フリーランス総合診療医、島医者になる③『イメージが一変!伊豆大島で学ぶ在宅医療の魅力』
あっという間に10月になり、秋の訪れを感じるようになりましたね。
芋・栗・南瓜が大好きな私には嬉しい季節です🍠🌰🎃
さて、今週も、月一回の伊豆大島への出張へ行ってきました!🛳
毎月1回、一泊2日で、1日目は訪問診療(看護師・ドライバーはいないので、自分で地図を見ながら山道を行く)と、2日目は朝から約50名の内科外来診療をやっています。
帰りの船に間に合わないと困るので、朝からお昼ご飯も食べずに
最終の船の時間ギリギリまで診療し、大慌てで港へ向かい
新幹線(大島→熱海→東京経由で帰ります)で、ビールを一杯やりながらホッとする…
というのがお決まりコースです( ̄▽ ̄;)笑
1.誤解されやすい“在宅医療”のイメージ
ところで、皆さんは“在宅診療”ってどんなイメージがありますか?
正直にいうと・・・
医学生時代の私は、『訪問診療って、なんだか暗くて、汚そうだし、おじいちゃん先生がやっているイメージ』と思っていました。。
今でこそ、コロナ禍でソーシャルディスタンスが意識されるようになりましたが、やや潔癖症な私も、他人の家に靴下で上がるなんてイヤ・・・と思ったり
在宅医療=“寝たきり”、“看取り”のイメージが強かったせいか、
責任感の重さを考えると「自分は訪問診療の道だけは進まないだろう」と思っていました。
しかし、そんな私が、今現在は伊豆大島でイキイキと訪問診療に出かけ、
在宅医療についてもっと勉強したい!と心から思っているのです。
10年前の自分が見たら、腰を抜かしてびっくりすると思います。笑
多くの人は、『病院にかかることが普通で、在宅医療はなんか特別』というイメージがないでしょうか?
実は、病院で働く医療従事者こそ、そう思っている人が多いと思います。
それは、『自分達の職場=“日常が病院”』だから。
病院にいる患者さんは、ほとんどが体調が悪くて救急で受診したり、慢性の病気を抱えて通院していたり、病衣を着て入院している人だったり、“見るからに患者さん”です。
私たち医療従事者にとっては、それが『当たり前の光景』です。
でも、病院に受診する時って、すごく緊張しませんか?
私は医者ですが、患者として病院に行くと、
診察室の白い壁、先生が着てる白衣、初めましての先生はどれくらい親身になって話を聞いてくれるんだろう?とドキドキしますし、
採血や点滴をするのは、やっぱり痛いからやりたくないし、
万が一入院しなければいけない事態になったら、相部屋は嫌だなぁ、隣の人の声が聞こえて気になるなぁ、好きなようにトイレに行ったりご飯を食べたりできなくてストレスだなぁ・・・と感じます。
そう、患者さんにとって、“病院は非日常”なのです。
「そんな当たり前のこと・・・」と思われるかもしれませんが、特に医療従事者はその当たり前のことを忘れがちです。
在宅医療をやるようになって、驚いたことがあります。
それは、いつも病院で会っている患者さんが、ご自宅で会うと全然違って見えるということ。
自宅に行くと、その方がどんな生活をしていて、どんなこと・ものが好きで、逆にどんな心配事があるかに気付きます。
愛犬に囲まれていつもは見せない笑顔を見せてくれたり、沢山の趣味の本が積まれていたり、自分で育てたお花をお部屋のあちこちに綺麗に生けていたり、
逆に、薬ちゃんと飲んでるって言ってたのに実は大量に余った薬剤が出てきたり、自宅の中の段差が多くて転びやすい環境に気付いたり、いつもは一緒に来ないご家族との複雑な関係が見えたりもします。
2.離島の在宅医療、できること・できないこと
では、離島の在宅医療ではどんなことをやっているのでしょうか?
診療所で在宅医療をやるには、細かい決まりが色々あるのですが、今回は難しい話は置いておきます。
在宅医療を受ける患者さんは、ほとんどが高齢の方で、認知症や老衰により通院ができなくなった方や、末期のガン、肺や心臓疾患の患者さんなどが多いです。
そして、診療所のスタッフのほか、ケアマネージャー、訪問看護師、ヘルパー、薬剤師、理学療法士(リハビリ)、町役場、支庁、地域見守り隊、ご近所さん(島ではご近所さんとの繋がりが特に強い!)、etc…と
数々のプロフェッショナルなスタッフが連絡を密に取り合いながら、患者さんにより良い医療・ケアを提供できるよう連携しています(多職種連携)。
在宅で過ごす患者さんの中には、一人暮らしの方もいます。
日ごと・時間ごとにスタッフが順番でご自宅に伺い、一人でも在宅医療を実現することが可能です。
ただ、以前にも書いたように、離島医療は圧倒的にスタッフの数が足りません。
訪問看護師も、都内であれば24時間体制で待機が可能ですが、伊豆大島では夜間の緊急訪問が難しいのが現状です。(医師は可能)
私自身も、毎月一回の訪問しか行けないので、私がいないときに患者さんに緊急事態が起きた時は、島の診療所の先生方や、ケアマネ・訪問看護師などに遠隔で対応をお願いするしかありません。
3.ネコが障子にダイブ?伊豆大島の在宅医療
伊豆大島に来る前は、まだ在宅医療に苦手意識を持っていた私。
2年間も伊豆大島での診療を続けていたので、自分の外来に通えなくなった患者さんのところへ、自然と訪問する機会が増えました。
“病院は24時間スタッフがいるから安心、できれば入院させてほしい”
“在宅で急激に具合が悪くなったときに不安だから、やっぱり病院がいい”
というのは、誰でも思うことだと思います。
でも、医師も看護師も、24時間、一人の入院患者さんに付き添うことはできません。
たとえ亡くなる瞬間であっても、心電図モニターでそれを確認はできますが、
亡くなるまさにその瞬間に、隣にいてあげられれないこともあります。
自宅での介護、看取りは、家族にとって本当に大変なことです。
いくら様々な医療サービスを使ったって、やっぱり気軽に自宅を離れられなかったり、夜中に何度も目が覚めたりするでしょう。
それでも、
『ご飯は食べないけど、アイスだったら口を開けてくれる』
『電気カミソリは好きじゃなくて、泡立ててシェービングしてあげると喜ぶ』
『大好きな愛犬たちと、庭を眺めながら過ごさせてあげたい』
そうした自宅でこそできるご家族のケアは、どんな医療にもかなわないと思うのです。
もちろん、在宅医療が全てではありません。
在宅医療が成り立つのは、家族の介護力が十分あること、また、医療サービスが十分提供できることが前提です。
大事なポイントは、“在宅か病院のどちらかが正しいということではない”、ということです。
特に離島では、患者さんと診療所の距離が近いので、診療所で最期を過ごすことが安心だったりもするのです。
看護師たちが、声をかけ、体を拭き、“まるで自宅にいるように”過ごさせてあげられることも、島ならではだと思っています。
在宅医療の話になると、ついつい長くなってしまいました💦
最後に、伊豆大島の在宅医療で関わった患者さんたちとの、ちょっとしたエピソードをご紹介。
褥瘡(床ずれ)の処置で毎週訪問していた、ある患者さんのおうち。
障子がところどころ破けていて、どうしたのかしら?と思っていたら
『猫がダイブするんです…』と言われた時の衝撃。
(ダイブの瞬間を想像すると可愛くて笑ってしまう🐈)
愛犬たちと過ごすお部屋に初めて訪問すると、見たこともない大型犬がほのぼのと、ピッタリご主人に寄り添っていたり。
(なんと、まるまると太った柴犬ちゃんだった🐕)
夜中に緊急で呼ばれ自宅でお看取り、ご家族と一緒に体を拭いてお洋服を着せて
コーヒーとチョコレートをいただきながら、患者さんの思い出話に花を咲かせたり。
(看取りの暗いイメージが良い意味でぶち壊された!)
話は尽きませんが、
この記事を読んでいただいた皆さんにとっても、
『在宅医療って思ってたのと違う!』と新たな発見がありましたら幸いです。
では、今日はこの辺で!
つづく
Reiko🐋🌺