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フリーランス総合診療医、島医者になる②『伊豆大島でDr.コトー!離島医療ってなに?』


皆さんは、“離島医療”と聞いてどんなことをイメージしますか?

医者や看護師が少ない、古くて小さい診療所?
島って救急車があるの?入院や手術はできるの??
果たして、島の人々の医療はどのように支えられているのでしょうか?

1.伊豆大島ってどんな島?

三原山から見える伊豆諸島の島々


皆さん、伊豆大島がどこにあるかご存知ですか?
前回お話ししたように、実は私自身も大学病院に入局するまで、東京都に離島があることを知りませんでした・・・(三宅島は聞いたことがあるな、、という程度)。

東京都には、大島・利島・新島・式根島・神津島・三宅島・御蔵島・八丈島・青ヶ島と小笠原諸島の母島・父島の計11島の有人離島があり、総称して東京諸島と呼ばれています。
そのうち大島は伊豆諸島最大の島で、人口は約7,000人(令和4年8月現在)。
東京都心から約120kmの距離に位置し、お台場の竹芝桟橋より高速ジェット船で1時間45分、調布飛行場からのセスナ機だと25分の近さです!

一方で、伊豆諸島で最も小さい島は青ヶ島。
人口約170人、島全体がカルデラの形をしていて、天候が悪いとなかなか島に行くのも難しい、とても神秘的な島なのです。

『東京愛らんど』ホームページより引用 https://www.tokyoislands-net.jp/

伊豆大島の特徴といえば、三原山と椿油。
大島は火山でできているので、海岸の砂浜は黒くてゴツゴツしています。
椿油はドラッグストアで見たことがある人もいるかもしれませんが、料理はもちろん、ヘアオイル、そしてスキンケアとしてとってもお肌にいいんです!

さて、2018年4月。
私はといえば、総合診療科に入局し2年が経過した頃です。
そんな伊豆大島で、ついに私の“Dr.コトー生活”が始まりました。

2.離島医療でできること、できないこと

島南部の波浮港(はぶみなと)


大島に限らずですが、東京諸島には各島に診療所・病院が1つずつしかありません。

大島医療センターは19床の入院ベッドを持つ診療所で、レントゲンやCT、MRIなども備わっているので、他の小離島に比べるとある程度の検査が可能です。
手術室はありますが、全身麻酔を使う大きな手術はできません。
ICUのような集中治療室もありませんので、人工呼吸器管理が必要な重症患者さんも島内で診ることはできません。

大島医療センターには、大島出身の院長・理事長に加え、いくつかの大学病院から内科医1名・整形外科医1名・産婦人科医1名・小児科医1名が常勤として派遣され、合計6名の医師が勤務しています。
研修医も毎月、3、4名は大学病院などから派遣されており、離島の中では恵まれた医療環境と言えると思います。

それに対し、大島・八丈島以外のほとんどの小離島には医師が1人ずつしかおらず、入院することすらできません。

ちなみに、伊豆大島が題材になった漫画本があります!
登場人物の院長と看護師長は、本人達そっくり(笑) ぜひ!
『離島で研修医やってきました お医者さん修行中コミックエッセイ(KADOKAWA)』水谷 緑 著


では、離島の診療所にはどんな患者さんが来るのでしょうか?

伊豆大島の高齢化率は2015年8月時点で35.5%(気象庁資料より)。東京都全体の高齢化率が2022年現在23.4%(東京都HPより)ですから、いかに島の高齢者人口が多いかが分かります。

また、東京に最も近い島であることから観光客も多く、特に夏の時期は若者や家族連れ、釣り好きの人たちで賑わいます。その分、海の事故や怪我で受診する方も多いのです。

釣り針が刺さった、海岸でこけた、ウツボに噛まれた、などは可愛いもので
ダイビング中の溺水や、船釣り中にカジキマグロのツノが足に刺さった(!!)
なーんて、大変な症例もありました・・・

3.ヘリが来ない?!重症患者の劇的救命!

二人の患者を同時搬送する消防庁ヘリコプター


大島には消防本部があり、救急車はあります。(ほかの小離島には無い)
しかし消防本部も医療センターも島の北部側にあるため、南部まで患者さんを迎えに行くには片道20分程度かかることも。

前述したように、島には重症な患者さんが入院できる環境はありません。
なので、たとえば心筋梗塞や脳出血、重症な外傷患者さんが来た場合、私たちは消防庁のヘリコプターを要請して都内に搬送するしかないのです。

では、ヘリコプターを要請してから、島から都内まで患者さんを搬送するのに
どれくらい時間がかかると思いますか?

・・・答えは、約2時間半。一番東京に近い、伊豆大島でさえこの時間です。
小笠原諸島なんかは、自衛隊のヘリを経由して搬送するので、10時間くらいかかります。

ヘリコプターには必ず医師の同乗が必要です。
島の医師が患者さんに付き添うこともありますが、帰ってくるのに時間がかかってしまうので、ほとんど都内の搬送先病院の医師が乗ってきてくれます。
実際にヘリコプターに乗っている時間はおよそ25分間ですが、搬送する準備や、医師のピックアップ、都内にヘリが着いてから救急車に乗り換えて病院に搬送するなどの過程があり、実際には2時間半〜3時間程度かかってしまうのが現状です。

さらに、ヘリコプターは夜でも、雨でも迎えに来てくれることが多いのですが
島の天候はとても変わりやすく、特に濃い霧に覆われてしまった時などはヘリが飛べないことがあります。
消防庁のヘリが飛べない時は、自衛隊のヘリが迎えに来ることもありますが、最近はあまり事例がありません。

例え心筋梗塞や脳出血など命に関わる状態であっても
すぐに大きな病院へ搬送できないこともあるのが、島の医療なのです。
雨が降りしきる夜の緊急搬送


最後に。
私が2年間大島にいた中で、特に印象に残っているエピソードをご紹介します。

それは、私が大島に赴任して半年ほどだった頃。
夕方18時頃、自宅で夕飯を食べていると医療センターから緊急の呼び出しがありました。
急いで駆けつけた私が目にしたのは、10代の男の子が血まみれの状態で診察室で暴れている光景。原付バイクと乗用車との衝突事故でした。

すでに当直で対応していた院長・研修医、そして救急隊員達とともに処置を行い、
人工呼吸器を装着し、CT検査をすると頚椎の脱臼、顔面骨折、脳出血などかなり重症な状態でした。
私は救急医ではないので、実は高度な重症患者の対応は得意ではありません。
それでも、自分がやるしかない、と思うと妙にアドレナリンが出て、その時は不思議と冷静に対応ができたのです。

なんとか都内へ無事に緊急搬送したものの、『対応は抜かりなかっただろうか?後遺症が残らないだろうか??』としばらく意気消沈していた私。。
その数ヶ月後、男の子の容体が安定し、島に戻ってきたお母さんと話した看護師から伝え聞きいた言葉に、嬉しくて涙が出そうでした。

『搬送先の救命センターで、
“大島での初期対応が良かったから助かったんですよ”
って言われたって。お母さん、とっても感謝してましたよ。』

ほぼ一年後に島に戻っていた男の子と再会を果たした時には
感激で男の子を抱きしめたくなった衝動を抑え(笑)、頑張って本当によかったと、心から思いました。


そう、離島医療は、大都会と違って
ヒトも足りない、医療機器も足りない、救急搬送にもとんでもなく時間がかかります。
それでも、それだからこそ。
現場の医療スタッフは全力で島の人々を支えているのです。


お読みいただきありがとうございました!
次回は、私の医者人生の転機となった、大島の在宅医療についてお話ししていきます✨
つづく


Reiko🐋🌺

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