「ここ、どうぞ」
新春の陽光が差し込む電車の中、デートの移動中。
冬にしては暖かいその陽気についうとうとしていると、ふと、正面から差し込んでいた陽がかげって目を開ける。もたれかかっていた彼氏の肩から顔を上げると、正面に、おなかの大きな女性が立っていた。
右手はつり革を持ち、左手には買い物袋。そしてそのわきに、三歳くらいの男の子が母親につかまって立っていた。
私はすぐさま、彼氏の手を引く。無言でその意味を悟った彼は、私と一緒に席を立った。
「あの、よかったらここどうぞ」
「あら、大丈夫ですよ。二駅乗るだけですので」
「いえ、私たち、次の駅で降りるので、少しでもどうぞ」
軽い押し問答の後に、女性とその子どもが席に着いた。それを見送り、次の駅で電車が止まると、私は彼と一緒に電車を降りた。
そのまま、隣の車両へ移動。
扉が閉まり、電車が発車したところで、彼氏が苦笑いしながら声をかけてきた。
「降りる駅、あと五つくらい先だろ」
「いいの。あの人、大変そうだったから」
これで少しでも、あの人の負担が減ればいい。そう思って、隣の車両からこっそり先ほどの席を覗き見る。連結扉の向こう側にはしかし、先ほどの女性の立っている姿があった。
代わりに、一人のおばあさんが、子どもの隣に腰掛けていた。
前の駅で乗ってきた人なのだろう。今日初めて会うはずなのに、その女性も、おばあさんも、子どもも、家族のように笑いながら何やら会話をしている。その様子が、差し込む陽光に照らされていた。
彼氏も私の視線を追いかけ、同じものを見つけたようだ。顔を見合わせると、二人して思わず笑顔になる。
春のように暖かい、年明けの日の出来事。
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今さらですが、あけましておめでとうございます。
久しぶりの投稿は、先日乗った電車の中での体験をもとに書いてみました。
今年は人の温かさに感謝し、感謝されるような、そんな一年にしていきたいと思います。
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