銀の巻き毛や、
意志の強いアランの瞳、
エドガーの葛藤や揺らぎ……
繊細な線のひとつひとつがキャラクターに魂を吹き込んでいて、
どのページを開いてもうっとりとしてしまう。
10年ほど前だったかに、
初めて萩尾先生の原画展に足を運んだとき。
あまりの絵の繊細さと迫力と美しさに、
一点一点圧倒されながらみていたら、
展示を1周するのにいつの間にか2時間半ほどたってしまっていた。
(あまりにすごすぎて開催期間中に2度お邪魔した)
特に小鳥の巣の、アランの靴紐を結ぶエドガーの原画なんて、
もう好きすぎる場面を生で直面してしまったあまり
「ほんものだ……」
とわけのわからないことを口走ってしまっていた。
それほど美しく圧倒的なオーラを含んだ
原画はほか作品の物も素晴らしく、
特に「11人いる!」と「スターレッド」に関しては
冒頭の数ページの原画を見ただけで
その世界観に魅了されてしまい、
会場の物販ですぐに文庫を購入した。
帰り道、
あまりにも足元がふわふわとしていて、
数センチ程浮いているんじゃないかと思う程だった。
その美しい絵の表現にさらに詩的な表現が合わさるのが、
ポーの最大の魅力なのではないだろうか。
この詩的な表現というものをここでうまく紹介したいところだが、
どうやってあの絶妙な言葉のニュアンス、バランスを
伝えようかと悩み考えもう5日も過ぎてしまったので、
これ以上私の下手な説明文で
作品を濁してしまうよりも、
ぜひとも皆さんご自身に読んでいただいて、
確かめていただきたい。
美しく、恐ろしい、
信仰と神話の狭間
中世のイギリスの森深くにある
バラの香りがたちこめる霧の谷
永遠の時間を旅する少年二人の
儚さと 絶望感
この作品には
言葉にできない
神聖さが込められている。
私にとっての聖書である。