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#1

同じ教室にミステリー作家がいたら良かったのに。
よくそう思う・・・


「西尾、今日は何するんだ?」
同じ高校の悪友である辰巳と牧田がそう話しかけてきた。いつも通りに。
悪友という言葉は悪い友達という意味だけではなく、悪いことも一緒にできるくらい仲のいい友達のことも指すらしい。今回は後者だ。
辰巳も牧田も小学校からの友人になるが、みんな部活に入っていないので放課後は一緒にいることが多い。家の方向も同じなので最寄り駅までは一緒だ。辰巳は素直で良い奴だ。5人兄弟の長男でよく弟たちの面倒を見ている。ペットも何匹かいた気がする。要は大家族。牧田はおしゃれな奴だと思う。よく制服を着崩している。制服を着崩すことがおしゃれだと思うのは今だけなんだろうな。

その日も3人で帰ろうとしていた。2月3日、ちょうど春分の日だ。
春分の日ってちょうどなのだろうか。僕は考える。
ちょうど電車に乗ろうとしたとき、辰巳が言った。
これはちょうどだ。
「あっ、俺今日は寄らなきゃいけない場所あるからみんなと逆方向の電車だ。二人ともじゃあね。」
続けて、牧田も言う。
「やべ、俺もだ。ばいばい西尾。」
「そっか。またね二人とも。」電車に乗りながら僕も返した。

次の日、教室に入るとなんだか騒がしかった。
「盗られたんだって。財布。」
「え~、本当?」
「怖いね。」
他クラスの男子が財布の盗難にあったという話題で持ちきりらしい。
高校生だからそこまでの額ではないらしいが、奇妙なのは財布の中身だけ抜き取られて、財布自体は本人が気づかない間に返ってきていたらしい。
そして、その中身には見覚えのない紙が入っていたらしい。

”How many?”

そう書かれていたという。


一日中はその盗難の話でもちきりであった。
どうやらその男子は、バスケットボール部で僕らとは逆方面の電車らしい。前日も部活が終わるとまっすぐ家に帰って、次の日の朝、財布がないことに気づいたという。定期は別だったので登校はできた。そこで学校に着いて1日過ごす。警察にも連絡してみたが、何も届いてなかったらしい。なんと、帰宅するときにはロッカーの中に入れてあるカバンの中に財布が返されていたというのがことの顛末である。つまり、その男子の最寄駅から家の間に盗られて次の日のうちに隠れてカバンの中に返されたというのがこの犯人がしたことだろうと考えられる。おそらく残した謎のメモを書いたのも。

しかしわざわざ”How many?”と残すのは何故なのだろうか。
牧田が言った。「”How many?”って何だろうね。"いくつある?"ってこと?お金なら"How much?"が自然だよね。」
全くもって同意見だ。
「意味なんかないんだろうな。遊び心だろ。」辰巳が返答する。
これにも同意見。
「駄洒落かな」牧田が言う。
「盗難事件とは言え、少額だし犯人捜しは難しいかもね。手がかりも少ない。」僕がそう言って三人は分かれた。


名探偵ならこんな事件簡単に解くのだろうと僕は思う。
こんな風に

"How many?"は犯人が自分の苗字で言葉遊びをして残していったメモなんだよ。こういうヒントみたいなものを置いていく犯人は得てして承認欲求が高いから自分の情報に通じるかもしれないし、今回は通じていると考えていいだろう。
まず、"How many?"は"いくつ?"ではなくて、"何頭?"を意味する。
"何頭"は"南東"と言い換える。駄洒落だね。そして、"南東"は古く干支を用いて"辰巳"と表されていた。
ペットを飼っている辰巳は"How many?"が”何頭?"を意味することを知っていた。
加えて、辰巳は前日に"ちょうど"よく逆方向の電車に乗っていた。家族も多くてお小遣いを稼ぎたかったんだろう。

だから、犯人は辰巳だ!



でも、現実は違う。その男子のカバンの中に財布は入っていて、探すのを諦めるのが早すぎただけである。誰にでもあるだろう。財布の中身だけは誰かに盗まれてしまったのだろうけど、それは本人の不注意と言わざるを得ない。おそらく、バスケ部の誰かか同じクラスの奴だろう。要は誰でも盗めたんだ。お遊び半分か度胸試しか先輩に言われてか。動機なんていくらでもあるだろう。時間も授業中でも部活中でもチャンスはあったんだ。



ある日、辰巳が、話しかけてきた。「なぁニシオ、How many salts do you have?」


僕はニヤリとして返事をする。

「Two salts.」


同じ教室にミステリー作家がいたら良かったのに。
犯人にも探偵にもなれるそんな人物が。




あとがき
ニシオとマキタとタツミはそれぞれ方角を表すものが含まれるか表す苗字となっていました。探偵と犯人を同時に動かせる高次元の人間っていいよね。


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