先輩と僕1 食欲の秋
会社の昼休憩、いつものようにコンビニ弁当を広げて、僕は一人、資料室で昼食を食べていた。
季節は秋。食欲の秋フェアだなんて謳い文句で売り出されていた弁当だが、疲れた体と、乾いた食材に箸はなかなか進まない。最近こんなことが続いているものだから、体重がすこし落ちていた。
不意に資料室の扉があき、女性の先輩が顔を覗かせた。僕が先に弁当を食べているのを見つけると、笑顔で手に持った弁当箱を見せてくる。僕はその意味するところを悟って、向かいの席を勧めながら、ちょっとした幸運に顔が緩みそうになるのをこらえる。昼休憩の時間が合うと、たまにこうして昼食を一緒にすることがあった。先輩と二人で過ごす休憩は、それほど悪くない。
先輩は家で作ってきた手作り弁当。弁当の中身の話から、普段の食生活の話へと会話が続く。最近痩せた? 先輩は最近食がよく進みますね。食欲の秋だからね。激務で食欲どころじゃないですよ。それ、笑えないし。・・・・・。
やがて食事も終わりに差し掛かる。楽しい談笑の時間を名残おしく感じていると、自分の弁当に差し出されるものがあった。さつまいもの煮付け。向かいの席の、お弁当に入っていた一切れだった。
「すこしでも栄養あるもの食べないとダメだよ。それでも食べて、元気だしなさい」
わざとらしくおどけた口調と、いたずらっぽい笑顔。自分が気遣われていることに、少しの嬉しさと、情けなさが同時にこみ上げた。
複雑な気持ちになりながらも、その気遣いにありがたく甘えることにする。一言のお礼と、いただきますを言ってから、そっと口に入れた。ゆっくりと噛む口の中に、さつまいものホクホクした食感と、噛むたび染み出てくる砂糖醤油の味が広がる。鼻にはほんのりとさつまいもの甘い香りが漂い、秋が口いっぱいに染み込んでくるようだった。
思う存分味わってから、ゆっくりと飲み込む。ため息が、思わず口から漏れた。
「・・・うまいです」
「それは良かった」
今度は素直な笑顔がこちらに向けられる。その小春日和を連想させる笑顔に、体の中がふわふわとした暖かさに包まれた。
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