不毛な業界だからこそ、私みたいな異分子の先生がいた方が子供達は幸せだと思う。
今週はほんとにいろんなことがあって、自分のことではなく保育園の子供達や先生達や保護者様のことで、心が痛んだり悩みを抱えることが多かった。
そんな中、また国内の保育園で痛ましい事故が起こった。
1歳の園児の食事介助をしてた保育士が「好き嫌いなく時間内に食事を終わらせる」と、嫌いな物を口に入れた状態で次の物を食べさせた際の窒息死。
嫌がってのけぞって大泣きしたとき、口に入れた物が喉に詰まって赤ちゃんが亡くなった。
心が痛むのと同時に、なぜこういう事故が起こるのかが保育士の私には手に取るようにわかる。
正直、「好き嫌いなく時間内に食事を終わらせる」は日本のほとんどの保育園の暗黙のルールなので、いつこんな事故が起こってもおかしくないと前から思ってた。
なぜなのか?を、書こうと思う。
まず、日本の園ではこれが当たり前になってる現実がある。
「好き嫌いなく」が大前提なので好き嫌いは基本的に許されない。
保護者様も
「保育園なら先生が食べさせてくれるから、家で食べないものも食べて弁当箱が空になってる」
と期待し、お子さんが家では食べない嫌いな野菜などを、いっぱい弁当箱に詰め込んでくる保護者様が少なくない。
小さいお子さんは、それを泣いて吐き出しては先生に口に入れられ、泣いて吐いて怒られて入れられてを繰り返しながら食べ、最後は本当に嘔吐してしまうこともある。
私みたいに見かねてこっそり「よく頑張ったね。無理なら残していいよ」と言うような先生は、他の先生にこっぴどく怒られる。
「⚪⚪先生なら食べさせてくれるから」と保護者様に期待されてる先生達は使命感に燃えて、吐きそうなお子さんを叱って叱咤激励しながら、完食するまで許さず食べ物を口に入れ続ける。
そういう子がトイレで吐くのを私は何度も見たが、先生達はそれが躾であり園に期待されている役割だと信じて疑わない。
繰り返すが、そうしない先生は他の先生にこっぴどく怒られる。
私だったら、こんなこと強制されたら園を脱走するし(じつは4歳のときに本当にやったし)、嫌々やってるから相手を見て裏表のある子になるので躾には逆効果だと思う。
あと、私の好き嫌いは小学校に上がってうるさくいう人がいなくなった途端、自然に治って何でも食べる子になった。そんなもんだと思う。
が、なぜか保育業界では虐待と変わらない食べさせ方が普通の躾になっている。
もうひとつが「時間内に食事を終わらせる」に潜む保育業界の裏事情の不毛さと人手不足。
子供の食事が終わらないと、昼食のすぐあとの大仕事「歯みがき」「寝かしつけ」「午睡(昼寝)」「連絡帳」が時間内に出来なくなり、ひいては安全な保育が出来なくなって事故や虐待に繋がりやすいという背景もあるのだ。
寝ない子達が走ったり大声出したり暴れまわる中での子供達全員の寝かしつけの大変さはいうまでもなく、全員が寝なければ連絡帳が書けないし、早朝から働く保育士達は食事すらとれない。
ほとんどの保育園には保育士の休憩時間はない。(私の今の園はある)
子供が寝てるうちに、限られた短時間で連絡帳を全員分書き(お返事が難しい保護者様からのご相談やクレームもある)、事務仕事やおもちゃの消毒をし、起きて泣き出した子や発熱・嘔吐した子の世話をし、製作などの準備。
ご飯を食べれるのはスキマ時間。子供が泣いて起きたらそこで食事終了。
何かあって人手が足りずに連絡帳が終わってないと、保護者様からは問い合わせやクレームが入る。
何か起きるたびバタバタするので食事をとれない先生もいるし、休憩時間のある良心的な園ではほぼ必ず、職員を休ませるために園長先生が自分の休憩を削っていたりする。
私は保育士をやってて、これが恐ろしくてたまらない。
保育士が早朝から一刻も休む暇なく、傷がいのあって特別な配慮が必要なお子さんを含む不特定多数のお子さん達を(一人一人の発達や心身の状態を考慮しながら)お世話。
とてつもない注意力・体力・指導力・こまやかな配慮・機転や発想力が必要な仕事なのに、食事や休憩もままならないって…
これでは保育士の注意力や精神力が持つとは思えないし、思考停止や感覚の麻痺なんて簡単に起こるだろう。
けれど、職員が足りないのでそうしないと業務が回らない園が多い。
それで何事も「時間内に早く!早く!人が足りないし、次が出来なくなるからみんな困るのよ!」と、先生も子供も常に急かせれていたら…
同じような事故や虐待が国内の園で続くことが、全く不思議ではなくなる。
なんて不毛な悪循環が出来てしまっているんだろうか。
たまにそのようなことに問題を感じた若い園長先生が、自分で子供に理想的な保育園を立ち上げることがある。
私が以前にベビーシッターしたご家庭も、そんな園にお子さんを通わせていらっしゃった。
ところが、保育業界は求人をかけても来る人があまりいないので、先生を選ぶのも人手不足で難しい。
そこの園も、入ってきた先生がことごとく普通のブラック保育園の平均的なブラック保育をするおばさん先生や、それに染まらざるを得なかった若い先生だったそうで、ブラック化してうまくいかず閉園したそう。
似たような話をよく聞くし、東京の保育園の園長先生は、大体1~2年で辞めて替わり、園のシステムから方針から何かまで変わってしまう場合がとても多い。
そういう不毛をずっと見てきてるから、事件を読んだときも、ああ…またか…と、本当に心が沈んだ。
そんな不毛な業界になぜ私がいるのか?
それは簡単で、不毛だからいる。
言い替えたら、そんな大人の業界事情の不毛さの犠牲になる子供達を助けるために、私は今はまだ保育業界にいるのだと思ってる。
「いくよ先生がいてくれてほっとした」と、子供達や保護者様から(あるいは他の先生から)言われることが、なぜか私はとても多い。
まだ私には、ここでやること・できることがあるのだと思ってる。
ジレンマなんて毎日だし、子供達の心の痛みを感じたり、心が痛むことや責任の重さにきしむことは、正直この仕事はとても多い。
私なんて正直、普通に考えて保育士には好かれない保育士だと自分でも思う。
だけど、私がいることで楽しいと思ってくれたり幸せな気持ちになってくれる子達がいるなら、いて良かったと思ってくれる人達がいるなら、まだ頑張ろう。
明日の私の音楽レッスンのピアノでも練習するかな。
Ikuyo Matsubara